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ドラゴン、お昼寝をする ~魔王マレーディア様のあうぅな生活~

今回は、パパさんはお昼寝です。


魔王マレーディア様はどうして引きこもっているのか?

 ボクは魔王さんとクラウリアさんにお知らせをした。

 毎週お手紙で学校生活の様子を知らせてくれるオリビア。ボクはそれを毎週楽しみに待っているのだけれど先週のお手紙に、こんなことが書いてあったのだ。


『学年末試験の前の1か月は、試験期間になります。家族とも連絡を取ってはいけない決まりなのだそうです』


 どうやら、不正を防ぐ意味があるみたい。

 オリビアは不正なんてする子じゃ、ぜったいぜったいないけれど、そういう決まりなら仕方ないなあ。


 いつのまにか、深まっていた秋は冬に変わって、すっかり寒くなっていた。



「そういうわけで。ボク、ちょっとオリビアが帰ってくるまでお昼寝しようと思うんですが」



 台所にボク特製の生姜クッキーを取りに来た魔王さんは、なんとなく面倒くさそうに首を傾げている。ミルクを温めていたクラウリアさんは指折り数えて、



「えーと、ニンゲンの暦で1か月ほどですか。いいんじゃないですか?」


「うむ。城のピンチには起きるがよいぞっ! ぽりぽり」


「マレーディア様。つまみ食いされましたね」


「あう、してないよ?」


「ありがとう。オリビアの学校から何かお知らせがあったら、起こしてね」



 あっさりとオッケーをしてくれた二人に、ボクは「おやすみなさーい」と手を振る。

 もともと軍の修練場だったというボク用の広くて大きい寝室に戻る。



「ふふふ……おやすみ、オリビア」



 ボクは壁を見上げる。

 そこにかかってる立派な額縁。このあいだ届いたお手紙についていた、オリビアの「芸術」の授業の課題である。ボクの似顔絵の肖像画だ。

 紫色の髪の、にっこり笑った男の人……の顔。

 首からの下の体は、かっこいいドラゴンだ!


 とっても、優しそうな顔。


 ボクは、オリビアからはこういう風に見えているんだなぁ。

 そんなことを思いながら、ボクはドラゴンの姿にもどって――くぅ、と寝息を立てる。


 すっかり寒くなってきて、長いお昼寝にはぴったりの陽気だ。

 おやすみなさい。


 ……そういうわけで、今からお話しするのはボクが幸せなお昼寝をしている最中に、お家のなかで起きていたかもしれない――ちょっとした日常のお話だ。







***







 魔王マレーディアの一日は、はや……くない。

 むしろ遅い。



「ふわぁ~。おお、まだ昼ではないか。日が沈む前に起きるなんて、我ってば優秀!」



 西塔のてっぺんの自室。

 決して広くはないマレーディアの部屋には、彼女の好きな騎士道物語や恋物語の本が詰め込まれていた。ふりふりの可愛い洋服も、外に着ていくことはないけれどクローゼットにたくさん詰め込んでいる。たまに部屋で着て楽しむのだ。


