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ドラゴン、授業参観をする。

 事務局員さんが案内してくれたのは、広い演習場だった。

 ステンドグラスやシャンデリアが輝くそこは、ダンスパーティも行われるのだそうだ。



「ここで魔法を練習するんですか? あぶなくないです?」


「大丈夫です。フローレンス女学院の校舎にはすべて防護結界が施されておりますので!」


「へぇ……あっ、オリビアだ」



 入り口から、授業の様子を見てよいということだったので遠慮なく覗いてみるとオリビアと同じ背格好の女の子が6人。

 魔法演習の授業中みたいだ。


 オリビアの麦色の三つ編みを見つけて、ボクは嬉しくなってしまう。

 教官の先生の説明を、ふんふんと頷きながら真剣に聞いているオリビア。わあ、とてもまじめに授業を受けている! か、可愛い!!



「選抜クラス……通称ゼロ組ですね。オリビアさんは、とりわけ優秀と学院中で評判ですよ」


「そうですか。嬉しいなあ!」


「とても素直な性格ですし、私もオリビアさんのことはつい応援したくなってしまいます。それに、この学院の生徒さんにしては偉ぶったところもなくて……おっと、失礼。今のは忘れてください」



 事務局員さんは「ふぅ」と溜息をついた。

 なんだか、苦労しているんだなぁ。



「制服のスカーフを、この子達は二枚しているのが見えますか?」


「え? ああ、本当だ。学年色の赤いスカーフの他に、黒いスカーフをしていますね」



 キャラメル色のローブの襟を飾るスカーフが、赤と黒の二色になっている。

 たしかに、ほかの生徒たちは黒いスカーフはしていなかったはずだ。



「黒スカーフはゼロ組の証なのです、生徒たちの憧れの的ですよ」


「へえ、そういう仕組みなんですか」


「黒スカーフを身に着けている生徒は、図書館の閲覧室や食堂も優先して使えるんです」


「へぇ」


「それを鼻にかけて、ゼロ組の生徒のなかには黒スカーフ以外の生徒と関わらない子もいるのですが……オリビアさんは、一般生徒ともよくお喋りしていらっしゃいますね」


「そうですか……オリビア、たくさん友達つくったんだ」



 ボクは嬉しくなってしまう。

 にこにこしながら演習場を眺めていると、生徒たちが立ち上がった。



「あ、はじまるみたいですね」


「わぁ、頑張れオリビア~~っ!」



 ボクは思わず声をあげてしまう。

 と、オリビアがぱっとこちらを振り向いて、



「あっ、パパ~!」



 と手を振ってくれた。わぁ、可愛い!

 すぐに教官さんに、



「オリビア・エルドラコさん、授業中ですよ」



 と、たしなめられていた。

 ご、ごめん、オリビア。

 ボクが、あちゃ~という顔をしているの見て、教官さんがボクたちに声をかけてくれる。



「保護者の方、よろしければこちらでご見学されては?」


「え、いいんですか!」


「ええ。我が学院の選抜クラスの、初めての魔法実技演習ですので」


「初めて、ですか」



 なんでも、前期はずっと教室で呪文の唱え方とか魔法陣の書き方とかをやっていたらしい。今日、はじめて実際に魔法を試し打ちしてみるのだそうだ。


 魔法陣ってあれか。

 魔法が得意じゃないニンゲンが、魔法の構造をメモするやつ。

 たしか、呪文っていうのもそうだよな。魔王さんが持っている魔導書に書いてあった、発動式。



「ぜひ、当学院の指導成果をご覧になってください!」



 ボクは、室内の一角にある椅子に座らせてもらう。

 うーん。

 何千年か昔は、魔法ってみんなが普通に使ってたから「授業」っていってもピンとこないな。オリビアは、小さいころから魔王さんと練習していたから、ちょっとは授業がやりやすいといいけど。



