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ドラゴン、人魚とカラオケ対決をする。②

 作戦、大成功。

 ボクの熱唱にはじめは驚いていた人魚さんたちが……しばらくすると、ケラケラと笑い始めたのだ。

 それはもう、お腹を抱えて苦しそうに笑っている。

 しばらくすると手を叩いて、なんだかノリノリになってるし。

 人魚さんたちは、すっかり歌うのをやめたのだ。

 ええ……すごく情感たっぷりに歌ったつもりなんだけど。

 しばらくすると、甲板に船員さん達がぞろぞろ出てきて、口々に叫んだ。


「に、人魚だ! 伝説はホントだったのか!」

「蝋の耳栓、用意してたんだけど出番がなかったな」

「というか、なんだこの歌!? なんか知らないけど、無性に元気が出てくるな……」


 ひとしきり驚いた船員さんたちが、ボクの歌声を聞いて笑い始める。中にはダンスをしている人もいるし……小さい頃のオリビアとまったく同じ反応だ。解せない。これ、子守歌なのに。

 オリビアはボクのとなりで一緒に歌ってくれている。

 祠の夜。月明かりを見上げながら一緒に歌ったのが懐かしい。


「よく覚えているね、小さい頃に歌っていた子守歌なのに」

「えへへ、ちゃんと覚えてるよ」


 らんらん、とリズムに乗って二人で歌う。

 なんだか楽しくなってきた。


「あう……我、寝てた? というか、このミョウチキリンな子守歌はぁ?」

「古代竜さんの声ですね……うぅん、よく寝ましたぁ……きゅうっ」

「わわ、また寝るでない、クラウリア~!」

「すみません、眠ったというか……あまりに独創的な子守歌で、つい」

「うむ、古代竜の子守歌を聞いたのは初めてじゃったが……あれじゃな、親子じゃな、我ってばこう……オリビアのとても独創的な『パパの絵』を見たときと同じ気持ちになっておるぞぅ」

「ええ、わかります。我が麗しきマレーディア様……」


 魔王さんとクラウリアさんが、によによと笑いながらこっちを見ている。

 ど、独創的なんて、そんな。

「……照れるから、やめてよね」

「いや別に褒めておらんが!?」

「まぁまぁ、古代竜さんのおかげで我々は沈没を免れたのですから……キャプテンとしては、お礼を言う場面なのでは?」

「あうっ、たしかに」


 魔王さんたちに遅れて、カゲ君が甲板に出てきた。

 よく食べてよく眠って、体力が回復したようだ。褐色の肌に白い髪をした、見慣れた男の子の姿でやってきた。


「これは……そっか、だからボク、途中で海に落ちたのか……」

「どういうこと?」

「……とうさんの家から逃げ出して、どうにか空を飛んでたんだ。そうしたら、急に眠くなって……」

「それで海岸に流れついたんだね」


 ということは、この先にヴァンディルセン君がいるので間違いなさそうだ。

 人魚さんたちはすっかり歌う気をなくしてしまったらしくて、船員さんたちが念のために耳栓をつけている。

 あとは嵐が弱まれば、快適な船旅の再開なのだけれど。

 そう上手くはいかないらしかった。

 雨はどんどん強くなり、風は真正面から吹いている。

 横殴りの雨というやつだ。


「オリビア、寒くない?」

「うん、大丈夫だよ。ありがとう、パパ」

「それはよかった」


 ちなみに、ボクはとても寒い。

 体の大きさのぶん、カゲ君よりは寒さに強いけどドラゴンっていうのは大きなトカゲだ。外が寒いと、動きもゆっくりになっちゃう。トカゲさんたちとは違って、空気中の力を吸って体内で炎を錬成できるから、それで動けはするけどね。


「さてさて、いつまでも甲板にいてもしかたないし、食堂に──って、あれ?」

「ぱ、パパ。なんか変な音がしない?」


 どどぅ、どどぅ、と不気味な音がする。

 たとえば何かが、海の下で蠢いているような。


「あう? でっかい亀のいびきか?」

「わしはもう起きているぞー」

「あら? では、この音は……?」


 なんだか嫌な気配がする。

 さっきまでボクの子守歌を聴いて笑っていた人魚さんたちが、不安そうな顔をしてお互いにひそひそ話をしていたかと思うと──慌てたように、海に飛び込んだ。

 その瞬間、


「おわ~~~っ!!」

「パパ!!」


 ボクの体が、何かに引っぱられる。

 体に巻き付いているのは、ヘビみたいなウニョウニョだ。しかも、なんらかのブツブツがボクの体にひっついて離れない。


「う、うわぁ!」

「げげぇ、古代竜~~っ!」

「マレーディア様、これって……」

「これ……とうさんが飼ってる、くらーけんだ……!」


 クラーケン?

 ヴァンディルセン君のペットなのか。

 あまり手荒なことはしたくないけど、まずはドラゴンの姿になってこのうにょうにょから脱出しないと──


「ごぼっ」


 あ、やばい。

 海の中に引きずり込まれたと理解するのに、ちょっと時間がかかった。息が出来ない。どうしよう。

 ボクの目の前が真っ暗になった。これって、あれじゃないか。


(……ぼく、おぼれてしまう……!)


 ああ、こんなことだったら、オリビアと湖に遠足にいったとき、もっと真面目に泳ぐ練習をしておくんだった。

 後悔しても、もう遅い。

 ドラゴンの姿になったら、もっと重くて沈んでしまうかも。そうなったら、ボクは自分では浮き上がれないし……。

 絶体絶命、っていうやつだ。

 海を炎で蒸発させる?

 いや、そんなことをしたら人魚さんたちもパオパオさんも美味しく茹でられてしまう。オリビアが乗っている船だって、無事じゃ済まない。

 そんなのは、ダメだ。

 困った……息が苦しい……。


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