「おそようございます、マレーディア様」


「クラウリア、おそよー! さあ、我は今日も積ん読を崩すからな、覚悟するがよいぞ!」


「せめてパジャマは脱いでは?」


「あうっ。いいじゃんかよぅ、誰も怒らないしっ。……父うえだって、我のことはもうとっくに見捨ててるしさ」



 ぷいっ、とそっぽを向いてマレーディアはごろんとベッドにダイブする。

 楽しい自堕落引きこもり生活。

 自由気ままで、誰にも気なんて使わない……急にマイスイート魔王城を移築&入居した古代竜親子については、もうああいうやつらなので仕方ない。

 オリビアは可愛いし。



「おやつの時間になったら教えるがよいぞ、クラウリアよ!」


「仰せのままに。我が麗しき魔王様」



 クラウリアが部屋を片付けながら応える。

 さて。

 どうして、魔王マレーディアがこんな生活をしているのか。


 それを語るには昔話が必要だ。


 話は数百年前にさかのぼる。

 人間の勇者一行に打ち負かされて以降、魔王マレーディアの生活は一変した。


 それまでは、寝る間も惜しんでの侵略計画を立案していた。

 腹心の部下たちを集めて、各軍への行動要請もしていたし、伝令の状況を確認したり、征服した土地のインフラ整備だってしていた。


 マレーディアの父である魔神王は「人間を滅ぼして地上を魔族の手に」とは言っていたけれど、マレーディア的には「それはちょっとなー」だったのだ。

 征服したニンゲンがなるべく死なないようにするには、マレーディアは休んでいる暇がなかったのだ。


 そんなに頑張っていたけれど、いざ旗色が悪くなれば魔族の貴族出身の騎士はひとり、またひとりと魔王軍を離れた。ほぼ瓦解したも同然の魔王城に攻め込まれたときに、マレーディアのもとに残ってくれたのはたった一人の女騎士だけだった。


 乳母姉妹のクラウリアだ。


 ピンク色の長い髪をなびかせた鎧姿。槍旗をはためかせて戦場を駆けるクラウリアは、マレーディアよりも少し年上で、彼女の憧れだった。


 だから、勇者たちの渾身の一撃がマレーディアを襲ったとき。

 マレーディアの前に立ちふさがって『私にかまわず、勇者たちに反撃をっ!』と叫んだクラウリアの背中を見たときに、魔王は思ったのだ。


 ――反撃とか、もういいじゃんと。

 だってさ、ニンゲンたちが死なないようにしてたけど……結局、侵略なんて自分には向いていなかったのだ。魔神王の666人目の娘という、予言された選ばれし子供という立場だったから頑張ってきたけれど。



 だけど、もういいのだ。

 マレーディアは、心からそう思った。


 だから、クラウリアが作ってくれた一瞬の隙に『引きこもること』を選択したのだ。

 クラウリアとともに魔王城の西の塔にひきこもって、もう誰にも会わない。


 それが、魔王マレーディアのとった選択。

 人間たちは、『勇者一行が魔王を打倒し、見事封印することに成功した』と喜んだ。


 秘蔵の魔導書(とうすい本)を格納した図書館は本当に封印されてしまったけれど、それだってマレーディアにとってはどうでもいいことなのだ。


 クラウリアはいまでも味方でいてくれる。

 彼女さえ味方してくれていれば、ほかには何も必要ないもの。


 このお城にいれば、マレーディアは無敵だ。

 古代竜にはちょっと引けをとるかもしれないけど、っていうか最近はオリビアもなんかちょっと強くなりすぎじゃない?って思うけれども。


 それでも、多少食べなくてもお腹は減らないし、好きなだけ惰眠を貪れる。いつか読みたいとおもって積んでいた本は読んでも読んでも読み切れない積読になっている。退屈なんてしない。



「……お茶の時間ですよ。マレーディア様」


「ん。うん」



 ほかほかと湯気をあげるホットミルクをお盆に乗せたクラウリアが立っていた。

 うんと甘くしたそれは、最近のマレーディアのお気に入りだった。



「わーい、我ホットミルクだいすき!」



 ふうふうと冷ましながら、甘いミルクをなめる。

 おいしい。

 マレーディアは、うきうきとした気持ちになった。



「あうっ、やはり古代竜の作るホットミルクはうまいな! セ〇ム代わりにしてやろうとおもっていたが、まさかこんなに万能パパだとは! すっかり胃袋を掴まれちゃうぞ」


「え?」


「なんだ、クラウリア……我の顔に何かついてる?」


「いえ、そのホットミルクは、私が作ったんです、けど……」


「あう!?」


 マレーディアは、あわわとなった。

 そうだった。

 古代竜はいま1か月ほどお昼寝をするといって、寝室に引きこもっているではないか。



「というか、実はですね。おやつの時間に召しあがっているホットミルクは、ずいぶん前からこの不肖クラウリアが用意しておりました」


「な!?」


「えっと……掴まれました? 胃袋」


「あう……」



 ちょっと恥ずかしくなってしまって、マレーディアは猫みたいに首を丸めた。

 なんとなく、クラウリアに対して素直になれない部分が、マレーディアにはあるのだ。


 そんな様子を見てとって、クラウリアはちょっと話題を変えてくれる。



「マレーディア様。お城に籠られてからずっと、眠ってばかりで何も召し上がらず……もちろん、我ら魔族は必ず食事をとらねばならぬわけでもないのですが。クラウリアは心配しておりました」