「では、まずは前期の『魔法実践』で成績が振るわなかった順から……といっても、みなさんはほぼAランク以上の成績を取っているわけですが」



 指名された生徒が、前に出る。

 あとから出てくる方が、成績が良いということか。

 みんなに成績が知れ渡っちゃうんだ……なんだか、ピリピリするなぁ。


 そんなボクの考えを読み取ってくれたかのように、教官さんが説明してくれる。



「当学院は徹底した能力主義を取り入れることで、良家のご息女たちを集めることのリスクを減らしているのです……政治的に対立している家の娘同士という生徒もいますので、成績の基準はシンプルなほうがいいでしょう」


「はぁ」



 子供たちはボクが見る限り楽しそうに過ごしているけれど、大人は色々気を使っているんだなぁ……。



「私は魔法陣を使います!」


「よろしい。では課題は、『初級炎魔法 フレム』の発動……はじめ」



 最初の生徒が、チョークを使ってすらすらと地面に魔法陣を描く。

 できあがった魔法陣のはしを、指でとんとんと叩いて魔力を通すと――、



「フレム!」



 小さな炎が、魔法陣から吹きあがった。



「発動確認。いいですね」



 パチパチ、と5人分の生徒の拍手。

 ボクも、思わず拍手をした。

 ちっちゃい子が頑張っている姿は、なんだか応援したくなっちゃう。



「わぁ。今の人はこうやって魔法使うんですね!」


「今の人?」


「な、なんでもないです!」



 事務局員さんと教官さんに、けげんな顔をされてしまった。

 いけない、いけない。



「次の方、前へ」


「わたしも、魔法陣で……こうして、こう。できました!」


「発動確認。すばやい描画、いいですね。次の方」


「私は、呪文で発動します! ……『産声をあげよ、魔の種火』」


「よろしい、発動確認」



 次々に、生徒たちが魔法を発動している。

 オリビアの番はまだかなぁ……、とボクはわくわくしてしまう。

 残りの生徒は、ふたり。



「次、デイジー・パレストリアさん」


「はいっ!」



 あ、デイジーちゃんだ。

 がんばれー、とボクは小さく手を振る。ボクのほうを見て、こくんと頷いてくれた。



「パレストリアさん、前期の成績はSだったわね。……みなさん、Sランクの方の魔法実技です。よく見ておくように」



 教官さんが声をあげる。

 生徒たちが、真剣な表情でデイジーちゃんの動きに集中した。


 オリビアも背筋を伸ばして、



「がんばれっ、デイジーちゃんっ!」



 と両手をぐっと握って、デイジーちゃんを送り出す。

 デイジーちゃんは、藍色の髪を揺らして前に歩みでる。



「わたくしは、印結びと呪文の組み合わせでいきます」


「ほぉ、印結びとは珍しい。手の形に意味を持たせる魔術形式ですね」



 教官さんが感心したようにつぶやく。

 デイジーちゃん、優秀なんだなぁ。



「いきます。『魔の種火』!」



 小さな手で印を結んで、短い呪文を唱える。

 あっという間に、小さい炎が燃え上がった。



「おお~!」



 と、オリビアが目を輝かせている。

 デイジーちゃんの活躍が嬉しいみたいだ。


 教官さんが、手に持っている板に手をかざした。

 板に浮かび上がる文字列を目で追って、うんうんと頷いている。



「よし。発動を確認。魔力の流れや術式もきれいです」


「あの、その板はなんですか?」


「ああ、これは魔導板(タブレット)です。生徒の成績状況をまとめたり、あとは空気中の魔力の流れを測定して使われている魔法が適切かどうかを計測できるのです」


「へぇ~、便利ですね」



 ボクが見たことない道具だった。

 空気中の魔力の流れなんて、そんな道具がなくても自然に分かるものだと思っていたけれど……ニンゲンって大変だなぁ。



「さあ、最後は……神童と名高い、オリビア・エルドラコさんですね」


「はいっ!」



 オリビアがぴょんっと飛び上がる。

 ボクに向かって小さく手を振っている。によによと笑ってしまうのをこらえられていない口元が、とても可愛い。オリビア、はりきっているなあ。



「前期の成績はS+、なかなかない成績ですね……。まあ、教室で学ぶのと実際に発動するのとでは違うこともありますから油断しないように。みなさんも、エルドラコさんの実技をしっかりと見学をして、真似できるところは真似してくださいね」



