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ドラゴン、喫茶店にいく。

 オリビアに手をひかれて、街を歩く。



「ねえ。見て、あの親子!」

「わあ、可愛いっ」

「役者さんかなにかかな?」



 と、ときおり噂されるのがくすぐったい。

 お洒落をするのははじめてだけれど、オリビアの選んでくれたジャケットを着て歩くのは誇らしい。たのしい気持ちが、服ひとつでもっと盛り上がるのをはじめて知った。



「あのね、パパ。次はここに行きたいの」



 ここ、とオリビアが差し出したメモには「クレアンおじさんのパフェ」と書いてあった。

 クレアンおじさん、って誰だろう。


 うーん、と考えると……ああ、そうだ。

 一冊の本に思い当たる。

 オリビアが手紙に書いてくれた学校でとっても人気の本……『クレアンおじさんの不思議な喫茶店』という物語本だ。クレアンおじさんの小さなお店には、次々に不思議なお客さんがやってくる。クレアンおじさんが、そのお客さんたちを美味しいお料理でおもてなしをしていくらしい。



「クレアンおじさんのパフェはね、おおきくて、ベリーがたっぷりで、きらきらしているのっ! 挿絵がすごくすごくおいしそうなんだよっ!」


「へえ、そのお店で食べれるんだね」


「うーん、クレアンおじさんはいないけど、『そっくりメニュー』をやってるんだってルビーちゃんが教えてくれたんだ」



 そっくりメニュー。

 物語の中の食べ物を、真似してくれるということか。


 オリビアは食べるのが好きで、ボクの料理も何でも楽しそうに、美味しそうに食べてくれる。

 そんなオリビアがうきうきと歩いているのをみると、ボクもなんだか楽しみになってくる。


 『クレアンおじさんの不思議な喫茶店』、かあ。

 ボクも、読んでみようかなあ。



***



 喫茶店は、商店街のはずれにあった。

 思ったよりも大きな店構えで、店先の黒板には『そっくりメニュー、やってます!』と書いてある。店は、外に何席かあるテラス席までみっちりと埋まっている。


 人気店だ。



「こ、こんにちはー!」



 オリビアが、率先してドアを開く。

 表情は、期待と不安でいっぱいだ。そういえば、こうやって外のお店で食事をするのははじめてだ。


 すぐに、メイドさんの格好をした女の人が声をかけてくれた。



「いらっしゃいませ、旦那さま」



 ボクに微笑みかける店員さん。

 ぱちんとあった視線。店員さんが、ぽっとほっぺたを赤くする。

 にっこりと微笑みかけて、視線をオリビアに向けてもらう。店員さんは、小さなオリビアを見てすぐに「あらっ」と表情をゆるめた。



「これはこれは、いらっしゃいませ。お嬢様」


「っ、い、いらっしゃいました! オリビアですっ」



 店員さんに自己紹介するオリビア。

 席に案内してもらうと、通りがよく見える窓際のお席だった。



「すてきなお二人ですから、どうぞこのお席に」



 と、店員さんが言う。

 メニュー、と書かれた冊子を受け取る。

 赤い革張りの手触りのよい表紙をひらく。メニューの羅列と、キラキラした絵がたくさん。



「コーヒー、っていうのもあるのかぁ」



 ニンゲンの飲み物だ。

 飲んだことがないなぁ。



「あっ!」



 メニューをじいっと食い入るように見ていたオリビアが弾んだ声をあげる。

 あるページを指さして、ボクに嬉しそうに見せてくれる。



「見て、パパ。これ!」



 オリビアが見せてくれたページには、大きく『クレアンおじさんのパフェ』と書いてある。

 見たこともないくらい、カラフルできれいな挿絵の食べ物。



「オリビア、これにするよっ!」


「うん。パパも楽しみだ」



 オリビアはパフェを、ボクはコーヒーを注文した。



***



「おまたせいたしました、そっくりメニュー『クレアンおじさんのパフェ』です」


「わ、わあぁ!」



 とん、と目の前に置かれた大きなパフェにオリビアが歓声を上げる。

 パフェは、まるで宝石箱みたいだ。透明なグラスいっぱいに詰め込まれたベリーとフレークと生クリーム。クリームの白とベリーの赤がとってもきれいだ。

 生クリームはぷわぷわで、つんと角がたっている。

 『子どものごちそう』という育児書で見たことはあるけれど、本物のクリームは初めて見た。



「見て、パパ! これがね、ウェハースなの」



 パフェにささっている、クッキーみたいなものを指さすオリビア。

 どうやら、物語に出てくる重要なアイテムらしい。


 目をキラキラと輝かせたオリビアが、ウェハースでクリームをたっぷりとすくう。

 あーん、と大きな口を開けて、ウェハースにかじりつく。

 サクッ、と楽しい音がした。



「ん~~!」



 目をつぶって、パフェを味わうオリビア。

 とっても嬉しそう。ボクは、そんなオリビアを見ているだけで胸とお腹がいっぱいになってしまうのを感じた。


 ボクは、運ばれてきたコーヒーに口をつける。

 これはどんな味なのだろう。



「……にがっ!」



 とても、苦い。

 ボクは驚いてしまった。ニンゲンは、こんな苦いものを美味しそうに飲んでいるのか……ボク、びっくり。ちみちみと、少しずついただくことにした。


 そんなボクを見ていたオリビアが、くすくすと笑っている。

 食べかけのウェハースに、もう一度たっぷりとクリームとベリーソースすくう。

 


「パパ」



 オリビアが、そのウェハースをそっとボクに差し出してくれて。



「ひとくちあげるっ!」


「え、いいのかい? オリビア」


「うんっ。甘くて、冷たくて、とってもおいしいの! パパにも食べてほしいなって」



 と、オリビア。

 なんて優しいんだろう。

 オリビアの、「あーん」という声にあわせて口を開く。

 差し出されたウェハースにかじりつくと、サクッという食感とともに冷たいクリームの甘みとベリーの酸味が口いっぱいに広がる。



「っ、おいしいね。オリビア!」


「ね、おいしいね。パパ」



 オリビアとボクは微笑みあう。

 もうひとくちコーヒーを飲むと、さっきとは違う味わいだ。

 口の中の甘みと混ざり合って、コーヒーの香ばしさがより引き立った。苦いだけじゃない。


 不思議だな。オリビアのおかげで気づけた美味しさだ。

 パフェを半分くらい食べ終わったオリビアが、コーヒーをすするボクをじっと見つめる。



「パパ。コーヒーっておいしい?」


「え。うーん」



 興味津々のオリビアに、返答に困ってしまう。

 オリビアには、ちょっと苦すぎる気もするし……。



「大人の味、ってかんじかなあ?」



 と、ボクは誤魔化す。

 おとなのあじ、と言葉を繰り返したオリビア。



「じゃあ、大人になったらオリビアもコーヒー飲むよ!」


「うん、そうだね」


「パパもいっしょね!」


「ああ、そうだね。オリビア。また、一緒に来ようね」



 そんな他愛のない約束が、喫茶店の心地良いざわめきのなかに溶けていった。

 さあ。パフェを食べ終わったら、次はどこにいこうか。

パフェって美味しいですよね!


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

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***


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― 新着の感想 ―
[一言] 書籍版から続きを読みにきました(いまここ) パフェは、とてもいいものですね… 甘いものを一緒に食べるオリビアとパパの雰囲気がとてもかわいくて個人的に神回です…(はぁと
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