ドラゴン、服を買う。
タイトル変更をしました。
元タイトル:ある日突然【パパ】になった最強ドラゴンの、ほのぼの子育て家族日記 ~クソ親に捨てられた幼女が可愛すぎて、うっかり人間界最強に育ててしまった~
オリビアがメモしていた洋服屋さんは市場の一番目立つところにあった。
高級ブティック、と書いてある。
このお店は、子供用の服がメインみたいだ。
きれいな服を着たマネキンさんが所狭しと並んでいるディスプレイのある店頭に立つと、オリビアが「わああ……っ」と息を呑んだ。
どれも、オリビアが好きそうな服ばかり。
そうして、ちょっとだけ緊張して店のドアをくぐると――大歓迎をされた。
おめかししたオリビアを見るやいなや、店員さんがワアッと寄ってきて口々に褒めてくれる。
まあ、当然だよね、オリビアはとっても可愛いもの。
「お嬢様、こちらも試してみては?」
「とってもお似合いですわ!」
「こちらの新作も出してきました、どうぞ試着を!」
「ちょっと、このぬいぐるみ抱いてみてくださいませんか?」
ボクがびっくりしている間に、女性の店員さんたちがオリビアにたくさんのお洋服をもってきてくれる。赤い服に白いドレスに、黒いワンピースに青いフリルがたくさんのブラウス……名前も分からないようなお洒落で可愛いお洋服が、どんどん試着室に持ち込まれていく。
試着室の近くの椅子に座って、ボクがその様子を眺めていると。
「あちらのお嬢様のお父様でいらっしゃいますか?」
と、店員さんが話しかけてきた。
ボクは、えへんと胸を張る。
「ええ。ボクが父です!」
そうです、ボクがあのとっても可愛いオリビアのパパなのです!
店員さんは、ボクをまじまじと見て囁いた。
「さようでございますか。試着だけでも、いくらでもされてくださいね……よろしければ、1着選んでお買い上げいただけたら嬉しく存じますわ」
「あ、はい」
1着といわず、オリビアが気に入ったもの全部買う予定なのだけれど……。
あれぇ? とボクは首をひねった。
すると、良く聞こえるドラゴンイヤーに店員さん達のこしょこしょ話が聞こえた。
「あんなに質素なローブをお召しになって……娘さんに精一杯おしゃれをさせたいのね、いいお父さまだわ」
「ほんとうね。あんなに格好いい方だから、流行の服をお召しになったら、もっと……」
「自分の服より、子どものことを優先されているのよ。さあ、仕事に戻りましょう」
うん、ボクにとってはオリビアが一番だよ。
あれ、でも、ボクもちょっと褒められてる? は、はずかしいなあ。
ボクがちょっと居心地が悪くもにょもにょとしていると。
「パパ、どうかな!」
試着室から、オリビアが現われた。
空色のワンピースに、白いふりふりのレースがたっぷりついたヤツ。
「すっっごく似合っているよ、オリビア!」
「えへへ~♪」
「店員さん、この服をください」
「え? で、でも他の試着も……」
「オリビア、どんどん着せてもらっておいで」
「はーい!」
思えば、いままでオリビアの服は飾りも何もない質素な白い服ばっかりだった。
あああ……これはボク、一生の不覚!!
オリビアが可愛すぎて、白一色の服でも素敵だったけれど、可愛い服を着たオリビアの可愛さってば、世界最強じゃないか。
「パパ、どうかな!」
「黄色いブラウス、すてきだね! 店員さん、これください!」
「パパ、これは?」
「わあ、刺繍たっぷりのスカートも素敵だよ!! これください!!」
「ねえねえ、パパ。どっちがいいかな?」
「どっちも素敵だから、どっちも買おう!!」
オリビアが選んでくる服は、どれも本当に似合っていて最高。
あっという間に、可愛い服の山ができた。オリビアにあわせて裾上げをしてもらうものもあるので、それはこんどお店に取りに来ることにしてもらうことにした。
あとは、お支払いだけだ。
ボクは、ローブのポケットから金の粒を取り出す。
「あのう、お支払いをお願いします」
ちょっと引きつった顔をしている店員さんに、「これで!」と持ってきた中で一番大きな、拳大の金の粒を渡すと。
「当店は分割払いの手数料が…………………えっ」
「え?」
「て、店長ぉおおっ!!!」
店員さん、駆けだしてった。
どうしよう、少なすぎたのかな……。
不安になってしまった。
慌てて出てきた、背の高い女性がボクに言う。
「ど、どこかの大富豪様でしょうか! 一般の店頭での接客など、大変な失礼を!」
「だいふごう?」
え??
特に、そういうわけじゃないんだけれど。
***
「そうかぁ……金の粒って、そんなに高価なんだね……」
店長さんに、「これではお釣りだけでお店が潰れてしまいます!」と、金の粒の価値について教えてもらった。いままで、お買い物はほとんど魔王さんが通販してくれていたから気付かなかったな。
てきぱきと店長さんがお釣りの計算をしてくれる。
「そちらの小さい金でお支払いください……それと、それでも多すぎる位ですので、もしよろしければ、その」
「はい?」
「お父さまも、なにかお召し物をお買い上げになられては?」
「ボク、ですか?」
そうかあ、ボクか。
思ってもいなかった言葉に、ちょっと考え込んでしまう。
オリビアが素敵な洋服を着ているのは、とってもワクワクするけれど自分がおしゃれをしようなんて思わなかったのだ。
ドラゴン、基本全裸だし。
「ねえ、パパ?」
オリビアが瞳をきらきらさせてボクを見上げる。
素敵な、提案をしてくれた。
「よかったら、オリビアが選んであげるっ!」
「それなら、よろこんで!」
「わぁい! オリビアにまかせてっ」
オリビアが、ぴょんっと飛び跳ねて紳士服のコーナーに駆けていった。
ちいさな体で、つり下げられているサンプルを一生懸命に調べている。
慌てて駆け寄った店員さんと、にこにことお喋りをしながらボクの服を選んでいる。
ボクはそれを眺めて……。
あ、ボクいま、すごく幸せだなぁ。
***
オリビアが選んでくれたのは、グレーのジャケットとかわいらしいドラゴンのワンポイント刺繍の入ったシャツだった。
「パパ、すっごく似合ってるよ!」
大喜びしているオリビアに、ボクは嬉しくなってしまう。
ボクのためにオリビアが選んでくれた服だ。
「オリビア、素敵な服を選んでくれてありがとうね」
「うんっ!」
では、これをください……と、オリビアと微笑み合っていた表情をそのままに店員さんにお願いをすると。
「は、はい。かしこまりましたぁ……」
店員さん、ぽぉっと顔を赤くして駆けていってしまった。
ほかの店員さんやお客さんも、なんとなくボクを見ている気がする。
なんだろう、もしかして、ボクなにか変なのかな?
ボクが首をかしげているとオリビアが、くふふと笑って耳打ちしてくれた。
「あのね。きっと、パパがかっこいいから見てるんだよっ!」
ニンゲンの姿のボク、そんなに目立つのかなあ……。
でも、ボクは嬉しくなってしまう。
オリビアに、かっこいいって言われちゃった!
やっぱり無自覚に顔のいいパパでありました(笑)
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