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かわいい娘、七天秘宝さがしに出かける。~レナの秘密とチリンの森③~

 約千年前。

 魔王マレーディアによって行われ、魔界から人間界への侵略戦争。

 勇者パーティによりマレーディアが破られるまで続いた戦争は、魔族と人間の間に決定的な亀裂を残した。


「……ってのは知っているよな、さすがに」

「うぅーん」


 正直、魔王さんがボクを勧誘しにきたことくらいしか覚えていない。人間、しょっちゅう喧嘩しているし。


「あの戦いは、のべで百年くらいは続いたんだ」


 マーテルは、朗々とドラゴンに講義をする。

 実際、この数百年にわたって育てた子どもたちに――可哀想に、魔族として生まれてしまった子どもたちに、この歴史の話は何度もしてきた。


「昔は、俺たちの故郷である魔界とこの人間界とは薄ら繋がっていたんだ。往き来もしやすかったし、それなりに仲良くしている奴らもいたんだ。昔は、な」

「昔は……」

「侵略戦争での魔族の敗北以後、こっちの人間界に取り残された魔族ってのはケッチョンケッチョンにけなされたんだよ。それどころじゃない。石を投げられ、住処を追われ、魔族ってだけで生まれながらの邪悪な存在って見なされるんだ」


 きゅっとマーテルは唇を噛みしめる。


「俺だって、侵略戦争の前には仲の良い人間くらいはいたよ。なのに、魔界を治めている魔王の中の魔王――魔帝タナトスのやつが、自分の末の娘をカシラにして侵略戦争をはじめさせた」

「……それって、どうして……?」

「俺みたいな下っ端にはわからんが、魔界だけじゃあエネルギー……マナが足りなくなったんだと」

「マナ……」

「大気中の魔力だな。まぁ、資源は有限ってことだ。魔界からこっちの人間界にマナが流出しはじめたってのが問題になったんだな」


 マーテルは肩をすくめる。


「とにかく、下らん戦争のせいで世界は様変わりしてしまったんだよ――」


 侵略戦争は百年続いて、人間側の勇者たちの勝利でおわった。

 魔界は敗戦にともない、無数にあった人間界と往き来できるみちをすべて塞いでしまったのだ。

 どうやったのかは、わからない。

 とにかく、魔王マレーディアの敗北から数日も経たないうちに魔界はその門を閉ざした。

 勢いづいた勇者たちが魔界に攻めてくるのを恐れたのか。

 ただでさえ不足していたマナが魔界から人間界に流れ込むのを恐れたのか。

 とにかく、人間界は魔界への接触方法を失った。


 人間だけではなく、魔族たちもだ。

 侵略戦争の駒として戦っていた戦士たち。

 もともと、人間界で暮らしていた魔族たち。

 誰も、魔界には帰れなくなった。


 人間たちは長きにわたる戦争によって、魔族への憎しみをつのらせていた。

 いや、憎しみを習慣にしていた。

 魔族を、すべてにおいて人間に劣る存在だとみなすようになった。

 魔族を、どれだけ虐げてもよい存在だと定義した。

 魔族と人間は、まったく違う生き物だと。


 近頃は「魔族との和解」を謳う運動によって、タテマエの上では魔族も人間様(・・・)たちと同じヒトだということになった。

 だが、実態は違う。

 魔族というだけで、まともな人付き合いなど望めない。

 社会からはじき出され、結果として暴力や凶行にはしる魔族たちが存在する。魔族の血を引くというだけで、いまだに白い目で見られる子どもたちが存在する。

 貴族と平民には大きな隔たりがある。

 それ以上に――人間と魔族には、奈落よりも深い隔たりがある。


「それが、俺たちが住まうクソみたいな世界の形だよ」


 マーテルはティーカップを叩きつけるようにしてテーブルに置いた。

 その向かいで話を聞いていた優男のドラゴンが、呆然と呟く。


「そんな……ひどいじゃないか。まったく理解できない」


 心底悲しい、という声でドラゴンは呟く。

 ――愛しい娘が生きる世界に、そんな悲しい出来事が存在しているなんて。

 そのことが、本当に、寂しかった。


「で、俺はこのチリンの森で、魔族の子たちを育ててるんだよ。みーんな、もともといた場所から追い出されたり、親に捨てられたりした子たちだ。最近はそういう子も少なくなってたんだが、十年前にレナちゃんを拾ってね。この世界のどこにも居場所がない、千年前の戦いに取り残された俺が保護者になったってわけ。同胞は同胞同士、肩を寄せ合わないとな」


 マーテルは、ぺらぺらとまくし立てた。



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