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ドラゴン、空を飛ぶ②


 死の大陸。

 そんなふうに呼ばれているのは、大きめの島、ないしはかなり小さめの大陸というのがぴったりの場所だ。

 草木は枯れ果てている。

 生命は見当たらない。

 その中心に忘れ去られたようにそびえる城。

 たった二人しかいない住人が、ヴァンディルセンとカゲだ。

「あぁ、怖かっただろう。カゲ……あのような野蛮なやつらに誘拐されるなんて……ドラゴンの生け捕りという武勇伝だとか、そういうくだらないことのためにお前が酷い目にあうなんて、許せないなぁ」

「ち、がう……とうさん、ぼくがにげだしたんだ」

「ああ、まだ混乱しているんだね。心配することはないよ。人間どもごときに、ここまでたどり着く手段はないんだから」

「とうさん……こほっこほっ」

「ああ、もう。大丈夫か、カゲ。無理をするから咳が出てきてしまった……あいつらは今頃、海の藻屑になっているだろう。安心してお眠り」

「とう、さん……やめてよ、あんなこと……【七天秘宝ドミナント・セブン】なんて、もういいんだ……ぼく、もういいんだよ」

「そんなことを言わないで、カゲ。俺の大切な分身」

 カゲの瞼がどんどん重くなる。

 優しげな微笑みを浮かべるヴァンディルセンを、泣きそうな顔で見上げたカゲはその場でくずおれるように眠りについた。

 ヴァンディルセンは、カゲを優しく抱き上げる。

「さ、おいで。ゆっくりお眠り……明日は満月だ」

「ぅ……すぅ……」

「やっと、やっと俺たちの……僕らの夢が叶うんだよ、カゲ」

「とう、さん……」

「うん。ずっとずっと、二人で暮らそう。そのために俺は、本当の不老不死を手に入れるから」

 人間の身で、六千年の長きを生きてきたヴァンディルセン。

 彼がどうして、そのようなことが出来たのか。

 それは、無理を重ねたから。


 最初にくみ上げた不老不死の術。

 こともあろうに、愛する息子──ドラゴンの最後も末裔であるカゲの生命力をヴァンディルセンに分けあたえるという形で発動してしまった。

 術を解けばヴァンディルセンの生命はすぐに終わってしまうし、術を続ければ魔力の少なくなった大地に生まれたドラゴンであるカゲの体調はどんどん悪化する。

 しかたがなく大陸をのっとって、周囲の生命力を吸い上げた。

 不老不死などという無理を通すために必要な生命力は存外に多かったようで、次第に大地は枯れ果ててしまった。次代の生命が大地に生まれなくなってしまったのだ。

 大陸全体におよぶ『ゆるやかに生命を吸い上げる呪い』は、ここを【死の大陸】に変えてしまった。

 もともと、生命が豊かだったとはいえないこの土地はヴァンディルセンの魔術の生け贄となりゆるやかに滅びていった。

 それでも、大地に根付いた魔力や生命力はしばらく耐え忍ぶ程度には機能してくれた。

 ヴァンディルセンは巨大な帝国や小さな部族に入り込み、気鋭の魔導師として振る舞っては、あるものの情報を集め続けた。

 そして、ついに手に入れるチャンスを見いだしたのだ。

 宝玉ひとつで、大陸一つよりもまだ多い魔力を有する、素晴らしい秘宝を。

「だが、【七天秘宝ドミナント・セブン】……この溜め込んだ大量の魔力と、【星願いの儀式】の術式さえあれば、きっと──」

 ヴァンディルセンはほくそ笑む。

 きっと、ヴァンディルセンに不老不死を与えてくれる。

 そうすれば、カゲとともに幸せに暮らせるのだ。

 ふたりの他には、誰もいらない。ずっと、この城で──。


***


 びゅんびゅんと雲が流れていく。

 空、海、ボクたち。

 船旅では、船や仲間という道連れがあったけれど、空を飛んでの移動ではボクたちの周囲には青い色しかなかった。

 まだ見えてこない大陸を目指して、ボクはびゅんびゅんと空を飛ぶ。


「わぁ。すごいね。気持ちいい……っ!」

「うん、でも、オリビアちょっと怖いかも」

「大丈夫かい? すこし、スピードを落とそうか」

「へーきだよ、パパっ!」


 タテガミにしがみついている、オリビアの小さな手は震えていない。

 とっても意志の強い声だ。

 オリビア、いつのまにかこんなに立派になったんだね。

 いつまでも小さなオリビアでいるわけじゃない。

 君はきっと、大切なものを見つけたんだ。


「あのね、パパ。オリビアはだいじょぶ。マレーディアお姉ちゃんたちが、オリビアたちに任せるって言ってくれたもん。それに、オリビアは【王の学徒】だし……それにカゲ君を、きっと助けたいんだよ」

「……うん」

「えへへっ、でもこうやって飛ぶのって……やっぱり、楽しいね」

「うん、そうだね」


 びゅんっ、とさらにスピードを上げる。

 今のオリビアだったら、ボクの背中から振り落とされることはない。

 ボクはドラゴンで、オリビアは人間。

 違う生き物だけど、ボクらは家族だ。

 オリビアのことを信じる気持ちが、ボクの中にはたしかにあるんだ。



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