「う、うむ」


「しかし、古代竜がこの城に住むようになってから――なんというか、マレーディア様は読書のほかにも、こうしてティータイムを楽しまれたり、食事を楽しまれたりしていて。オリビアさんのこともそうですが、小さなことをうんと楽しまれているご様子でいらっしゃるので……実は、ひそかに嬉しく思っているんです」



 クラウリアの言葉は、とつとつと続いていく。



「マレーディア様……勇者たちの一撃から、私を助けてくださってありがとうございます。幼いころから、マレーディア様とともにいることを許されていることが、このクラウリアの誇りなのですよ」


「で、でも我は……」


「人間たちを支配するなんて、いつだっていいじゃないですか。私は、そのときには全力でお供します。いつだって、マレーディア様の味方ですので」



 ぽぽぽ、と頬が熱くなるのをマレーディアは感じた。



「あうぅ、は、恥ずかしいことを言うなよ!」


「っ! た、たしかに……失礼いたしました。わたしったら、急に何で」



 つられて、クラウリアも頬を染める。

 ホットミルクのカップは、すっかり空っぽだ。



「ごちそうさまっ、我はまた本に溺れるぞ」


「ええ。かしこまりました」



 再び、マレーディアはぼふんとベッドに沈む。

 クラウリアがお盆に空のカップを乗せながら、言った。



「あの……先ほどの件。出過ぎた真似をして申し訳ございません。古代竜とオリビアさんを見ていると、なんというか、身近な人に素直に気持ちを伝えることが、なんだか羨ましくなってしまったのです。それでは」



 マレーディアは、聞こえないふりをした。

 耳たぶが熱くてかなわない。


 大好きな少女小説が、なんだか頭に入らなくて。

 ごろんごろんとベッドを転げまわった。



「あうぅ……クラウリアのばか」



 身近な人に、素直に気持ちを伝える……か。

 たしか、古代竜はオリビアと手紙のやり取りをしているようだ。



「手紙、か」



 可愛いので集めていたレターセット(未開封)をベッドの下から取り出して、並べて眺める。

 あ、この鳥の柄のとか、クラウリアっぽいかも。



「って、我はなにを考えておるのだー!!!」



 あうあうっ、とレターセットをしまい込む。


 心に波風が立たない代わりに、ずっと惰眠を貪るだけだった魔王マレーディアの引きこもり生活。

 ここ最近の彼女の生活は、「あうぅ……」と溜息をこぼすことも多いけれど、たぶん以前よりもずっと、ずっと、色彩のあるヒッキーライフなのだ。







***






 そんな夢をみていた気がする。

 ボクが眠っている間に、あったかもしれないし、なかったかもしれないやりとりだ。


 冷たい空気中、まどろんでいるボクの耳に声が聞こえた。




「パパ、ただいまーー!!」


「………オリビア」




 ボクはたちまち起き出して、ニンゲンの姿になると走り出す。

 

 可愛い娘が、帰ってきた!

百合をはさみたかったので……!!!(笑)

お読みいただき、ありがとうございます!!!!

評価ポイントや感想、とても励みになっています。誤字報告もありがたいです。


***


今日も、最強ドラゴンと可愛い娘のほっこりストーリーで癒されてください♪

「面白かった」「続きが気になる!」という方、ぜひぜひ、ブクマ・評価・感想などの応援、お願いしますッ!!!!

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[一言] ごちそうさまでした!毎話ごちそうさまですけど!
2021/04/04 16:11 退会済み
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