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ドラゴン、魔界に行く①

魔王マレーディアさん主人公回です(・∀・)

あうぅ~~。

 朝がくる。

 久しぶりのお山の朝は爽やかで、オリビアもぱっちり目覚めて薬草園のお手入れをすると「パパ、おなかすいたよ~」とキッチンに駆け込んできた。


 ボクらは朝食を食べながら、旅の話の続きをしていた。

 結局見つけられなかった【七天秘宝ドミナント・セブン】の話だ」


「……【大地の盾】?」


 ぴたり、と魔王さんの動きが止まる。

 むむぅ~、と考え込んで、何か言いたそうにぱくぱくと口を動かしている。


「それなのじゃが……もしかしたら、盾じゃないってことない?」

「え?」


 イリアちゃんが持っていた、金属で出来た大きな板。

 あれが盾……だよね。


「強大な魔力をため込むことができて、しかも魔力が大地に干渉するタイプ……我、一個心当たりあるんじゃが」

「ええぇ!」

「教えて、マレーディアお姉ちゃん!」


 夏休みの前半、ずっとあちこち歩き回って全然見つけられなかった【大地の盾】の手掛かりを、まさか魔王さんが!


「うむ……千年前に、人間界と魔界を往き来する(ゲート)をことごとく閉じて、いまだに閉ざし続けている力……そういうアイテム、持ってるやつがいるんじゃよ」

「っ! マレーディア様、それってまさか」

「うむ……」


 こくん、と魔王さんが頷く。

 とても浮かない顔をしているけれど、どうしたんだろう。


「魔帝タナトス――魔族の中の王、魔界の支配者。千年前、侵略戦争中にあやつが手に入れた指輪があるんじゃ。その持ち主が望めば、岩は動いて堅牢な城壁を造り、地面は唸ってその道を閉ざす……そんな、【指輪】をあやつは持っておる」


 魔王さんが、眉間に皺を寄せて言う。


「あれ、指輪の形をしているが持ってる力はまさに【盾】――あれ、たぶんオリビアの探してる【七天秘宝(ドミナント・セブン)】とやらかもな」

「ほ、ほんとに!」

「じゃあ、魔界に行けば【七天秘宝ドミナント・セブン】が見つかるの!?」


 やったね、とハイタッチするボクたち。

 けれど、魔王さんが首を横に振った。


「諦めろ。オリビア」

「え?」

「【七天秘宝ドミナント・セブン】をおぬしが集めているのは、よその国が先に七つ集めて強大な力を手に入れるのを恐れているんじゃろ? 魔界にあるなら、それでよいではないか。人間は魔界に手を出せぬし、魔族も今さら人間界に手を出すことはない。それに一個くらいなくても、別に困らんじゃろ」


