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ドラゴン、似顔絵をもらう。

 オリビアが育てている何の変哲もない草……もとい、万能の薬草エリ草。

 庭の片隅に植えた彼らに、たっぷり水をあげるのが僕の朝の日課になっていた。

 大きくなあれ~。


 ふんふん、と鼻歌(ニンゲンは、気分がいいときには鼻歌を歌うんだ!)を楽しんでいるボクの頭上に、影がちらちら横切った。



「おや?」



 ばさばさ、という賑やかな羽音に、ボクは空を見上げた。

 すると、そこには、まるまると太ったフクロウさんが飛んでいた。


 フクロウさんは、シューッと滑空してきて低木の枝に着地する。



「やあ、フクロウさん。いつもお手紙ありがとう」



 オリビアの通うフローレンス女学院の校章がついた服を着たフクロウさんがくるる~っと喉を鳴らした。郵便配達の【使い魔(ファミリア)】だ。

 週に1回、オリビアや学校からのお手紙を配達してくれる。

 首にかけられている手紙袋から、麻ひもでしばられた束を取り出す。

 そのあいだ、ぴっと直立して凛々しい顔をしているフクロウさん。

 とっても、お利口さんだなぁ。



「ありがとう、それじゃあね……あ。これ、お駄賃だよ」



 フクロウさん用にとっておいた鶏ささみの干し肉をさしだすと、器用にひょいっとクチバシでくわえて飛んでいく。ばいばい。


 ボクは手紙の束をもって、いそいそとお家の中に急ぐ。

 オリビアから届く手紙は、毎週のお楽しみなのだ。




***



   お父様



秋も深まり、中庭の木々も鮮やかに色づいてきました。

お父様におかれましては、いかがお過ごしですか。


オリビアは元気でやっています。


秋の運動会では、模範演技に選ばれました。第6学年のお姉さまたちに交じって、模擬戦を行いました。お姉さまたちは、みんな手加減をしてくださって優しかったです。優勝しました。


今日の紅葉を楽しむ校外ピクニックでは、運悪く怪鳥の群れに襲われました。でも、あまり強い怪鳥ではなかったみたいで、ちょっと魔法をぶつけただけで落っこちてきました。持ち帰ったら、先生がたがとっても驚いていました。


怪鳥さんは高級食材だったようで、週末の感謝祭のメインディッシュにしてくれるそうです。なんだか可哀想な気がするけれど、ちょっと楽しみです。


毎日たのしいけれど、つぎのお休みにパパ……じゃなかった、お父様とお出かけするのがいちばん楽しみなことです。


オリビア、頑張るね。

パパも元気で。


大好きなパパへ。


   オリビア・エルドラコより



***




「へぇえ、オリビアあいかわらず頑張っているんだ!」



 ボクはすっかり嬉しくなってしまって、ペンをいそいでインク壺に突っ込んだ。

 実は、ボクも手紙を書き始めたのだ。

 お手紙を書くなんて生まれてはじめてで、戸惑うことが多いけれどオリビアはいつも喜んでくれる。


 手紙を運ぶのは、クラウリアさん。

 魔王さんが可愛い黒猫に化けるのが上手いのと同じように、クラウリアさんは大きな鷲に変化(へんげ)するのを得意にしているようだった。


 ボクは文字を書くのが遅いので、オリビアの手紙が3回来る間に1回書き上げられればいいほうだけれど、オリビアのことを思って最近のことを紙にしたためるのは、とても楽しい。



「オリ、ビアへ。がっこう、楽しそうで、パパは、とっても、嬉し、いです……っ」



 なんだか、嬉しいと文字もぴょんぴょん踊るみたいになってしまうんだな、とボクは自分の書いた字を見て照れくさくなる。


 そういえば、オリビアのお手紙も、いつだってぴょんぴょんダンスするみたいな字でつづられているなぁ。


 ボクは、ほこほこした気持ちでペンを走らせた。

 どうにか、手紙の半分を書き終えて、フクロウさんが持ってきてくれたお手紙がもう一通あることを思い出した。



「学校からかな?」



 学校からは毎週、『フローレンス女学院通信』という生徒の学業状況や近況を知らせてくれるお手紙が届く。


 【王の学徒】――この時代のなかでも際立った才能があると認められた特別奨学生になったオリビアには成績はつかないのだそうだ。学業成績は『S+』という一番いい成績に固定した扱いになるみたい……といっても、それまでもS+以外はみたことなかったけど。


