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ドラゴン、【星願いの儀式】に出る①

パパ友~~~~♪

 魔界での大冒険からしばらく経って、夏休みは平和に過ぎていった。

 僕らの家に帰ってきたボクとオリビアは、残り少ない夏を惜しむように毎日を楽しんだ。


「パパ、プリン作ろう!」

「や、や、薬草園にみみずさんがいたの……」

「ねぇねぇ。夏のお星様の伝説知ってる? 機織り姫様と牛飼い王子様!」

「今日はお姉ちゃんたちとパパと一緒に寝たい!」


 天真爛漫なオリビアのちょっとしたワガママに振り回されるのは、とっても楽しい。

 オリビアは【悪魔の小径デモンズ・ゲート】でお友達の家とボクらの家を繋いだので、家にお友達がやってくることも増えた。

 魔王さんはお姉さんのマーテルさんが遊びにくるたびに照れているけど、嬉しそう。

 クラウリアさんも、魔族流の武術を習いたいという小さな軍人のイリアちゃんに手ほどきをしたりと、今まで以上に交流の幅が広がっている。

 ちなみに、ボクが張り切って作ったプリンは魔王さんの身長よりも大きくて困っていたのだけれど、そんなふうにみんなが家を尋ねてきてくれたからなんとか食べきることができたというわけだ。

 よかった。もったいないもんね。


 そして、もう一人。

 ボクらの家にやってくるようになった人がいる。


「……や、やぁ、古代竜。げ、げげ、元気……?」


 とてもぎこちない様子で、気さくなポーズをとっている男の人。

 魔界の帝王、タナトスさん。魔王さんのお父さんだ。

 我が家の地下にある泉は魔界に繋がっていて、先日の『大地の盾』の一件以来ちょくちょく遊びにきてくれるのだ。


「タナトスさん、こんにちは!」

「来たぞ。ときにオリビアちゃんは?」

「今はお昼寝中ですよ……」

「お昼寝か! 我が娘もかつてはお昼寝をしていたものだ、1500年ほど前の話だがな!」

「……えっと、魔王さんと一緒にお昼寝中です……」

「まだお昼寝するのか、我が娘!?」


 卵たっぷりのふわふわのシフォンケーキにもったりミルククリームをのっけて、タナトスさんにお出しする。

 タナトスさんから黒い粉を受けとる。

 パパ友同士の取引だ。


「魔界名物の漆黒飲料だ」

「コーヒーっていうんですよね」

「あとは湯を落とすだけだから、淹れておくれ。古代竜」

「はいはい。これ……にがいのに……」

「多忙な魔帝の強い味方だぞ、ブラックコーヒーは。苦ければミルクと砂糖を入れるといい」


 ケーキとコーヒーをお供におしゃべり。

 タナトスさんは魔王さんの様子が気になるようで、よく話題になる。

 ボクとしても、家や学院の人以外にオリビアの話ができるのは楽しいんだ。

 よその子育て事情って、なかなか知らないもんね。


「そんなに気になるのに、魔王さんには会わないんですか?」

「む、俺が押しかけるのはダメだ。俺はあの子にひどいことをしてしまったからな……ゆっくり、可能なら和解をしたい」


 眉間にぎゅっと皺を寄せるタナトスさん。

 魔王さんに厳しく当たってしまったことや、パパとしてじゃなくて「上司として」接してしまったことをすごく悔いているんだって。ボクは手持ちの育児書をいくつか貸してあげたりもしている。

 とにかく、魔王さんの気持ちが大切だってタナトスさんは思っている。


「……仲直り、できるといいですね」

「ああ、ありがとうな。古代竜」


 タナトスさんはニッと笑ってみせる。

 まぁ、タナトスさん、ものすごく顔色が悪くてクマが酷いからとっても怖い顔に見えるけどね。オリビアに見せたら泣くかもしれない。


「ま、俺は運が良いさ。お互い長命種の魔族のおかげで謝る相手がいるんだからな……仲違いしたまま、永遠のお別れにでもなったら悔やんでも悔やみきれないところだ」

「……謝れないまま、お別れ……!!」

「うお、泣くなよ! もしもの話だ、もしも!」


 だばだばと涙が溢れてくる。

 あぶない、ドラゴンの姿だったら新たな滝でも作り出してしまうところだったよ。


「ま、人間の世界にはそういうことはよくあるのかもしれんな」

「……そう、だねぇ」

「うん! 古代竜、このケーキうまいぞ!」


 タナトスさんがケーキを美味しそうに食べている顔は、魔王さんにどことなく似ている表情だな、とボクは思った。

 他の人とはお喋りしたことがないことを、タナトスさんとはこうしてよくお喋りしている。

 これって、パパ友ってやつだよね。



 ***



「ところで、古代竜」


 三杯目のブラックコーヒーをごくごく飲みながらタナトスさんが言った。


「うん、なんですか?」

「例のアレ、どうなった。【七天秘宝ドミナント・セブン】探し」

「ああ、【大地の盾】借りっぱなしですもんね」

「うちの【ザ・リング】な。もうマレーディアのものだからいいんだが、魔界の護りに必要だからなるべく早めに返してほしいんだが……」

「最後の一つ、えっと【緑風の弓】っていうのがどうしてもみつからなくて」

「そうなのか」

「【失われし原初ロスト・ワン】を使っても、いつも違う方向を指し示しちゃうんですよ」

「壊れてるんじゃないか、それ」

「えー、ボクのお気に入りなのに」


 七つの星が浮かんだ、丸い宝玉。

 ボクのお気に入りの宝石で、オリビアにあげたプレゼントのひとつだ。

 【七天秘宝ドミナント・セブン】を探すことができるすぐれものなのだけれど、あんまり役にたっていない。


「それで、とりあえず【緑風の弓】なしで儀式を行うんだってさ」

「は、儀式?」

「えーっと、【星願いの儀式】っていって【七天秘宝ドミナント・セブン】がため込んだ魔力を放出する儀式らしいよ」

「ほー、もったいないな」

「あんまり強大な力があるのは、人間にとってよくないんだってさ」

「……お前が言うと説得力があるな。良くも悪くも、竜たちが表舞台にでてこなくなったからこそ人間どもが隆盛を誇ったわけだし」


 ボクが寝ている間にそういうことになっていたのか。

 たしかに、ずっとずっと大昔にいた竜の仲間たちはほとんどいなくなっちゃったしなぁ。


「……しかし、祭りか。楽しみじゃないか」


 タナトスさんが言う。

 祭りっていうのは、人間たちがピーヒャラと音楽を鳴らして、チャカポコ踊るアレのことだ。


「うん。たしかに、お祭りって初めてかも」

「ん? じゃあ、オリビアちゃんも祭りは初体験か」

「そう、だね。たぶん」

「なら、存分に楽しめよ。……おっと、俺はそろそろ帰る。仕事が溜まってるんだ」

「いつも大変だねぇ。気をつけて帰ってくださいねー」


 ばいばい、とタナトスさんと分かれる。

 結局、今日も魔王さんには会わずに帰ってしまった。


「さて、オリビアが起きる頃かな」


 おだやかな日々はつかの間で、明日は王都にお出かけすることになっている。

 【王の学徒】で、【七天秘宝ドミナント・セブン】を探し出したオリビアは【星願いの儀式】にも呼ばれているんだ。

 パパであるボクも同席していいらしい。


「ふふ。お祭りかぁ……楽しみだなぁ」


 オリビアのぶんのシフォンケーキを切り分けながら、思わず鼻歌を歌ってしまった。

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