 オリビアとボクは顔を見合わせる。


「それは、たしかにそうだけど……」

「おぬしらが魔界に行く方法なんてないし。我は魔界の案内なんて絶対嫌じゃしね、絶対!」


 いつになく、魔王さんが強く主張している。

 どうしたんだろう。


「魔帝タナトスさんに会うことって、できないかな?」

 【七天秘宝ドミナント・セブン】が長い間ため込んでいる魔力を、解放する――それがエスメラルダさんたちがやりたいことだ。

 その指輪をちょっとお借りして、すぐに返すので済むはずだ。

 事情を説明して協力してもらえないだろうか。


「ちょっと借りるだけでいいと思うんだ。魔力を解放したら、すぐに返すように女王さんに話してみるし……」

「あう。あーの陰気な石頭がそんな提案に乗るわけないし!」

「そこをなんとか」

「いーやーじゃ! あやつは魔界と人間界を往き来する(ゲート)を全部閉ざしておるんじゃ。魔界とアクセスできる道といえば、通販と配信と出前くらいだし!」

 ビシィ、とボクに人差し指を突きつける魔王さん。

「詰みであるっ!」

「……通販はできるんだ……?」

「ふーんだ、道はあるけど、我は教える気ないし」

「……古代竜殿」

「なぁに、クラウリアさん」

「……魔界への道、私が知っています」

「えっ!」

「く、クラウリア!? ななななぜじゃ、我を裏切るのか!?」


 魔王さんが、「がーんっ!」とうろたえている。

 たしかに、珍しい。いつも魔王さんの言うことだったら、なんだかんだ全部聞いてあげているクラウリアさんが、こんなことを言い出すなんて。


「……マレーディア様が行かれないのでしたら、私がご案内しますよ」

「なんでじゃーっ!?」


 魔王さんに、クラウリアさんが向き合う。


「もしも人間界で今大きな戦争があれば、マレーディア様は今の暮らしができなくなります」

「あう!? 別に我は関係ないし!」

「あります。このお城は人間たちの争いとは無縁でいられるかも知れませんが、フローレンス女学院はどうなりますか?」

「あう……?」


 魔王さんの動きが、一瞬止まる。

 ボクが一番心配しているのも、そこなんだ。

 オリビアが楽しく暮らしている日々が変わってしまうのが、とても怖い。


「千年の時を経てついに外の世界と関わりを持って……私の目から見て、今のマレーディア様はとても生き生きしていらっしゃいます。竜人族の娘さんと全力で喧嘩したり、」

「あれはリュカが悪いのじゃがー!」

「食堂でつまみ食いをしたり、」

「あうぅっ、あれはケイトがどうしても試食してって言うからぁ」

「廊下を走って怒られているのを見て、」

「あうっ!? あれはだって、人間の子らが我のこと追いかけるからっ! いくら黒猫な我がモッフモフだからってぇ!」

「……私は、とても嬉しいのです」


 クラウリアさんは、静かにつぶやいた。

 その指には、オリビアのお土産の指輪。魔王さんの瞳の色をした宝石が光っている。


「……あぅ?」

「千年かけて少しずつ……本当に少しずつですが人間と魔族は和解に向かっています。ですから、それを脅かす可能性があるなら、オリビアさんの【七天秘宝ドミナント・セブン】探しに協力したい、と……私は思うのです」

 クラウリアさんの言葉に、魔王さんは押し黙る。

「それはオリビアさんの生活を守ることにも繋がりますし……ね、古代竜殿?」

「うん」


 クラウリアさんの言葉に、ボクは勢いよくうなずく。

 そう。

 ものすごい魔力を持った【七天秘宝ドミナント・セブン】。

 七つ集めて魔力を解放すれば願い事が叶う、すごい石。

 だけど、そんなのは本当はどうでもいいんだ。


「オリビアが、幸せに生きられる世界がいい」

 ボクが願ってるのは、それだけなんだ。

「…………」


 魔王さんは、むぅっと唸って上目遣いでクラウリアさんを見つめる。


「マレーディア様。いまのあなたを、リュカさんが見たらこうおっしゃるのではないですか? ――『まったく! 見損なったぞ、マレちゃんっ!』と」


 フローレンス女学院で出会った、魔王さんの一番の仲良しさん。

 オリビアの後輩、リュカ・イオエナミちゃん。

 魔王さん、新しい妹みたいに可愛がっている。

 リュカちゃんの名前を出されて、魔王さんは「むむむ~」と考え込んでしまった。

 そして、しばらくして魔王さんは顔をあげた。


「我、手伝わないからね? 魔界への抜け道を案内するだけだし」

「マレーディア様!」


 クラウリアさんが、安心したような笑顔で魔王さんの名前を呼ぶ。


「抜け道があるんだね!?」

「うむっ。魔界の(ゲート)が閉ざされてしもうた後、配達地域外の人間界から通販するために、城の地下をちょちょいといじったんじゃ」

「さすがマレーディア様ですっ!」

「ふふん! 我が魔王マレーディアであることを忘れるでないぞっ! それに、あれもこれも快適引きこもりライフのためじゃしな?」

「マレーディア様、後半は威張ることではありませんが……」

「あうぅ~っ、クラウリア~~っ!」


 ぷんすこ怒る魔王さん。

 まさか、ボクらの家の地下が【大地の盾】に通じているかもしれないなんて!


「えへへ、マレーディアお姉ちゃんたちと旅行、楽しみだねっ!」


 と、オリビアが笑う。





 翌日。


「あう……ほんとに行くの? やっぱやめない?」


 昨日の今日でぶつぶつ言っている魔王さんを、クラウリアさんが励ます。


「マレーディア様。私がついておりますよ、変装もばっちりですし、バレませんよ」

「そうかのぅ……」


 魔王さんは大きなフードと眼鏡で角と顔を隠している。

 魔界では、やっぱり魔王さんは有名人なのかな。

 荷造りをして、(主に魔王さんが)心の準備を整えて。


「しゅっぱ~つ!」


 オリビアの元気な声とともに、ボクらは魔界へと出発した。


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