ドラゴン、お茶会をする。
台風19号をパパさんがくしゃみで吹っ飛ばしてくれますように……!
フローレンス女学院の中庭のすばらしさについては、語っても語りつくせない。
まず、風通しがいい。
女学院は草原を見下ろす小高い丘の上に建っているのだけれど、その草原を駆け抜けてきた風が上空から降り注いでくる。学校を取り囲む高い塀、小さな人工林、庭園をぬけて校舎に辿りついた風が、中庭の木々を揺らすのだ。
彫刻と噴水は、よく手入れをされていて清潔。
香りのよい花を咲かせる木々に、華やかな大ぶりの花をたたえる鉢植え、そして花壇には季節の花が咲き乱れている。石畳も、そのまわりの芝生も、よくよく手入れされているんだ……。
吹いてくる風には、あまい金木犀の香りがのっている。
朝のリン、と澄んだ空気のなかで座っていた中庭。
それが、お日様がのぼってきて、だんだんと空気がぬくんできて――、
まあ、ボクが何を言いたいのかというと。
フィリスさんの娘と会う約束をしている午後を待つ間……ちょっと、お昼寝しても仕方ないよねということだ。
***
すやぁ……とボクが中庭で眠っていると、子どもたちの声が聞こえてきた。
なんだか、楽しげだな。
半分眠りながら、ボクは微笑んでしまう。
すると、可愛い声がボクに話しかけてきた。
「パパ、お風邪ひいちゃうよ?」
「むにゃ……オリビア?」
目をあけると、オリビアがボクの顔をのぞき込んでいた。
うわあ、なんて素敵な目覚め!
「やあ、オリビア……あれ。授業はどうしたんだい?」
「2時間目の授業が、先生の研究のご都合でおやすみになったの。だからね、みんなで中庭でピクニックをしようとおもって!」
「へえ、ピクニック」
きょろ、と周囲をうかがうと制服の襟に学年色の赤スカーフと選抜クラスの黒スカーフを重ねて巻いている女の子たち。みんな、それぞれ手にお茶のポットや敷布や小さなテーブル、それにキュートな布のかかったバスケットなどを持っている。
「おじさま、ごきげんよう」
「わあ、デイジーちゃん。こんにちは」
オリビアの親友、藍色の髪が素敵なデイジーちゃんはお茶のポットをもったまま、ちょこんとひざを曲げて挨拶をしてくれる。ボクは手を振った。
すると、芝生のうえにおおきな敷布を広げていた子たちが「よぉし、準備できたよ!」と声を弾ませる。
たちまち、子どもたちがテーブルやお茶、それからスコーンやクッキーを詰めたバスケットを広げ始める。
手際よく全員のカップにお茶を注いでいた、金髪をとても短く刈り上げた翡翠色の瞳の女の子がボクにカップを差し出した。
「オリビアちゃんのパパも、よかったらどうですか」
「え。いいのかい? でも、みんなで楽しんでるんじゃ……」
「ぼくは、オリビアちゃんのパパとお話してみたかったんだけど。みんなはどう?」
問いかけられた子供たちが、口々に「オリビアちゃんのパパも一緒がいい!」と声をあげる。
「えへへっ、ありがとう。イリアちゃん」
「どういたしまして」
金髪の髪の短い女の子は、イリアちゃんというらしかった。
「パパ、イリアちゃんは将軍さんの娘さんで、体術や剣術がすっごく強いんだよ!」
「そうなんだ。すごいなぁ」
「まあ、オリビアちゃんには勝てないわけなんだけど。ぼく、剣術で負けたのはじめてだよ」
いつか、ぜったいに勝つからさ……と、イリアちゃんは静かに闘志をもやしているみたいだった。わあ、ライバルってやつだね。オリビアにもよきライバルができたんだ。嬉しいなあ。
オリビアが、順番に5人のクラスメイトを紹介してくれる。親友のデイジーちゃんはすでに顔見知りなので、初対面の人から。
「ルビーちゃん。おめめが真っ赤で、すごく綺麗でしょ! おうちが宝石屋さんなんだって」
「おじさま、よろしくなの」
つやつやの赤毛に、紅い瞳。わあ、ゴージャスなお友達だなあ。
そばかすが、とっても元気な印象の子だ。
「こちら、レナちゃん」
「……」
レナちゃんは、ぺこりと無言で頭を下げた。
銀色の透き通るような髪はゆるく編んでいるのに、床に引きずるぐらいに長い。
表情が動かないから、お人形さんみたいだ。とっても美人さんだなぁ。
「レナちゃんは、あんまり喋らないけど本当はすごく面白い子なんだよっ」
「そうか。よろしくね、レナちゃん」
にっこりと笑いかけると、レナちゃんは恥ずかしそうに俯いた。
「ケイトちゃんは、お料理がすっごく上手なの!」
「ウチは宮廷料理長の家系っすからね。医食同源……この学院では薬草魔術を修めるつもりっす!」
「へぇ、薬草!」
そういえば、オリビアが提出した自由研究……あの何の変哲もない草はどうなったんだろう。なんだか、クーリエさんが絶滅したすごい薬草とかなんとか言っていたけど。
「そーなんすよ。オリビアちゃん、薬草にもめっちゃ詳しいっすよね。オリビアちゃんは小さいときどんなお子さんだったっすか?」
「え、そうだな。オリビアは……」
ケイトちゃんに問われるままにオリビアの思い出話をした。
友達の昔の話が面白いらしくて、お茶とお菓子を楽しみながら、みんなが次々に質問をしてくれる。ええー、なんだか恥ずかしい!
