ドラゴン、ピクニックに行く。2
手を洗って、ランチクロスを広げて。
ぽかぽかとふり注ぐ日差しのなかでランチバスケットを開けると、オリビアが「わぁぁ~っ」と歓声を上げた。
「わぁ、わぁっ、すごいよパパ! オリビアの好きなものばっかりっ!!」
「ふふ。せっかくのピクニックだからね、準備したんだ」
「えへへ~。パパ、だいすき!」
「おっと、急に抱きついたらあぶないよ。オリビア」
オリビアが喜んでいると、ボクもほかほかした気持ちになってしまう。
バスケットの中身をのぞき込んでいた魔王さんが首を傾げた。
「あぅ? なあ、古代竜よ」
「なんだい。魔王さん」
「りょ、料理がないのであるが」
困惑した表情の魔王さん。
ランチバスケットにたっぷり詰まっているのは、まず色々な種類のパンだ。
胡桃の香りがこうばしい木の実パンに、しっとり食パン、まぁるいモチモチのベーグルパンに、サクサクとしたバターの風味たっぷりのクロワッサン。
それから、もうひとつのバスケットにはハムやソーセージ、数種類のチーズにそれに卵を潰してスパイスで風味をつけたフィリング、塩に胡椒にバターにハチミツ、それから瓶につめた風味豊かなオイルなんかも詰め込んである。
ハーブもこんもりもってきたし、果物のジャムも何種類も持ってきたんだ。
「わ、我のお弁当は……?」
ぷるぷる震えている魔王さん。
ああ、しまった。
説明不足だったかな。ボク、うっかり。
「えっとね、魔王さん。これはサンドイッチだよ!」
「あぅっ、でもこれ、サンドされてないよっ!?」
「だから、こうして……こうして……」
ボクは、オリビアが大好きな木の実パンをナイフで半分に切って、バターを薄く塗って。
「こほん。オリビアお嬢さま、ご注文はありますか?」
「えへへ。えと、えっとね、オリビアは……クリームチーズとね、えっと、あと……アプリコットのジャムがいいっ!」
「かしこまりました」
ボクは芝居がかってお辞儀をすると、半分に切った木の実パンにアプリコットのジャムをたっぷりとぬりつけて、気温でゆるくなったクリームチーズもこってりと塗りつけた。
それを、同じようにバターとジャムを薄くぬったもう半分のパンに挟んで――
「さあ、どうぞ。お嬢さま」
「わぁあいっ!」
作りたてのサンドイッチをオリビアは両手でうけとって、かぶりついた。
「んん~~っ、おいしいっ!」
オリビアはとっても嬉しそうに、ぱくぱくサンドイッチを食べはじめる。
魔王さんはそれをじっと見ていたけれど、オリビアのおいしそうな表情にごくりと喉をならした。
「あぅっ、い、いいないいな! クラウリア、我もっ!!」
「ええっ。マレーディア様、自分でお出来になるでしょう」
「クラウリアが作ったのがいい!」
「はいはい。ふふふ……オリビアさんが帰ってくると、本当にたのしそうなんですから」
「むっ? なにか言ったか」
「いいえ。さあ、ご注文は?」
「あぅっ、えっと、バターとハーブと……あ、ソーセージものせるぞっ。それに、たまごも! あ、あとあと、チーズものっけたい! ええい、この魔王マレーディアにふさわしい全部のっけにせよ~」
魔王さん、ほんとに楽しんでいるみたいだ。
ボクはオリビアのほっぺたについたジャムをぬぐってあげながら、自分のサンドイッチも作る。野草たっぷり、塩と胡椒と、オイルもかけて。
「ん。おいしいね、オリビア」
「うんっ、お外で食べるのたのしいね!」
クラウリアさんも、魔王さんの分を作り終わって自分の分を作りはじめる。
「なるほど。サンドイッチは時間が経つとしなしなになってしまいますが、これなら作りたてが外でも食べられますね。さすがです、古代竜」
そんなことを話ながらテキパキと手を動かしているクラウリアさん。
その手元を見て、ボクはびっくりする。オリビアもすぐに目を輝かせて、声をあげた。
「わあ、シマシマだ!」
クラウリアさんの持っている食パンには、バターとジャムで綺麗なストライプ模様が描かれていたのだ。マーマレードのオレンジ色とバターの淡い色が眩しい。
「すごーい!」
「ああ、これですか。マレーディア様がお小さいときによくやって差し上げたのを思い出しまして。本来はトーストにするのですが」
「あむ。なつかしいな」
大きなサンドイッチを頬張りながら、魔王さんも目を細めた。
ふたりにとっての思い出の一品なんだろう。ボクとオリビアにとっての、ミルクスープみたいな。
「いいないいな! あとでオリビアにもやって!」
「もちろん」
「あぅっ、ずるいぞ! 我のが先~っ!」
「あら。マレーディア様まだ召し上がるんですかっ!」
「う……っ、そ、外で食べると、おいしくて、つい」
「えへへっ! ピクニックたのしいもんねっ。マレーディアお姉ちゃん」
にっこり、と笑うオリビアに、魔王さんも「あぅあぅ……」と頬を赤くしながら否定はしなかった。ああ、ほんとうに、いい日だなあ。
***
楽しかったピクニックの次の日から、オリビアは少しだけ早起きするようになった。
森でとってきた図鑑に載っていない草を庭の片隅で育てることにしたのだ。
ほかにも、いくつか薬草を植えて畑にしている。
「えへへ。ちゃんと育つかな!」
「オリビアなら、大丈夫だよ」
にこにこと毎朝水やりをするオリビアは、本当に楽しそう。
なんでも、この草の観察日記を「自由研究」として学校に提出するのだそうだ。
うーん。何の変哲もない草だけどなあ。
山にもいっぱい生えてるし。
何の変哲もない草だけどなあ(フラグ)w
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