ドラゴン、宝石拾いに行く。2
祠に入ると、いつも通りのキラキラの金貨たちが出迎えてくれた。
言葉通り、山みたいな金だ。
宝石も、いくつか落ちているけれど……。
「ねえ、オリビア。今日はちょっと奥に行ってみようか」
「おくにお部屋があるのっ!?」
オリビアがおちびの頃に暮らしていたときは、奥の部屋にはいかなかったからね。
ボクは、金の粒を大小合わせて5粒、それから平べったい粒(たぶん、ニンゲンがぺたんこにしたやつ)を拾うとオリビアの手を引いた。
「ねえねえ、パパ。奥の部屋ってなあに!?」
オリビアは、目をまんまるにしてボクの服の袖を引っ張っている。
ふふふ。とっても、好奇心おうせいだね。
「そう。奥の部屋。ボクのとっておきの宝玉があるんだ」
「わあっ、パパの大事なもの?」
「うん。大事なもの、かな」
「……オリビアより?」
ちょっとだけ心配そうに眉を下げたふりをして、イタズラっぽく見上げてくるオリビア。
ボクは、思わず吹き出してしまってから、そっとオリビアの頭を撫でた。
「そんなわけないさ。どんな宝石より、オリビアがいちばん大事」
「えへへ~、やったぁっ!」
お日様のささない祠で、オリビアの笑顔はもう、まさしく太陽だった。
ああ、なんて可愛いんだろう!
「さあ、こっちだよ」
オリビアを、とっておきの部屋へと案内する。
どうだろう、喜んでくれるかなあ。
***
「わぁぁあああぁ~~~!! す、すごいねパパっ!!」
オリビア、大喜びだった。
祠の奥の小さな小部屋には、ボクの集めたとっておきの宝玉がところせましと並んでいる。
エルフのフィリスさんの持っていた虹色の宝玉もきれいで気に入っていたけど、あれはちょっと小粒だったんだよな。もっと大きかったり、きれいだったり、強そうだったりする宝玉は全部この部屋にある。
「おおきい宝石っ! お家くらいあるっ」
「ああ、それはね。昔パパが、お山ぜーんぶが宝石でできてる山を見つけたときに、ちょっと削ってきたんだよ」
ドラゴンのボクより大きな色とりどりに光る宝石の塊や、オリビアの顔より大きな宝玉のかずかずに、オリビアが「わああっ」と悲鳴をあげる。でも、ボクのとっておきはそれじゃないんだ。
ボクはその小部屋の一番奥においてある、『とっておき』を手に取った。
「あったあった、これ!」
「わあ、まんまるっ! それに、お星さまがついてるよ!」
祠の奥の部屋の、一番奥。
ボクが大昔に拾った、とってもきれいな宝玉がある。
これがボクのとっておき。太古の昔からドラゴンたちの住む火山で発見された、夕焼け色に輝くまあるい宝玉。まんまるの宝玉をのぞき込むと、夕焼け色の奥の奥に、星がきらきらと輝いて見える代物だ。
星の数は、1、2、3、……うん、ちゃんと7つある。
七つの星のきらめく宝玉は、ほかのどんな宝石よりもパワーがあるしきれいだ。
太古のドラゴン友達がみんな羨ましがる、ボクのとっておきの宝玉だ。
「わあぁ……すてき……きらきらしてるっ」
オリビアが、宝玉の中に輝く七つ星をみつめて、うっとりとしている。
わあ、うれしいな。
喜んでくれてるみたい。
「オリビア、よかったらこの宝玉をあげるよ」
「ええっ! いいの、パパ?」
「うん。パパのとっておきだから、オリビアに使ってほしいんだ」
こんな暗いところに置いておいても、もったいないしね。
一番いいものは、なんでもオリビアにあげたいんだ。
「えへへ、ありがとう。パパ! オリビア、大事に使うねっ」
オリビアが、ボクにぎゅうっと抱き着いてくれた。
どういたしまして。
ボクのとっておきの宝玉が、君の道行きを照らしますように。
***
魔王さん、叫ぶ。
「あうぅ~~~っ!?」
「どうしたの、マレーディアお姉ちゃん?」
ボクたちのお弁当用に作ったスコーンの残りを食堂ではぐはぐしていた魔王さんは、ボクたちが帰ってきたのを見るなり震え出した。
魔王さん、オリビアの持っている宝玉を指さしている。
「どーしたもこーしたもあるかっ! オリビア、お前のもってるのは……ド、ド、ド、ドラゴンボ」
「え?」
「古代竜っ!」
「なあに、魔王さん?」
「この宝玉、まさかっ、星の数がひとつのやつとかふたつのやつとか……全部で七種類あったりするのではないかっ!?」
「えー、そこまでは知らないけど」
「そうだとしたらっ、超ド級の秘宝じゃぞーー!!! 全オタクの夢っ!!!」
「おたく?」
魔王さんの言うこと、たまによくわかんないな。
紅茶を飲んでいたクラウリアさんが、魔王さんに「どうどう」としつつ宝玉をじいっと見つめる。
「マレーディア様のおっしゃることはさておき……かなり強い波動を感じますね。質の良い宝石には魔力が宿り、神秘を行使する力があるのは事実ですが、これは相当の代物です」
「えへへっ、オリビアがもらったんだよ!」
「良いものをもらいましたね、オリビアさん」
「うんっ!」
オリビアは、宝玉を頭上にかかげてぴょんぴょん飛び跳ねる。
よっぽど、うれしいみたい。
「お部屋にしまってくるね」
と自分の寝室へと駆け出した。
卒業制作の杖、うまくできるといいね。
ボクは、オリビアがこれから過ごす学校生活に思いをはせて、それを心から願った。
「ああ、そうだ。古代竜さん」
「なんですか。クラウリアさん?」
二人分の紅茶のカップを片付けながら、クラウリアさんはボクに問いかけた。
「黄色と赤、どちらがお好きですか?」
「え?」
どちらが好き、っていうのもないけれども。
黄色は、春のお花やちょうちょさんの色。赤は秋に舞い散る葉っぱの色。どちらもボクの好きな色だ。
「じゃあ、オリビアさんに似合うのはどちらだと思います?」
「オリビアに……?」
うーん、とボクは思い浮かべる。
くるくると表情豊かな栗色の瞳。
かわいい。
ぴょんぴょこ跳ねる麦色の三つ編み。
可愛い。
ひじや足先や指先がうす桃色をした手足。
可愛い。
オリビアの輝く笑顔。
……かわいい。
「うーーーーーん、僅差で……黄色!」
オリビアは、いまやボクの太陽だ。
春のあたたかな日差しみたいな、大事な僕の娘。
オリビアにはなんだって似合うけれど、どちらかといえば黄色が似合う気がする。
「ありがとうございます。ちょっとしたアンケートでした」
クラウリアさんは、魔王さんの手を引いて「それでは」とキッチンから去っていった。
え、いまのアンケートって、なんだったの?
さて、なんのアンケートだったのでしょうか(笑)
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今日も、最強ドラゴンと可愛い娘のほっこりストーリーで癒されてください♪
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