ドラゴン、【星願いの儀式】に出る⑤
「あぶないー!」
がらがら、がら……!
突風に煽られていた人たちが、風が止んだことにほっとしたのもつかの間のこと。
最後にびゅんと吹いた風は、広場の周囲に立っている背の高い建物の屋根を壊してしまったらしい。
乾いた音を立てて、屋根を覆っていた瓦が落ちてくる。瓦は固くて、尖っている。
ドラゴンの姿になったボクはぎょっとする。
人だけ焼かない炎を吐いて、瓦を焼き尽くす?
自分の吐く炎で何を焼くかなんて、簡単に決められる。
だけど、こんなに大勢の人間を守るために炎を吐いたことなんてない。大丈夫だろうか。というか、瓦って炎では燃えないよね。
ボクがふぅっと息を吹けば瓦はどこかに飛んでいくだろう。でも、そんな強い鼻息じゃここにいる人たちも空の彼方まで飛んでいってしまう。
地面に叩きつけられでもしたら大変だ。
瓦が頭に当たっても、もちろん大変だけど。
ニンゲンはほっぺたも、頭も、体のそこらじゅうが柔らかいのだから。
それに。
オリビアはボクの翼の下。動かなければ絶対に守れる。
魔王さんも何かの魔法で身の回りを守っている。ついでと言ったかんじで、周囲にいる人間のことも。
フィリスさんとエスメラルダさんは、幼い女王様を守るのに気をとられている。
ボクがどうしたらいいか分からなくて、動けずにいると。
「──だめーーっ!」
翼の下から、オリビアが飛び出した。
「えっ」
もう瓦は人間達の頭上に迫っている。
【星願いの儀式】をひと目見ようと集まってきていた人たちはぎゅうぎゅう詰めで、かんたんには避けることもできないみたいだ。
オリビアは、たたたっと走って、両手を突き出す。
「みんなを、守って!!!」
ぴかっ! 白くて温かい光が、オリビアの全身からあふれ出す。
瓦がピタリと止まって、もごもご、うごうご……と動き出した。
何やら変形してるみたい!
「な、なんだ!?」
広場の人たちがザワザワしだす。
すこし冷静になったようで、瓦が落ちてくる場所からは避難できたみたいだ。
そして、次の瞬間。
『にゃうーーー♪』
瓦が変形を終えて、可愛い鳴き声を出した。
オリビアの得意な、猫型ゴーレムだ。
でも、こんなに沢山の瓦を、一度に猫ちゃんにするなんて。
フィリスさんやエスメラルダさんも、しきりに驚いてオリビアを褒めていた。
「ふぅ……よかったぁ……」
オリビアがほっと胸をなで下ろす。
『にゃー♪』
『みー♪』
『ごぁー♪』
いきなり広場にあふれた猫ちゃんたちに、人間達は夢中だ。
「か、かわいいいーー!!」
おじさんもおばさんも子どもも大人も、みんながニコニコになっていた。
膝をついて、猫ちゃんに手をさしのべている。
あれって、ボクのとこに来たニンゲンたちが「カミヨー」って言っていたのと同じポーズじゃない?
「あう……ニンゲンも魔族も、猫の下僕なのじゃ……」
いつのまにか魔王さんも、一匹拾って幸せ顔をしていた。
とにかく、広場の人たちがひどい怪我をすることは免れたみたいだ。
「ふぅ……ねぇ、パパ! オリビアやったよ」
ボクは慌てて人の姿になって、オリビアを抱きしめた。
「うん! 見ていたよ。よかった、無事で……!」
「えへへ! 誰も怪我しなくてよかった」
オリビアの笑顔。
ボクはちょっとだけ反省した。
他の人のことは、二の次にしてしまった。
オリビアさえ無事なら……って。
「オリビアは、ほんとに優しいね。本当に」
「わわ! 苦しいよ、パパ!?」
大慌てのオリビア。
耳を澄ますと、喝采が聞こえた。
「すごい、さすが【王の学徒】だ!」
「可愛い上に、優しくて強いなんて!!」
「オリビアちゃん、俺たちは君のファンだー!」
大音量のオリビアコール。
猫型ゴーレムを掲げている人もいる。
オリビアのかわいさと優しさが、こんなたくさんの人に知って貰えたのは最高だ。
……【七天秘宝】がとられてしまったのは大問題だけれど。




