ドラゴン、【星願いの儀式】に出る③~一方その頃、魔王さん~
「おお、こっちじゃこっち! クラウリア~!」
「マレーディア様、あまり走ると迷子になりますよ」
「あう……我、そんなお子ちゃまじゃないんじゃが」
色違いの指輪に、おそろいの帽子。
シュトラ城下のお祭りを楽しんでいるマレーディアとクラウリアは、人混みをかき分けてやっと中央広場にたどり着いたところだった。
屋台、屋台、屋台。
人、人、人。
引きこもり歴一千年近いマレーディアにとっては、こんな場所に遊びに来られること自体が奇跡のようなものだ。
それも人目を避けるための黒猫の姿ではなく、生まれ持った彼女の姿のままで。
魔界での大冒険から、関わる友人が増えたり、長年心にトゲが刺さったように気になっていた父や兄弟との交流が増えて、少しずつ外を出歩けるようになってきたのだ。
「……ふふ、私にくっついていなくても大丈夫になったんですね」
「あう? 何か言ったか」
「いいえ、なんでもありません。さぁ、はぐれるといけませんから手を」
「む……仕方ないのぅ、クラウリアが迷子になったら可哀想じゃからな!」
手を繋いで向かう先は、【星願いの儀式】のメインステージだ。
厳重な警備に、贅をつくした飾り付け。
周囲には美しい女神官が祈りの歌を口ずさんでいる。
祭りと儀式を見るために、わざわざ遠い地方から来た人もいるらしい。
みんなが期待で目を輝かせている。
「おぁう、めちゃくちゃ豪華じゃなー」
「ここでオリビアさんの表彰式が……! な、なんだか胸がいっぱいです」
「我のほうが緊張してきた!」
「うまく古代竜さんと合流できればいいですね」
【星願いの儀式】がはじまる前に、王国の誇る未来の大魔術師である【王の学徒】オリビア・エルドラコの表彰式が行われることになっている。
そのときに、オリビアの集めてきた【七天秘宝】がはじめて国民の前にお披露目されることになっているのだそうだ。
マレーディアたちは、オリビアの晴れ姿を見に来たというわけだが。
「むぐむぐ」
「……マレーディア様、た、食べ過ぎでは」
「むぅ? ふぁっふぇ、おふぁふふぃふぉむぐうぇっふぇふぁ、ふぁいふぉーむぁにゃ」
「何をおっしゃっているのか皆目見当もつきません……」
マレーディアは屋台で買ったグルメを、両手に抱えている。
待っている間に、屋台グルメを満喫してやろうということだ。
「かき氷にー、焼きそばにー、綿あめにー、お肉の串じゃぞ?」
「召し上がりすぎでは!」
「古代竜のごはんはうまいが、たまにはこういうB級グルメってかんじのものを食べたいという我の気持ちわかるじゃろ? クラウリア」
「うぅん……誇り高き魔族の王という自覚をですね」
「今更じゃろー。ほれほれ、半分こしよ」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
こほん、とクラウリアは咳払いをした。
「たしかに、これはいけませんね。人に多くの理想を押しつけるのは。少し前まではマレーディア様が外に出るだけでも感無量でしたのに……魔族の欲は果てしないです」
夕暮れだ。
空が青から紫に、そして橙色に色づいていく。
すっかり屋台グルメを腹に収めたマレーディアが、「あっ!」と声をあげた。
歌が高まっていく中で、オリビアが壇上に現れた。
【王の学徒】の式服を着たオリビアは、ずいぶん大人びて見える。
「オリビアが出てきた! あうっ、み、見えない~!」
「か、肩車とかいたしますか!?」
「嫌じゃ~、ダサい~!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるマレーディアに、前にいた人たちが苦笑しながら場所を空けてくれた。
「リュカもおるぞ!」
「本当ですね、マレーディア様」
二人して、誇らしい気持ちになる。
かつて、魔界と人間界は対立していた。
領土を巡って戦って、負けたのがマレーディアたちだ。
たしかにかつて、人間界とは確執があった。そんなマレーディアが、人間界の中心地であるシュトラ王国で笑顔をみせている。
それは、誰も注目していないけれど革命的な出来事だ。
「おーい、オリビア~!」
「あ、こっち向きましたよ」
ぶんぶんと手を振るマレーディアに、オリビアが気付いて手を振り返す。
隣に立っているフィリスが「オリビアさんっ!」とたしなめるのが見えた。
「うわぁ、あれが【王の学徒】!」
「可愛いなぁ」
「新聞見てから、ずっとファンなのよ」
周囲の人間が、口々にオリビアを褒めている。
天真爛漫で可愛らしい仕草は、大人達のハートを確実に射止めているのだ。
「いよいよ、表彰式ですね」
「うむっ!」
オリビアの表彰式。そして、宝玉が七つ揃っていないため仮のものとはいえ、【星願いの儀式】がいよいよ始まる。




