ドラゴン、小型化(つおい)する。
ふぅ。
ボクとオリビアは学校の屋上で一息ついた。
襲い掛かってくる亜竜さんたちをしりぞけて、フローレンス女学院はいったんの平穏を取り戻していた。
怖い思いをして落ち着かなくなってしまった子には、先生たちや上級生たちが個別にケアをしている。
なにか怖いことに巻き込まれた子供は、ぎゅうって抱きしめてあげること。
黙って、そばにいてあげること。
それが大切だと、『厄災と子育て』という育児書で読んだ。
ボクもそれを実践するべく、オリビアの近くに寄り添っている――ただし、ドラゴンの姿のままで。
人間の姿に戻ろうとしているのだけれど、うまくいかない。
オリビアを守らなくちゃっていう気持ちが強くて、ちょっと力を出しすぎちゃったみたいだ。こんなにガオーって気持ちになったのは、はじめてだ。
もうちょっと気持ちが落ち着いたら、人間の姿にもなれると思う。たぶん。
「オリビア、怖くなかったかい?」
「うん。パパがいてくれたから、大丈夫っ! ……でも、もしもパパが学校にいなかったら、オリビアもすっごく怖かったとおもう」
「そうかぁ」
オリビアの忘れものを届けに、たまたま学校に来ていて本当によかった。
「うん。でもね、お友達もへいきだったから、ちょっと安心してる」
えへへ、とオリビアが笑って見せてくれる。ボクを気遣っているのかも。
いい子だなぁ。
実際、学院は無事だった。
セラフィちゃんの庭園魔術というのは、けっこうすごいみたいで、亜竜さんたちの火の弾攻撃も(ついでに、ボクが思い切り吠えてしまった衝撃波も……)しっかりと防いでくれたみたいだ。
理事長先生でエルフの賢女王さんのフィリスさんの障壁は、校舎をしっかり守ってくれたみたいだし、壊れてしまったものやケガをしてしまった人はいないみたいだ。
――よかった!
「パパ、まだドラゴンのままがいいの? 大丈夫?」
「うん、ありがとうねオリビア。大丈夫だよ。大丈夫だけど……」
ボクは、屋上のうえで大きなドラゴンの体を縮こまらせて座り込む。
「す、すごいですわ! まさかオリビアのおじさまがドラゴンだったなんて!」
「僕も驚きです……しかも、言葉をしゃべっている……古代竜様なのでは……?」
「ほんとにいたんだ、古代竜……しかもそれが、オリビアのパパなんて……かっこいい……」
周囲に、人がいっぱい!
オリビアのお友達や見覚えのない生徒や先生たちが、ボクとオリビアをきらきらした目で見ている……は、恥ずかしいなぁ。
こんな大きなドラゴンの姿で、怖がられたりしなきゃいいけど。さっき、がおーってやっちゃったし。
「は、はわあ……!? エエエエ、エルドラコさん!?」
「あ、フィリスさん」
生徒たちのケアの指揮が終わったようで、白い衣をひらひらさせて塔のてっぺんまで登ってきた理事長のフィリスさんは……ボクを見て「ななな!」と目を白黒させる。
「しゃべっている……こ、こ、古代竜……ですって!?」
「あ、えーと。はい、長生きしていて、ドラゴンです……」
「な、なっ」
「あの、黙っていてすみません。でも、オリビアはボクの大切な娘ですけどニンゲンなので、学校を追い出したりはしてほしくないっていうか……」
「追い出すわけがないでしょうっ!? オリビアさんは本当の本当に純然たる【竜の御子】……古代竜の魔力を間近で吸収しながら育った娘なんですから!! というかっ」
「……というか?」
「相手が古代竜に竜の御子だったら……わ、わたくしがその、かつて偶然! たまたま! 敗北を喫したことは仕方ないというか、まあわたくしも調子が悪かったことですし……」
もにょもにょと喋るフィリスさん。
もしかして、前にオリビアの【王の学徒】選抜試験をうけたときのこと気にしているのかな? 全然、気にしなくていいのに。
まだまだもにょもにょしているフィリスさんに、黒い女の人が近づいて、肩に手を置いた。
「待て、フィリス……これは好機かもしれない」
「あわっ! え、エスメラルダ! べべべ、べつにわたくしは古代竜相手といえども大敗を喫したわけではないのですわよ!?」
「ああ、わかってるわかってる。フィリスは昔から争いごとは専門じゃないのはよく知ってるさ」
「え、エスメラルダ……」
「だから、守護と加護の賢女王が荒事で敗けたからといって馬鹿にしたりはしないさ。大敗北を喫したからと言っても、な」
「だーかーらー! 負けてませんって!」
フィリスさん、いつもよりテンションが若々しい気がする。
エスメラルダさんって人と、お友達なのかな?
