ドラゴン、試験に立ち会う。2
オリビアには、友達がたくさん。
オリビアとボクが、「やったねぇ。よかったねぇ」と言い合っていると、フィリスさんがこほんっと咳ばらいをする。
「こ、こほん。それでは、試験はここまです。【王の学徒】の任命式については後日お知らせします。ああ、なんだか……つかれたわ……そう、私は今日は、調子が悪いの……本当の我が叡智はこの程度では……ううっ」
しょんぼりと肩を落としているフィリスさん。
そうなんだ。調子が悪いなか、オリビアの試験をしてくれたなんて……いい人!
「さあ、オリビア・エルドラコさん、今日はもう寮にお帰りなさい。お父様は、ぜひ客間に。それにしても、まったく……選ばれた才能を持っておきながら、凡百の友情のために普通の学校生活を望むなんて……信じられません」
と、学院長のクーリエさん。
なんで、学院長先生なのに学校生活のことをそんなに悪く言うんだろう。悲しくなっちゃうよ。
……ボクがそう思っていると、オリビアも同じことを感じたのだろうか。
しょぼ、と眉毛をさげている。
むむむ……オリビアが、悲しい顔をしている!
ここは、パパとして何かしてあげたい。
ボクは、最近読んだ育児書である『モンスターペアレントと子を守る親の違い』という本の内容を思い出す。ボクみたいなドラゴンとかオークとかが親になったときのための本だと思って買ったら、なんか違ったけどここで役に立つとは!
正当な理由を、理性的に伝えるのは「モンペ」ではないんだって、その育児書には書いてあった。
クーリエさんに一言なにか言わなくちゃ、とボクが言葉を探していると。
ガタン! と、演習場の入り口から大きな音がした。
「わぁっ!」
びっくりしてそちらを見ると、小さな人影がいくつも。
どの子も、学院指定のネグリジェを着ている。
ドラゴンアイは夜でもよく見える。
あれって‥‥‥‥。
「デイジーちゃん!」
オリビアが、そちらに駆けよる。
やっぱり。
オリビアのお友達……デイジーちゃんだ。
「オリビア、大丈夫ですのっ!」
「ルビーちゃんに、イリアちゃんも……」
どうやら、みんなオリビアのお友達みたいだ。
クーリエさんが厳しい声を出す。
「あなたがた。校則違反ですよ、すでに就寝時間は……」
「ごめんなさい、学院長先生。わたくしが、みんなを誘いましたの」
デイジーちゃんが、毅然と背筋を伸ばしてクーリエさんに体を向ける。
「なんですって? 品行方正で通っているパレストリア家のご令嬢が……」
「オリビアさんが、【王の学徒】の選抜試験を受けると聞いて、居てもたってもいられませんでしたの。推薦されたものの、選抜試験で大けがをした者や、魔法への自信を砕かれてしまって、学院を去った者もいると聞いたことがあって……どうにか、オリビアさんを助けたいと思いましたの」
デイジーちゃんの言葉に、子供たちがそれぞれにうなずいた。
「わたしたち、オリビアちゃんよりも魔法も体術もできないけど……みんななら、何かできるかもって」
「うんっ、だからデイジーだけのせいじゃない」
「そうです、私たちオリビアちゃんを助けたくて……自分が来たくて来たんですっ」
ええー!
ボクは、嬉しくなってしまった。
みんな、オリビアのことを心配して、寮を抜け出してきてくれたんだ。
「なんてことを……」
クーリエさんが、こめかみをおさえる。
「あなたがた、オリビアさんのことが妬ましいとか、悔しいとか思わないのですか……?」
デイジーちゃんが、応える。
「ちょっぴり、そう思います。でも、オリビアちゃんは――わたしの、大事なお友達なので」
「デイジーちゃん、みんな」
オリビアが、くすぐったそうに目を輝かせる。
クーリエさんが、息を飲んだ。
「友達……」
オリビアのまわりにいる子どもたちを、クーリエさんがゆっくりと見渡す。
第一学年の小さな子供たちのまっすぐな目線が、学院長であるクーリエさんを見つめている。
そうして、しばらくたったとき、クーリエさんは深くため息をついた。
「そう、ですね……学校生活は能力だけではない。学院長という身でありながら、初歩的なことを忘れていたようですね」
クーリエさんは少し微笑んで、ひとつパンパンと手をたたいた。
「さて。みなさん。聞いていたかもしれませんが、オリビアさんは【王の学徒】となる試験に無事に合格しました……しかも、あなたたち友人とこのまま学校生活を送るという、今までにない形で」
やったあ、と子供たちは喜び合う。
「皆さんが、友人を思う気持ちを持っていること。フローレンス学院の長として嬉しく思います。でも、お祝いは明日以降にすること。……明日の授業のために、みなさん寮にもどりましょう。今日の無断外出と消灯時間をやぶった件については、そうですね……課外授業、ということにしましょうか」
クーリエさんの言葉に、子供たちはほっとしたようだった。
手をとりあって寮に帰っていく。
オリビアは、本当に満たされた表情でボクに微笑んで、
「パパ、おやすみなさい」
と手を振った。
「おやすみ、オリビア。いい夢を……みんな、ありがとう。これからも、オリビアと仲良くしてね」
クーリエさんも穏やかな表情をしている。
うん、これならボクが何か言わなくても、クーリエさんも子供たちの「学校生活」を大切にしてくれるだろう。
ボクは、とっても満足した気持ちで魔法演習場をあとにした。
おやすみなさい♡
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なお、更新した10月7日は作者の誕生日です……!(としをとってしまった)
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