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ドラゴン、娘の誕生日を祝う ~パーティの準備をしよう~

 魔王さんは、ボクに一冊の本を持ってきてくれた。


 それは、魔王さんが愛読している絵本……というか、「マンガ」という魔族の読み物で、「アイサレ系うっかりヒロイン」が「イケメン系幼馴染のカノジョ」にお誕生日のサプライズパーティーを開いてあげるという内容だ。


 マンガをぱらぱらと捲りながら、「あうぅ~」と身もだえる魔王さん。



「あうぅ、何度読んでもいい……尊い……」


「おおお、これが誕生日パーティーなんだね」



 ボクも読ませてもらう。

 ケーキに、飾りつけに、おいしそうなごちそう、箱に入ったプレゼント。

 これが、誕生日パーティー!



「とっても楽しそう!」


「じゃろ、じゃろ! きっと、オリビアも喜ぶとおもうよ、我は!」



 きらきらと目を輝かせている魔王さん。

 作戦会議のおともに、お茶を淹れてくれているクラウリアさんも「うんうん」と頷いてくれている。



「よろしければ、マレーディア様と私で部屋の装飾の準備はしましょうか」


「おおお、いいんですか!」


「もちろんです……というか、古代竜さんに任せると、とんでもない宝玉やら秘石やらを飾りつけに使いそうですし……」


「え?」


「いえ、なんでもないです。さあ、折り紙のわっかをたくさんつくりますよ~!」


「うむっ、言っておくが我はかなり上手いぞ」



 と、胸をはる魔王さん。



「おお~、オリガミノワッカ!」



 なんだろう、それ!



***



 誕生日パーティーについての講義を魔王さんとクラウリアさんからみっちりとうけたボクは、街へと繰り出していた。

 オリビアに渡すプレゼント、といってもすぐに思い浮かばなかったのだ。

 サプライズ誕生日パーティーの決行は、明日。

 時間がない。



「あら! オリビアのおじさまなのっ」


「やあ、ルビーちゃん」



 そういうわけで、ボクがやってきたのはオリビアの同級生であるルビーちゃんの実家のお店。リリアント宝石店では、今日もルビーちゃんがきびきびとした動きでお店を切り盛りしていた。



「実は、オリビアの誕生日を初めて祝うことになって」



 そう打ち明けると、ルビーちゃんは紅い目を丸くした。



「もしかして、あの……失礼なのですが、オリビアはおじさまの実の娘さんではないということですの?」


「うん」



 ボクは正直にうなずく。

 まさか、「ボクはドラゴンで」というところは話せないけれど。



「でも、オリビアはボクの大切な娘だよ」



 と、ボクは胸を張る。

 ルビーちゃんはじっと何かを考えこんでいる様子だった。



「ルビーちゃん?」


「……あ、失礼いたしました。お客さま! ちょっと、なんだか、わたくしも父に会いたくなってしまって」



 と、にっこりと笑うルビーちゃん。



「さあ、大切なお友達の誕生日プレゼントということでしたら、このルビー・リリアントが腕によりをかけて選ばせていただきますの!」


「うん、お願いするよ!」



 ああでもない、こうでもない。

 ボクはたっぷり数時間悩んだ。その間も、ルビーちゃんは嫌な顔ひとつせずにプレゼントを選ぶ手伝いをしてくれた。


 最終的に、ボクが選んだのは金の鎖だった。

 きらきらしたものではなく、こっくりと深い色の金をつかったカッコいい鎖。


 オリビアの麦色の髪によく似た色だ。



「どうだろう、オリビアよろこんでくれるかな」


「もちろんですのっ!」



 ボクの言葉に、ルビーちゃんは前のめりで手を握る。



「これ、このあいだお買い上げいただいた、紅い宝玉に映えるはずですの!!」



 ボクの瞳に似ていると、オリビアが選んだ紅いブローチ。

 ボクからオリビアへの、贈り物。



「そ、うかな」


「絶対そうですの!」



 熱弁するルビーちゃんに、ボクはちょっと嬉しくなってしまう。

 こんなに一生懸命、選んでくれて――オリビアはお友達に恵まれているんだな。


 とっても綺麗な箱に入れられた金の鎖。

 ボクはそれをそっと手に取って、しげしげと見つめる。

 箱にかけられている赤いリボン。それを、わくわくと解くオリビアを想像する。

 それだけで、胸がほこほこしちゃった。



「ありがとう、ルビーちゃん」


「いいえ! あ、その……」


「うん?」



 店の前まで見送ってくれたルビーちゃんが、何か言いたそうにしている。

 どうしたの、と声をかける。ルビーちゃんは周囲に他に人がいないかを気にするみたいに、ちらちらと視線を動かした。



「あの、実はわたくしも、リリアント家には分家からの養女として参りましたの。本当は、いまは無くなってしまった分家の生まれで……それで、お父様やお母さまが『ルビーは自慢の娘だ』って言ってくださっても、あまり信じられなくて」