 教官さんが、クラスの5人を見まわす。

 全員が、こくりと小さく頷いた。



「パパ、見ててねっ」


「オリビア~、見てるよ~!」



 ほっぺたを赤くして張り切っているオリビア、とっても可愛い。

 がんばれー、と心の中で応援しながらボクは見守る。



「それでは、はじめてください」


「はい、わかりました。えいっ!」


「? 呪文なのか魔法陣なのかの宣言を……って、えぇ!?」



 教官さんがびっくりしている。

 わあ、オリビアすごい! どの子の炎よりも大きいし、きれいだ!!

 さすが、ウチの子! 炎の形とかもきれいな球になっているし、オリビアってば芸術のセンスもあるんじゃない!?



「わぁ、大きい!」

「しかも、今オリビアちゃん魔法陣も呪文も使ってなかったよ」

「無詠唱、だよね?」



 クラスメイトの子たちが、目を丸くしている。

 ああ。それにしても、みんなあんな小さな火を出して……手加減していたのかなぁ?

 教官さんが、慌てて魔導板(タブレット)を起動する。



「ちょ、エルドラコさん! 課題は初級魔法のフレムですよ、中級魔法のフレイム・ポールじゃないのです。中級以上の魔法を勝手に使ってはいけません……って、あぁっ!?」



 魔導板(タブレット)の情報を見て、教官さんは叫んだ。



「こ、これ……フレイム・ポールではない。ほんとうに、フレムだわ」



 ぽかん、としている教官さんにオリビアが尋ねる。



「あの、先生。いつまで出していればいいですか」


「……え? あ、も、もういいです! ありがとう、エルドラコさん」


「はーい」



 オリビアが魔法を消すと、クラスメイトたちから大きな拍手があがった。

 みんな、口々に「オリビアちゃん、すごいね!」とほめてくれている。わあ、嬉しいな。あ、もしかして、みんな小さな火しか出さなかったのは、ボクが見に来ているからオリビアに気を使ってくれていたのかな?



「えへへっ、パパが見に来てくれてるからね。オリビア、はりきっちゃった!」



 ニコニコとみんなのもとに戻るオリビア。

 オリビアは、もう一度ボクに小さく手を振ってきてくれた。

 ボクも手を振り返す。

 見てたよ、オリビア。頑張ったね!


 教官さんが、



「いまのエルドラコさんの素晴らしい実技、みなさんしっかりと見ていましたか。その……まねるべきところは、しっかりと真似をしてくださいね」



 とクラスに指示をする。

 誰かが、



「えぇ……まねできないよ」



 と、呟いたところで、ころんころん、とチャイムが鳴った。



***



 そういうわけで、ボクのはじめての授業参観は終わった。教官さんがすごくグッタリしていたけれど、大丈夫だろうか。



 事務局員さんから、今日の夜に三者面談があることをオリビアに伝えてもらった。

 とりあえず、オリビアが楽しそうなのと、勉強で不自由してなさそうなのが分かってよかったなあ。友達と教室に帰っていくオリビアが、ボクに大きく手を振る。



「またあとでね、パパ!」


「うん。またあとで。オリビア」



 笑顔で友達とお喋りをしながら去っていくオリビア。

 その背中を見送って、ボクは嬉しいような寂しいような気持ちになる。子どもは、大きくなっていくんだなぁ。


 うん。……やっぱり、いまのお友達と一緒に過ごさせてあげたいな。

 ボクは、そう思った。

オリビアちゃん……w

お読みいただき、ありがとうございます!

評価ポイントや感想は、最新話のページ下部からよろしくお願いいたします。


***


まだまだ日間総合ランキング・ハイファンランキングにおります!!

(おおむね定位置の20位、10位くらい……)

ブクマ・評価・感想などの応援嬉しいです、ぜひぜひ引き続きよろしくお願いいたします。

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