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一方その頃。

 ヴァンディルセンは、満足そうに輝く宝石を見ていた。

「うんうん、これでいい」

「……うぅ」

 愛する息子が眠る寝台。

 その周囲には、【七天秘宝ドミナント・セブン】。

 面倒な【星願いの儀式】の下準備はできた。

 やっと、この特別な宝石が溜め込んだ膨大な魔力を使うことができる。

 昔、自分の未熟な魔術でドラゴンのカゲと同じ時間を生きられるようにと願ったことが、全ての間違いだった。

 術式は、こともあろうにカゲの魔力を吸い取ってヴァンディルセンの命を長らえさせた。そのせいで、カゲはいまだに幼いままだ。もちろん、最後のドラゴンとしての生まれつきの弱さや、古代竜たちが生まれたときとの環境の違いもあるだろうが。

「これがあれば、俺の呪いからお前を解放できるんだ。カゲ……」

 ヴァンディルセンが死ぬ可能性もある選択だ。

 けれど、これでいい。

 【七天秘宝ドミナント・セブン】の魔力があれば、カゲの体を強くすることもできる。彼が大人になることもできる。

 大陸一つを、ながいながい時間をかけて食い潰してしまった。

 けれど、それも今日までだ。

「ずっと、ふたりでいられるんだ」

 ヴァンディルセンは微笑んだ。

 カゲが次に目が覚めるのは、すべてが終わったあと。

 きっと、よろこんでくれるに違いない。


 ふと、顔を上げる。


「おーい、カゲくーん!」

「カゲ君、どこー?」


 ヴァンディルセンは「むっ」と顔をしかめた。

 どこかから声が聞こえた。聞いたような声だが、どこで聞いた声だかはわからない。あの船に乗っていた誘拐犯だろうか。

 不愉快だ。

 自分以外が、カゲの名前を呼んでほしくない。


***


 広い海からみれば、大きな船も一枚の葉っぱみたいなものだ。

 海の上に、葉っぱが一枚。

 猛スピードで東に向かっていた。

 船を何者かがロープで引っぱっている。

 普通ではありえないほどのスピードだ。

 船員のいない甲板で、キャプテン帽子のマレーディアが「はわわ」と震える。

「あうー、亀ってこんなに早く泳げるんじゃな!?」

 隣では得意げなのエスメラルダ「甘いな」と腕組みをする。

「魔族よ。亀の力だけではない……見ろ」

「とおおぉーう、わらわのほうが! 速いのでありまするーっ!」

「ふぉふぉふぉ、負けんぞーぅ」

 学院スクール水着姿のリュカが、得意の水魔法を駆使して泳いでいた。いや、泳いでいるというよりも海面を跳ねている。

「わらわが受け継ぐ水竜の血! 今こそ力を~っ」

「亀とて負けんぞい~っ」

 本来であれば何日も航海を続けなくてはたどり着けない東の果ての【死の大陸】──もう後数時間で到着しそうだ。


「最高級の船、手配できて良かったです」と、貴族令嬢デイジー。

「国の決定を待っていたら、年が明けてしまいますもの。権力とお金は使い物ですわよね!」と、宝石店のお嬢様ルビー。

「白兵戦なら僕に任せてほしい、斥候もできる」と、小さな軍人のイリア。

「はいはーい、腹は減っては戦はできぬ。ごはんっすよー」と、宮廷料理人の愛娘のケイト。

「……ぅ、レナも……がんばるっ」とペンとノートを持ったクラスの人気作家レナは従軍記者気取り。周囲には森で暮らす風の精霊シルフを連れているから、どんな声も風に乗せて聞こえるようにするつもりだ。


 オリビアが新しい友達を追いかけて奮闘していると聞いて、クラスメイトが集まった。オリビアは彼女たちの大切な友だちだ。

 フローレンス女学院の理事長として引率を申し出たフィリスも、にんまりと嬉しそうだ。

「ふふっ、未来の王国中枢……といった趣ですね」

「僕もついてきてよかったのでしょうか、お母様」

「ええ、もちろんですよ。セラフィ」

 愛娘のセラフィも一緒。

 草木を愛して庭園魔法という新しい魔法を開発した、小さな庭師だ。

「東の【死の大陸】は、草木がすべて枯れているらしいと聞きました。その原因や改善は、きっとあなたが適任よ」

「お母様……!」

 幸いにして、誰も船酔いにはかかっていない。

 【死の大陸】に近づくにつれて、ヴァンディルセンが長い間飼い慣らしていたセイレーンや巨大なイカやクジラが船を襲ったけれど、力を合わせればなんということはなかった。

 順調に、船は進む。

「あうっ、見えたぞ~っ! やろうども~っ」

「野郎ではありませぬ、マレちゃん!」

 マレーディアの掛け声に、船をひっぱるリュカが叫ぶ。

「レディたち、でありまするよ!」

「あう……海賊っぽくない」

「ふふ……以前から申し上げようと思っていたのですが、海賊じゃありませんからね。マレーディア様?」

「えー」

 緊迫しているような、していないような。

 そんな空気中で【死の大陸】に望む。

 目標は、ひとつ。

 オリビアと、オリビアのパパの手助けをすること。

「まぁ、あの方たちに手助けはいらないかもしれませんが」

「ちがいます、フィリス先生」

 優等生のデイジーが、めずらしく先生に意見する。

「私たちが、友達を助けたいんです」

「そう。頼もしいわね。ふふっ」

「先生?」

「いいえ。オリビアさんは、本当に素晴らしい【王の学徒】だわ」

 エルフは長寿だ。

 人間たちの人生をたくさん目にしてきた。

 だからこそ、知っていることがある。

「……頼れる友達を持っている人が、世界で一番強いんですから」

 力強い海風が、船を後押しした。


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