 ぽつり、ぽつり、とルビーちゃんが話してくれる内容に、ボクはうんうんと耳を傾ける。

 きっと、初めてほかの人に話すようなことだと思うから。



「それで、おじさまとオリビアが店にいらっしゃったとき、とっても羨ましかったの……仲がよさそうで、とっても幸せそうで。だから、本当はふたりが血のつながらない家族って聞いて」


「うん」


「私もお父様とお母様に甘えてみてもいいのかもって、思っちゃいましたの。私がきちんとしようとすればするほど、お母さまは悲しい顔をするのを、思い出したんですの」



 と、一生懸命に話していたルビーちゃんが声を震わせる。



「すこし、怖いけれど……」


「そっか。ルビーちゃん、きっとお父さんもお母さんも、ルビーちゃんが甘えてくれるのを待っていたのかもしれないよ」


「……っ、はい」



 ありがとうございました、とルビーちゃんは丁寧に頭を下げた。

 きっと、ルビーちゃんはお父さんとお母さんの期待に応えようとして、頑張っているんだな。ボクは、ルビーちゃんの残りの休暇が楽しいものになるように、心から祈った。


 さあ、パーティーの準備はまだまだこれからだ。



「よぉし、家に帰るぞぅ」



 町はずれにやってきて、ドラゴンの姿になると草むらから「ぎゃーー!!」という声が聞こえる。ふっと見ると、包帯だらけの男が何人か腰を抜かしていた。


 あ、オリビアにひどいことをしたやつらだ!



「……がおー」


「ぎゃふ」



 ボクが精いっぱい怖い顔をして吠えると、全員泡を吹いて倒れてしまった。

 うん、これで少しは懲りてくれるといいな。




***




「あうぅ~、クラウリア、もっと右、右ぃ~」


「こうですか、マレーディア様」


「おおっ、いいぞクラウリア。そのまま、そのまま~」



 家に帰ると、食堂の飾りつけが行われていた。

 クラウリアさんに肩車された魔王さんが、いっぱいに手を伸ばして色とりどりの飾りを窓枠にかざっている。



「わあ、すごくきれいだねっ!」



 ボクが思わず手を叩くと、クラウリアさんに担がれたまま魔王さんはえっへん!と胸を張った。かなり頑張ってくれたみたいだ。



「ふふん、我にかかればこれくらいは……」



 ……あれ?

 でも、これって。



「でも、魔王さん?」


「あう?」



 ボクは、あることに気が付いた。



「パーティーって明日だよね……いま飾りつけしたら、今日の夕食のときにオリビアに見られちゃうかも」


「あ、あうぅ~~~!? し、しまった、どうしようクラウリア~~っ」


「大丈夫ですよ、マレーディア様。いまのはそう、予行練習ですっ!」


「はっ! そ、その通りであるっていうか、クラウリアも飾りつけしようって言っていたではないか~~!」


「も、申し訳ございません。私もちょっと浮かれており……!」



 わたわたと片づけを始める魔王さんたちに、ボクは大笑いしてしまった。

 オリビアは庭の薬草園の手入れと、魔導書図書館の虫干しをしている。


 もうそろそろ、帰ってくるころだ。



「ボクも手伝うよ」



 机の上の、色とりどりの飾りを丁寧に袋につめこんだ。

 明日、本番の飾りつけをするのが楽しみだな。


 ああ、あともうひとつ。



「あ、それから。魔王さん?」


「あう? なんだ、古代竜」



 ボクは魔王さんにお願いをする。

 どうやら魔王さんの頭の中には、図書館の膨大な書籍や魔導書の目録が頭に入っているらしいのだ。



「ケーキの作り方が書いてある本、教えてもらってもいい?」



 明日は、パーティー本番。

 飾りつけの準備も、プレゼントの用意もばっちり。

 オリビアの大好物ばっかりを並べたディナーの仕込みもできている。



「おおっ。手作りケーキっ! それは我も楽しみ……こほんっ、ま、手伝ってあげなくもないけどねっ!」


「うん、ありがとう。魔王さん」



 そう。

 パーティーの準備は整っている。

 あとは、オリビアのために……ボクがケーキを作るのだ!

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次回、オリビアの誕生日パーティ編ケーキ作り。

とっても楽しい時間になりますね♪


***



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[気になる点] もしかして、魔王さんは百合が好きなのか?!
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