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ドラゴン、ドラゴンの秘密を知る。①

 ボクらの体調不良の原因を、すっかり取り除いてくれたオリビアはとても満足そうな顔をしていた。



***


 パオパオさんのおかげで、船はすっかり揺れなくなった。

 もう、最高だ。地面が揺れないって、なんて素晴らしいんだろう。

 それと同時に、ボクは反省した。


──えへへ。パパが歩くとね、オリビアの歩いてるとこがゆれるの。


 あれはボクがオリビアのパパになってからすぐのころ、ドラゴンの姿でお散歩をしていたときのことだ。

 たぶん、ボクは気付いていなかったけどボクが歩くと周囲の地面がちょっと揺れるようだ。

 のしん、のしん。どすん、どすん。

 たしかに、歩くときにはそんな音がしているよ。ボク、大きいし。ドラゴンだし。オリビアが歩くときの、トコトコパタパタという可愛い足音とは大違いだ。


(もしかしたら、ボクのせいでドラゴン酔いをしてしまった動物さんやニンゲンがいたかもしれない……ごめんね……)


 船酔いというドラゴンでも勝てないものの存在を知り、ちょっと謙虚になったボクである。

 そんなわけで、少しでも心と体を落ち着けるために船の厨房を借りて料理をしているボクだった。

 カゲ君が船酔いで戻しちゃったことを察した船員さんたちが、パオパオさんの甲羅で釣りを始めたのだけど、大漁だったらしい。

 お魚がメインディッシュになったのはいいけれど……どうしてお魚がたくさん釣れたのかは聞かないでおいた。


「う、うめぇ~! なんだ、このスープ……」

「故郷のお母ちゃんの味を思い出すよぅ」

「うめぇ、うめぇ」

「でっかい亀のおかげで操船が必要ないから、僕たちもうお払い箱かと思ってたのに……こんな美味いもの食わせてもらって……」

「沁みる、沁みるなぁ」


 船員さんたちも喜んでくれているようでよかった。

 やっぱり料理は落ち着くね……こう、「ニンゲンやってるぞ」ってかんじがする。料理はドラゴンのボクと人間のオリビアを繋いでくれたものの一つだからね。


「「「ママ、おかわり!!!」」」

「パパです! あと君たちのパパじゃなくて、オリビアのパパです!」


 こんな大人数のために料理を作るなんて初めてだ。宮廷料理人を目指しているオリビアの同級生ケイトちゃんと料理友達になって、色々と教えてもらっておいてよかった。

 キッチンに一番近いテーブルではオリビアたちが楽しそうに食事をしていた。


「あう!? オリビアってばお魚を痺れさせて……漁を……!?」

「オリビアさん、しばらくお会いしないうちにワルになりましたね」

「し、知らなかっただけだもん」


 そんな会話に耳を傾けている間に、お目当てのものが出来上がった。


「……できた。これでいいのかな」


 ひとつはお魚の塩焼き。

 そして、もうひとつが『世界の珍味!』という本に乗っていた、オサシミだ。リュカちゃんの出身である、東の国。あのあたりでは、なんとお魚を生で食べるらしいのだ。

 お魚を捌くなんて初めての経験だし、なんというかすごく生々しかった。命に感謝。

 本場ではオショーユというタレを付けて食べるらしいけど、それはないのでお塩をふって、オリーブオイルを垂らしてみた。


「よし。これなら元気を出してくれるかな」


 カゲ君は船の揺れがおさまってからも、ずっと咳がとまらずにいる。それにまだあの小さくて白いドラゴンの姿のままで船室で休んでいる。

 人間の姿に化けるのには、けっこう気をつかうからだろう。

 命がほしい、といっていたから生魚はよろこんでもらえるかも。

 お盆にのせて、カゲ君のところに行こうとすると。


「パパ、オリビアも行く」

「え?」

「カゲ君のとこに行くんでしょ?」

「うん、そうだけど」

「だめ? オリビアもカゲ君のこと心配だよ。それに……」

「それに?」

「ううん、なんでもない。いこう、パパ! お盆はオリビアが持つよ」

「いいのかい?」

「うん。カゲ君、元気になるといいな」

「そうだねぇ」


 ボクとオリビアは船室に向かった。


***


「カゲ君、調子はどう?」


 毛布の中で丸まっているカゲ君は、丸くて白くてもっちりしている。ドラゴンも小さい頃には、つるつるモチモチの体なんだ。ボクが小さい頃ははるか昔すぎて忘れてしまったけれど、ボクにだってそういう時期があったかもしれない。


「……けほ。どらごん、おりびあ」

「やぁ。これ、少しでも食べられそうかい?」


 焼き魚とお刺身ののったお盆を、オリビアがそっとカゲ君の前に置いた。

 串焼き魚、十匹。

 オサシミ、山盛り。

 カゲ君は少し匂いを嗅いでから、はぐはぐと食べ始める。


「この生魚、うまい……命の、あじがする」

「よかった!」

「でも、多すぎ」

「あはは、だよね……はりきりすぎちゃった」

「……うまいけど」

「ほっとしたよ。新作だから上手にできたか心配だったんだ」

「……どらごんは、どうしてニンゲンのふりをする?」


 カゲ君がぼそりと呟いた。

 ボクは少しだけ考える。答えは簡単、ボクはオリビアのパパだからだ。今までもずっとそう答えてきた。

 でも、カゲ君が聞きたいのはそういうことじゃない気がする。


「……カゲ君は、どうして人の姿をしていたんだい?」

「それは……」

「ボク、新しく生まれたドラゴンに会ったのははじめてだよ」

「こっちも古代竜にあったのは……はじめて。まだどらごんのままで生きているやつがいるなんて……とうさんの言っていたことは、ほんとだった」

「ね、よかったら、少し話してくれないかい?」

「うん。オリビアも知りたい。カゲ君のことと、ドラゴンのこと」


 ボクらを見るときのカゲ君は、いつも寂しそうな顔をしている。


「それに君の、家族のこともね」


 ちいさくて真っ白いドラゴンくんは、「きゅーん」と鳴いてからお話をはじめた。

 ボクとオリビアは、カゲ君が食べきれなさそうな串焼きにした焼き魚をもぐもぐしながら話を聞くことにした。

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