オリビアのクラスメイトの子たちと楽しくお喋り。
なんだか、夢みたいだな。
口々に「オリビアのおじさま」とか「オリビアちゃんのパパ」って呼ばれて、ボクはほくほくしてしまう。そうです、ボクがオリビアのパパです!
しばらくして、お茶とお菓子がなくなると、赤毛が素敵なルビーちゃんが立ち上がる。
「ねぇ、オリビアのおじさま。髪の毛が乱れているから、結ってあげましょうか」
「えっ」
ああ、たしかにさっき昼寝をしていたから三つ編みが乱れているかも。
ブラシをもちだしたルビーちゃんが、ボクの紫色の髪をとかしてくれる。
「あっ、オリビアもやりたい!」
「えぇ、じゃあウチも! おじさんの髪、すっごく綺麗っすもんね」
「ほんとに! 夕焼けの紫色みたいだわ」
「わっ、わわ……」
あっという間に、子どもたちに取り囲まれる。
髪をとかしてもらって、自分でやるよりもうんと丁寧に髪を編んでもらう。なんだか、すごくおしゃれっぽいアレンジも加わっている……わあ、ニンゲンの女の子っておしゃれだなあ。
「えへへっ、ルビーちゃんは髪の毛を結わくのが上手なんだよっ」
あっという間にできあがったボクの髪に拍手を送りながら、オリビアは嬉しそうだ。
「そうだ。パパにこれもつけてあげるね」
オリビアは、芝生に生えている小さくて可愛い花をそっとつんでボクの髪にさしてくれた。
「ええ~っ、パパにお花って、ちょっと変じゃないかい?」
「そんなことないよ、パパ。すっごく似合ってる!」
そんなやりとりをしていると。
中庭の向こうで、カサリと音がした。
なんだろう、と思って見ると。
……オリビアたちより、すこしだけ大きな人影。
「あれ、生徒さんかな」
それにしては、制服のローブを身に着けていない。
あごのあたりで切りそろえた金髪から、ちらちらと見えるのは……尖った耳。
あの子、エルフさんだ。
「あっ!」
オリビアはその人影をみつけると大きく手を振る。
「セラフィちゃん!」
その声に、セラフィと呼ばれた子は振り向いた。
次の瞬間に、すごく気まずそうな顔。
「セラフィちゃんって……あれ、どこかで聞いたような?」
「えっとね、パパ。セラフィちゃんはこの中庭を……」
ボクの服の袖をつかんで、挨拶にいこうと引っ張るオリビア。
すると、ピクニックの片づけをはじめたデイジーちゃんが耳打ちする。
「ねえ、オリビアちゃん。わたくしたち、そろそろ教室にもどってますわね」
「うんっ。オリビアもすぐいくね! ありがとう、デイジーちゃん!」
オリビアはこたえる。
ボクは、うーんっと思い出そうとする。
セラフィちゃん。
エルフ。
ああ、そうだ!
「ねえ。君ってもしかして、セラフィ・ド・リフィリア・ロザリア・エクセリア・グロリィ・カリタス=エト=ヴェリタス・マリアムネ・フローレンスちゃんかな?」
「……っ!」
ボクの言葉に、セラフィちゃんは大きく目を見開いた。
セラフィちゃんとステキな中庭の関係とは……?
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スコーンとクッキーでお茶会、あこがれですよね。
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