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ドラゴン、海に出る。②

 王都から使い魔(ファミリア)の伝書フクロウさんがやってきた。

 急いで手配をした船団が、明日にでもここ──東の海岸までやってくるそうだ。


『急ごしらえだが、長旅が出来るナイスな船団なので楽しみにしておくように』


 と書いてあった。ついでに、『女王陛下はどうしてもドラゴンの背中に乗りたいとおっしゃっているので、全てがまるく収まったらよろしく』とも。デイジーちゃんのお父さんといい、人間っていうのはどうしてそんなにボクの背中に乗りたがるんだろう……。オリビアからの肩車のおねだりなら、いつだって歓迎だけれど。


「よしよし、お返事を書いておこう」


 ボクもオリビアも元気でーす、っと。

 これでよし。

 あとは、海岸でキャンプをして明日を待てば万事オーケーだ。もしも大雨が降った場合は近くに安全な洞窟があるそうだから、そこに避難を……ということも書いてあった。洞窟とは懐かしいね。



「ねぇ、カゲくん。おなかすいてない?」

「お、なか……?」

「うん。オリビアたちも、もうあんまりたくさんはごはん持っていないんだけど……」

「うっ……オリビア!?」


 銀髪少年のカゲくんに、オリビアが気遣わしげに声をかけている。

 ボクは、なんだかよくわからない気持ちに襲われる。お、お、オリビアに……ち、近づくなんて……カゲくんめ……!

 もしかしてこれが、「娘はやらん!」みたいな気持ちなのだろうか。

 カゲくんがとても困っていて、助けてあげなくちゃいけなくて──そんなことはわかっているのだ。

 でも、でも、ボクのドラゴン・ハートは乱れてしまうんだよ!


「ぐおおお!」


 思わず激情にまかせてドラゴンの姿になってしまった。

 人間の姿を保つには、やっぱり理性がね、いるんだよ。


「おお……どらごん……いにしえの、ほんものの、どらごん……」


 カゲくんがキラキラと目を輝かせている。

 やっぱり彼もドラゴンが好きみたいだ。


「わ、パパ? もしかしてカゲくんを元気づけようとしてる?」

「え? あ、うん……ははは、そんなとこかな……」


 言えない。オリビアに心配してもらっているカゲ君に対して、言い表せないモヤモヤを感じているとか……言えない……!


「すごい……ほんとのどらごん……まだ、いたんだ……」


 カゲくんが相変わらず憧れの表情をしているのをいいことに、ボクはそういうことにしておいた。ごめんよ、カゲくん。


「パン、食べる?」

「……ぱん、は、たべない。いのちをたべる」

「いのち……命?」

「けほっ、けほっ……カゲは……けほけほっ!」

「わわ、大丈夫? 治癒光(ヒール)……あれ?」

「けほっ……」


 オリビアが使った癒やしの魔法だけど、カゲくんには効いていないみたいだ。むせるように咳き込んで、苦しそうにしている。あまり体が強くないようだ。

 万能の薬草・エリ草が効いたのは、あれも植物──『命』だったからってことかな。


「パンも小麦粉だけど……加工されてるとダメってこと?」


 あまりお喋りが上手じゃないカゲ君の意図を汲むのはちょっと難しいけれど、ボクはオリビアを育てたパパだからね。オリビアにだって、おしゃべりが上手じゃない頃はあったし。


「よし、カゲ君」

「……はい、なに、どらごん」

「お魚釣りをしよう! お魚なら食べられるかい?」

「おさかな……は、いのち……」


 よし、どうやら食べたいようだ。

 好き嫌いが多いのはいけないよ、と言いたいところだけれど、今はとにかく食べられるものを食べさせてあげるのが先決だ。


「よぅし、任せて!」


 ボクは、自慢の尻尾にお裁縫セット(旅行用)に入っている糸を結びつける。針もお裁縫セットのものをぐにっと曲げて使うことにする。

 本で読んだことがあるけれど、たしか重りとかも必要だよね。それから、エサだ。エサはパン屑とかでいいだろうか。

 どうにか釣り糸を完成させる。そして、


「そぉーい!」


 糸を海原に垂らす。


「わぁ、パパ! これでお魚釣れるかな?」

「ああ、今度こそ!」


 ボクは自信満々に答える。

 実のところ、ここまでに何度かお魚釣りをしたけれど一匹も釣れていないのだ。

 でも今回は絶対に大丈夫。

 海は透き通っていて、お魚の姿も見えるもんね。

 それに、一度食いついてくれさえすれば絶対に釣り上げてみせる。ドラゴンのしっぽは強いんだ。


「待っていてね、オリビア。あとカゲ君。美味しいお魚を食べよう!」


 ***


 数時間後。


「ダメだった……」


 まったく釣れなかった。

 ボク、ションボリ……。


「えっと、うーん……教科書で読んだことあるんだけどね」

「オリビア?」


 透き通るようなブルーの海の中を泳ぐ魚影をじっと見つめていたオリビアが、そっと水面に手を伸ばす。

 教科書で読んだ? 何を?


「お魚がいっぱいとれる、魔法!」

「え」

雷撃(サンダーボルト)!」


 じばばばば。

 オリビアの手加減が下手くそな雷魔法。

 そして……。


「お、お、お魚が……!」


 ぷかぷか、ぷかー……。

 お腹を見せて浮いてきたお魚。その数、いち、に、さん、よん…………いっぱい。


「オリビアーー!?」

「おお、ぼうりょくてき……」

「え、えへ……」

「えぇっと、今日いただくぶんだけ拾って……オリビア、お魚さんたちを助けてあげられる?」

「うん! 治癒光ヒール!」


 癒やしの光で、お魚さん達は元気を取り戻したようだった。

 よかった、よかった。


 あとから調べたところ、このお魚の捕り方は人間たちの間では禁止されているようだった。

 ちゃんとオリビアに教えてあげなくちゃね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 助けた銀髪少年=カゲくんだよっていう記述があった方がいい気が。
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