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ドラゴン、脱出する。


「……【七天秘宝ドミナント・セブン】の魔力さえあれば、人間の俺でも長命を得られるかもと……思ったんだが、やっぱり俺は未熟な魔導師だなぁ……」

「とうさん、ぼく……ぼく……」


 どんどん萎れていくヴァンディルセン君。

 みるみる健康そうになっていくカゲ君。

 ボクたちには、それを見ていることしかできない。


「……ううううむ。不自然なことをすれば、そのぶん人間は苦しむことになる」

「スライムさん?」

「ここここの大陸があの男のわがままで滅んだように、あの男がカゲの魔力を使って苦しみながら生き延びたように……あの男は、ひとりぼっちの自分をカゲという息子で埋めようとしたのが……すべての間違いだったんだな……ぷるるる」

「……ひとりぼっちを、カゲ君で埋めようとした」

「うむむむ、生き物というのは輪を自分の外に広げないと生きられないものじゃよ……分裂して増えるスライムでも、な」

「輪を、自分の外に……か」

「あう……引きこもりには耳が痛い話じゃ」

「マレーディア様は大丈夫ですよ、少しずつでよいのです」

「そうじゃな……。それにしても、不定形ぷるぷる生物は深いことを言うのぅ」

「ほほほほ。それは、大陸すべての生物の命を引き継いでおるゆえ」

「……は!?」

「ここここのぷるぷるの水分がどこからきていると思うのか。イノシシにシカに蝶々に……かつてこの大陸に生きていた生命の水分でこここのスライムはいきておるぞぞぞ」

「え、えぐい」


 魔王さんがほっぺたをヒクヒクさせている。

 命は形が変わって、別の生き物に。

 お山でずっとボクが見つめてきたことと同じだけれど、本人に言われると「うげっ」ってなるものなのかな。


「きゃあっ! ぱ、パパ!」

「え……って、うわー! オリビア!」


 ボクらは仰天した。

 オリビアの、お尻が眩く光っていた。

 虹色に。


「な、なにそれ!」

「オリビアがレインボー蛍に!?」

「ちがいます、よく見てください……ポシェットですよ!」


 よく見ると、オリビアの鞄だった。

 まるく虹色に光る、それは。


「……ぷるるるん。大変な魔力……さっきの石と同じか、それ以上……」

「高濃度の魔力です、もしかして──」

「すっごい光ってる! 【失われし原初ロスト・ワン】だ!」


 オリビアが鞄から光り輝く【失われし原初ロスト・ワン】を取り出す。

 まぶしい、ものすごくまぶしい。


「……な、んだ、それは」


 ヴァンディルセン君が目を見開いた。

 もう死んでしまいそうなほど衰弱しているのに、興味と驚愕が入り交じった研究者の顔をしている。若い頃に出会ったヴァンディルセン君の面影が、そこにはあった。


「もしかして、これが本当の【星願いの儀式】なの……?」

 【七天秘宝ドミナント・セブン】は粉々になってしまった。

 でも、どうやらその魔力が、【失われし原初ロスト・ワン】に宿っているようだった。

 長年生きてきたボクでも、見たことがないくらいの──ぞくぞくするくらいの、すごい魔力だ。


 七つのきらめき、一つの星に。

 一つの星は、一つの願い。

 叶えて照らすよ、星願い。


「そっか……。この、お歌。ひとつの星に……」


 オリビアが手の中の虹をじっと見つめる。


「じゃあ、なんでも願いを……叶えられる……?」


 ──【星願いの儀式】。

 なんでも願いが叶う、魔法の儀式だ。


「……カゲ君、あの、えっと」


 オリビアが虹色の光を大事そうに抱えながら、カゲ君に話し掛ける。

 ヴァンディルセン君がそれをさえぎった。


「ははは、あはは……そうか、俺はそもそも、【星願いの儀式】すら完成できていなかったのか……人間達が歌い次いでいた歌なんか、知るわけが……」

 ごほごほと、激しく咳き込む。カゲ君は「お父さん!」とヴァンディルセン君にすがりつく。

 オリビアはじっと、それを見ていた。


「その光で、俺を滅ぼせば……いい」

「いやです」

「それとも、お前が俺の代わりに長命を得るか? ドラゴンと共に、生きられるような……」

「それも、いやです」

「……じゃあ、お前は何を願うんだ?」


 オリビアはごそごそと鞄を探る。

 エリ草を取りだした。どんな病も治す、万能の薬草。


「これ、カゲ君を元気にすることもできた薬草です」

「……なにを、するつもりだ」

「オリビアは、あなたを──」

「やめろ」


 ぴしゃり、とヴァンディルセン君が言った。


「どうせ俺は、もう……。もう、これ以上カゲを傷つけたくない」

「おとう、さん」

「ごめんな、カゲ……ずっと、おまえといたかった。だが、俺がお前を……孤独に、してしまったな」


 どごん!

 足もとが揺れた。


「わっ!?」

「この城はもう、崩れるよ。地下にある魔法陣と、俺の魔力で、保っていたから」

「お父さん、死なないで……やだ。ぼくを、ひとりにしないで……」

「カゲ」

「お父さんが苦しみながらずっと生きているの、嫌だった……でも、でも」

「いいんだよ、カゲ」


 ごう、どどどどん!

 お城がどんどん、崩れていく。

 ヴァンディルセン君とカゲ君のふたりだけのお城が。


「ここここれで誰も、いなくなる」


 スライムさんが呟いた。


「あう~っ! やばいのじゃ!」

「崩壊が早い、退路を確保しなくては!」

「でも、どうやって! 窓もなけりゃ、扉もない部屋じゃぞ!」


 ボクは体を大きくする。

 頭上からガラガラと落ちてくる瓦礫は、ドラゴンには痛くも痒くもない。


「あぶないっ!」


 オリビアと。

 ヴァンディルセン君とカゲ君に覆い被さる。


「パパ」

「……古代竜」


 ヴァンディルセン君の目がボクをとらえる。

 その目は、昔の──大昔にボクを見た、キラキラと憧れを宿した目と同じだった。


「ああ、そうだ……カゲを拾ったときに、お前のこと思い出したんだよ……大きくて、おだやかで、つよくて……カゲがもし、あの日にあった古代竜のようになれるなら、どんなにいいかって……」

「おとうさん……」

「なぁ、勝手なお願いなんだけどな……カゲ、お前、幸せに生きて……父さんがいなくても、お前はきっと、幸せに……」

「おとうさん」

「ごめんな、お前の世界……広げてやれなくて」


 魔王さんが、叫ぶ。


「やばいぞ! もう崩れるのじゃ!」

「みなさん、こちらへ!」

「でもどうやって逃げ出せば!」


***


 海の上。

 船の上。

 意気揚々と、フィリスが叫ぶ。


「さぁ、私の学院の生徒たち! いきます!」


 エスメラルダが高笑いをする。


「我が愛弟子よ、いくぞ!」


 子どもたちが、大きく頷く。


「「はいっ!」」


 全員の魔法と魔力を集結させて。

 パオパオの甲羅を発射台にして。

 シルフたちの導きと──


「魔族の誇りを見せよ、我が同胞たちよ!」

「「「うおおお!」」」

「せーのっ!」

「「「フレー、フレー、子どもたち!」」」


 マレーディアたちを城まで送り届けて、魔力がすっからかんになってしまった魔族たちの応援合戦により。


「友情ビーム、発射ですっ!!」


 城の土手っ腹に、穴が空いた。


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