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一方その頃

 マレーディアはきりりとした顔で【死の大陸】への第一歩を踏み出──


「うわーーん、やっぱり怖い~~っ!」


 ──踏み出さなかった。


「そうですね……オリビアさんたちが教えてくださった抜け道、というところにたどり着くまでに、そうとうの消耗が考えられます……」

「あう! クラウリア、もう起きてよいのか?」

「はい。フィリスさんの治癒魔法で、多少は回復しました」

「む、やるではないか。エルフのくせに」

「ええ。魔王のくせにウジウジしている誰かさんよりは」

「ぐぬぬっ」


 オリビアたちを助けに来た大船。

 【死の大陸】がその大地を踏みしめたものの魔力や生命力を吸い取る特性があることが確認され、人間の子どもたちは船から下りないことにした。

 子どもたちだけを残していくわけにも行かないので、フィリスとエスメラルダは残留することになった。

 本来は子どもたちをあずかる立場なので、当然の人選。

 そうなれば、当然大陸に上陸するのは魔族二人。


「うう~……せめて、一気に駆け抜けられれば……」

「私が鷹の姿に変身して、黒猫姿のマレーディア様を抱えて飛ぶとか」

「そ、それじゃ!」


 びし、とマレーディアが決めポーズ。

 作戦は決まった。


「では、マレちゃんさんたちが頑張っている間に、私たちは他にオリビアちゃんたちを助ける方法がないか考えておきましょう!」

「そうでありまする、でっかいバケモノがでてきたとしてもやっつけられるような作戦を~」

「まぁ、オリビアのパパがいれば大丈夫そうですけど……」

「それはそれとして、っすよ」


 全員の心は一つだ。


***


 マレーディアたちは少し飛んだところで、墜落した。

 シルフたちの声を頼りに飛んでいたところ、うっかりクラウリアの羽が岩の起伏に引っかかったのだ。

 一度地面に落ちてしまえば、変身がとけてしまう。

 ドラゴンが人間の姿になることすらできない、【死の大陸】。

 クラウリアはなすすべなく、もとの姿でへたり込んでいたのだった。


「あうぅ~~」

「……きゅうっ」


 万事休す。

 とぼとぼと歩いて、どうにか船までかえろう。

 そう思っていたときだった。


「くくく……力がほしいか……!」


 悪そうな声で、悪そうなセリフを言い放つ声。

 聞き覚えのある声に、顔を上げる。


「……ちちうえ?」

「いかにも! 魔帝タナトスである」


 魔族の帝王。

 魔界を統治する、偉大な帝王。

 マレーディアの父、タナトスだ。


「まったくもって、魔界と人間界をひとつにすると予言されたお前がこんなところで地を這いつくばっているとはな」

「あううぅ」

「こほん、タナトス様。あの……そのような格好つけのせいで親子関係が拗れていると先日反省していらっしゃったのでは」

「はっ! しまった、登場シーンともなるとつい!」


 側近に注意されて、バツが悪そうなタナトス。


「なんで、父上がここに?」

「マーテルからの一報があったのだ。シルフたちからの通信によると、マレちゃんたちが大ピンチだと」

「マレちゃんとかよーぶーなー!」


 タナトスが、にたりと笑う。


「我が娘の──それにパパ友のピンチともなれば、駆けつけるのが魔帝の流儀よ!」


 ばっ! とマントを翻す。

 そのとたんに、多くの魔族たちが姿を現した。


「幸い、この大地はカラッカラに乾いておる。魔力の干渉もなく、我らが軍勢が千年ぶりに人間界の大地を踏めた!」


 魔帝タナトスは高笑いをして、悪の帝王ムーブをした。

 マレーディアよりも板に付いているのは、当然のこと。年期が違う。


「ゆけ、マレーディア! 行く先へと歩け走れぶっ飛んでいけ~!」

「あ、あう……? でも、どうやって」

「これが、魔族の答えだ~っ!」


 だだだ、と魔族たちがマレーディアとクラウリアの前に走り出て……バタン、と倒れ込んだ。わざとが半分、本当に大地に魔力を吸い取られてしまったのが半分。

 そっせんして大地に倒れた魔族のひとりに、魔帝タナトスとマレーディアの兄姉たちがいた。


「は……?」

「ほら、俺たちの屍を超えていけ! 生きてるけど!」


 要するに。

 地面に触れるのがダメなのならば、触れなければ良い。

 地面の上に倒れた魔族の体のうえを走って行けと。


「はあぁあぁあ~~っ!? あ、頭悪すぎるんじゃが!?」

「圧倒的な作戦というのは、ときに馬鹿なのだ!」


 自信満々に言い放たれると、妙な説得力が生まれる。


「ほら、行け!」

「あう……っ」

「オリビアちゃんと、古代竜によろしくな!」

「お、恩に着るぞ父上~~!」


 走り去るマレーディア。

 戸惑うクラウリア。


「あ、ありがとうございます。タナトス様」

「うむっ、クラウリア!」

「はい?」

「あの子をよろしく頼む」

「……はいっ」


 マレーディアとクラウリア。二人の指には色違いの宝石がはまった指輪がキラリと光る。

 タナトスは、魔族たちの背中をむぎゅむぎゅ踏みつけながら走る二人の背中を見送って、満足げに微笑んだ。


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