かわいい娘、七天秘宝さがしに出かける。 ~ルビー・リリアントとステキなお土産~
リリアント宝石店。
オリビアの同級生のルビーちゃんの実家で、この繁華街であるミランダで一番格式高い宝石店だそうだ。
ここに来るのは初めてじゃない。前にオリビアのブローチを買ったり、魔王さん達に指輪を買って帰ったりした。
「うーん、結局見つからないねぇ【大地の盾】」
夏休みもなかばをすぎて、エスメラルダさんからもらった地図に描いてある場所はほとんど探してみたけれど、【大地の盾】は全然みつからなかっていない。
宝石のことだし、なにかヒントがあるかもと思ってルビーちゃんのお店にやってきたのだ。
「でも、みんなと会えてオリビアは楽しかったよ、パパ!」
ミランダの街は、ボクらの家のある神嶺オリュンピアスの一番近くにある繁華街で、オリビアの同級生、ルビーちゃんのご両親が営む宝石店があるのだ。
「こんにちはー!」
一歩店に入ると、店内にはとっても清潔でいい匂いのする空気が満ちていた。
「いらっしゃいませ……って、あら」
オリビアとおなじ年頃の赤髪の女の子が、品のいい服をきちんと着こなして、しゃんと背筋を伸ばして立っていた。まるで、紅い宝石みたいな瞳……彼女が、ルビーちゃんだ。
オリビアが手を振る。
「ルビーちゃん!」
「ふふ。いらっしゃいませ、お客さま。【七天秘宝】探し、ご精が出ますね」
ルビーちゃんも、先ほどのピシッとした挨拶よりも少しだけくだけた笑顔でオリビアを迎えてくれた。
すごい、オトナのニンゲンだ。
ちゃんとルビーちゃんはお店のお手伝いをしているんだなあ。
店内で働いている人たちは、男の人も女の人も黒いスーツをぴしっと着こなしている。なんだっけ、そう、燕尾服ってやつだ。『子どもと参列する冠婚葬祭』っていう育児書で読んだ!
ボクも、オリビアに少し遅れてルビーちゃんに挨拶する。
「こんにちは、ルビーちゃん」
「まあ、オリビアのおじさまなの!」
ぽぁっ、とルビーちゃんがほっぺたを染める。
去年、ボクがフローレンス女学院で生徒達のお茶会に混ぜてもらったときに、ボクの髪をとても上手に結い上げてくれたルビーちゃん。
ボクが小さいドラゴンの姿で守衛さんとして学院で過ごすようになってからも、たまにヒゲやタテガミをかっこよくしてくれる。
手先が器用だし、オシャレな女の子だ。
「いらっしゃいませ、オリビアのおじさま。本日の責任者でございます、ルビー・リリアントと申します」
スカートのすそをつまんで、ちょこんとお辞儀をするルビーちゃん。
とってもエレガント。
「わあ、ルビーちゃんかっこいいっ!」
と、オリビアが手を叩いて喜んでいる。
「ふふ、ちょっと待っていてね!」
ルビーちゃんは、周囲の店員さんにいくつか申し送りをして、ボクたちの対応をしてくれることになった。
ルビーちゃんに案内されて、オリビアとボクはソファに座る。
「以前にお買い上げいただいた指輪の調子はいかがでしょうか、よろしければこのクリームをつかってくださいね」
「けんまざい」
「宝石には多かれ少なかれ、魔力を蓄積する性質がありますからね。この魔力を調節するクリームで磨くと……ほら!」
「わあ……とっても綺麗」
オリビアがつけている真っ赤なブローチを、ルビーちゃんが手早く磨く。
輝きが増してとても綺麗になった宝石に、オリビアがほぅっと溜息をつく。
「【七天秘宝】探しをされているオリビアちゃんたちには、賢者様に説法かもしれませんが……」
ルビーちゃんは慣れた様子で宝石の説明をしてくれる。
「宝石、宝玉……そう呼ばれる石は特別です。例えば、リリアント宝石店でとりあつかいをしている装飾具のほかにも、大きさや純度の高い宝石は魔法にも使われるのだわ。宝石魔術と呼ばれる魔術形態では、詠唱や魔法陣のかわりに宝石の力を借りたりするの」
「へぇ~」
ボクも宝石は好きだけれど、「キラキラして綺麗だな」と思って集めているだけだった。
そうか、ニンゲンは宝石を色々なことに使っているんだな。
それにしても、こんなに繊細で美しいものを作るなんて……ニンゲンは手先が器用だな。
ルビーちゃんの流れるような説明は、お店の説明に移る。
聞き取りやすいし、わかりやすい。きっと何度もやっている説明なんだろうな、と思った。
「リリアント家は、もともとは鋳造ギルドに所属している職人の家系。先々代の当主は、とりわけ腕が良かったので王家の装飾品も多く請け負っていたのだわ。はじめは、小さな店だったリリアント宝石店は、先々代の鋳造技術を受け継いで、先代の経営手腕や、そして私の父様である当代の繊細で可憐なデザインをかてに成長を続け……いまや、大陸に五店舗、よその国への出張買い取りや販売も手広く行う一流宝石店なのだわ!」
ボクもオリビアも真剣に聞き入っていた。
「ふわぁ……すごいんだね、ルビーちゃんのパパ!」
「ええ、当然なのだわ! 私も、将来は父様からお店を受け継いで、もっともっと宝石の素晴らしさを知ってもらえるように頑張るのっ」
えっへんと胸を張るルビーちゃん。
ボクは店内をきょろきょろと見て回る。
ボクの持っている大きな宝石よりも、うんと小さな石ばかり。
でも、キラキラ光る輝きは、どれもウットリするくらいに美しい。
小さい石ばかりだけれど、本当に、加工ひとつでこんなに綺麗に輝くんだな。
ボクの祠にある宝石も、ルビーちゃんのお店で加工したらこんな風にキラキラになるのかな。
オリビアがショーケースの中をのぞき込んでは瞳を輝かせる。
「パパ。お店の中見てきてもいい?」
「うん。お行儀よくね」
まぁ、オリビアはいつだってお行儀がいいけどね!
***
「そうですね……【七天秘宝】の情報はさすがにうちでも」
「そうかぁ、そうだよねえ」
残念だけど、【七天秘宝】探しは空振りだった。
でも、楽しい旅行だったな……なんて。
そんなことを思っていたのだけれど。
以前に買った魔王さんたちへのお土産が、思わぬヒントになるなんて思ってもみなかった。