「……偉大なる古代竜よ、我らに力を貸してくれないだろうか」
「え!? あ、いや……そういうのはちょっと。その……名前! 名前で呼んでもらえると」
「名前……エルドラコ、でよろしいか」
「ええ、ボクはただのオリビアのパパなので!」
「ただのパパじゃないよ、すごくかっこいいパパだよ?」
「オリビア~!」
「えへへ~」
「……緊張感がないな? まぁ、いい。エルドラコ殿、どうぞあなたのそのお力によって、このフローレンス女学院を守護していただけまいか?」
「しゅ、守護?」
守衛さんってことかな!?
エスメラルダさんは、うーむと腕を組んで……傍らにちょこんと立っているリュカちゃんをちらりと見た。
「と、申しますのも――」
「……エスメラルダ?」
フィリスさんが、エスメラルダさんの袖をちょいちょいと引っ張る。
「ここは、子どもたちの目があります……続きは、理事長室で」
「ああ、そうだったな。ただし、このリュカも同席させてもらっても? リュカの秘密も、今回の謎の奇襲にかかわりがあるだろう」
「ええ、もちろん。オリビアさんも一緒がいいでしょう、当事者ですからね」
「そういうことだ、リュカ」
「はい、師匠!」
先ほど体から出て来た大きな剣をすっかり体におさめたリュカちゃんが元気に返事をする。
ボクの横で、オリビアがこてんと首をかしげる。
「とーじしゃ?」
「ああ。詳しくはあとで話そう……しかし」
エスメラルダさんがボクを見上げてため息をついている。
え、なに?
「……その巨体では、理事長室はおろか校舎にも入れんだろう」
「あっ」
「人間の姿にはなれないのですか、古代竜」
「うーん」
ちょっとやってみたけれど……うん、うまくいかない。
さっき、本当にカッカしちゃったんだなぁ……。
ボク、うっかり。
「パパ、小さくなれないの?」
「あ! 小さくならなれるかも」
「……へ?」
むむむ~っと集中。
校舎と同じくらいの大きさだった体が、しゅるると縮んでいく……うん、これくらいかな。
「わあ、パパ……ちいさい!!」
「わわ、オリビア!」
「えへへ、ぎゅってしやすいねっ!」
いきなり抱きつかれて、おっとっととなる。
普段より小さいボクと、大きく成長してきたオリビアを感じた。
「ふむ……ちょっとした大男くらいの大きさならば、理事長室に入れますわね」
「ううむ。身体の大きさも自在に変えられる……魔術や魔法というよりも、もはや神話級だな」
フィリスさんとエスメラルダさんが顔を見合わせた。
さて。理事長室で、話し合いだ。
……でも、何を話すんだろう?
ボクが学院の守衛さんになるのはいいとして……リュカちゃんの秘密って?
感想やポイントありがとうございます!!!
とても嬉しいです!!!!
(お返事遅れててごめんなさい)
はやくイントロを描き終えて学園編をはじめたいという気待ちです!!!
 