 ので、『フローレンス女学院通信』はボクにとってはちょっと味気ないのだ。

 ……けれど。

 今回の通信は、ちょっと違った。



「あれぇ? なんだか、封筒が大きいような?」



 普段は、細長い封筒に三つ折りになったお手紙が入っている。

 オリビアのお手紙も同じ封筒に入っているのだ。

 けれど、今回は……なんだか、大きい。

 真四角に近いような大きさだ。



「そういえば、フクロウさんの手紙袋もいつもより大きかったような……?」



 ボクは見慣れない封筒を、ていねいに開ける。

 うっかり勢いよく開けると、ボクの力だと封筒ごと『消失』してしまうことが先日の学校通信でわかったのだ。大した内容じゃなかったことを祈ってる。



「あ、れ……これって」




***


   エルドラコ様



平素より当学院の理念および指導方針にご賛同いただき、ありがとうございます。

このたびは、ご息女オリビア・エルドラコさんが『芸術』の授業の一環で作成された肖像画を送付いたします。絵の具の乾燥に時間がかかり、送付が遅れましたこと、まことに申し訳ございません。


   【同封物】

肖像画 1点(題名『パパ』)


   【コメント】

オリビアさんは、非常に、独特のセンスをお持ちです。




以上となります。

何かご質問がある場合は、フローレンス女学院事務局までお問い合わせください。


フローレンス女学院



***



「肖像画、だって?」


 しかも、題名が、『パパ』!

 ボクは、封筒の中に一緒に入っていた厚手の紙を慎重に取り出す。

 すると、そこには、紙一杯にボクの顔が書いてあった!



「わぁあっ、すごいよオリビア!」



 ボクは肖像画を掲げて走り出す。



「見て~~、魔王さん、クラウリアさん~~っ!!」



 たぶん魔導書図書館にいるのかな。

 もう、はやく見てほしい!



***



 魔王さんは、肖像画をまじまじと見て「あうぅ……」と唸った。

 オリビアの芸術のセンスにびっくりしたのだとおもう。



「な、なんというか……独特のセンスですね」



 と、クラウリアさんが言った。



「そうでしょう! 学校からのコメントでもそう書いてあったんだ。オリビアはすごいなぁ~」


「あー。古代竜よ」


「なあに、魔王さん?」


「オリビアは、もしかして学校にいくまでお絵かき的なことはしたことない?」


「うん。そうだね……お絵かき、っていうのを育児書で読んで知ったころには、オリビアは魔導書に夢中だったから」


「あうぅ~……」



 と、魔王さんはそれ以上何も言わなかった。

 ボクは、返してもらった肖像画をもういちどよ~~く見つめる。


 紙いっぱいに、紫色の髪の、にっこり笑った男の人が書いてある。

 とっても優しそうな笑顔。これ、ボクの顔!


 そして、男の人の首から下。


 体は、かっこいいドラゴンだ! 大きな翼を広げて、ふとい足を踏ん張っている。

 これも、ボク!!



「オリビア、ボクのことよく見てくれているんだなあ……」



 しみじみと、ボクは感動してしまう。

 ほら、この翼のところなんてそっくり!


 うん、本当によく描けているなあ。



「ねえ、魔王さん。額縁とかないかな? この肖像画、リビングに飾りたいんだけど」


「あうっ!? が、額縁なら余っているが……その、飾るのはおまえの寝室にしたらどう?」


「魔王さんっ!!」


「あうぅっ!?」


「グッドアイディアだよ! そうしたら、眠るときと起きたときにオリビアの描いた絵を見られるんだもんねっ」


「そ、そうね」



 魔王さんは、とても立派な額縁を部屋から持ってきてくれた。



「嬉しいなぁ。オリビア、はやく帰ってこないかなあ」



 さっそく、がらんと広い寝室の壁にかけた肖像画を眺めてボクはほっぺたが勝手にニコニコ笑ってしまうのを感じていた。


 絵のなかのボクも、大きなドラゴンの翼を広げて、ニンゲンの顔をしてにっこりと優しく微笑んでいる。



「う~ん、本当によく描けてるよっ!」

パパさん、大喜びです(笑)

お読みいただき、ありがとうございます!!!!

評価ポイントや感想、とても励みになっています。誤字報告もありがたいです。


***


みなさん、台風はだいじょうぶでしたか。

アメコも近くの河川があふれて、びっくりしました。

皆さんが無事で過ごされますよう。

今日も、最強ドラゴンと可愛い娘のほっこりストーリーで癒されてください♪


ブクマ・評価・感想などの応援、ぜひ、お願いしますッ!!!!

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