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かわいい娘、七天秘宝さがしに出かける。 ~レナの秘密とチリンの森①~

 チリンの森。

 【七天秘宝ドミナント・セブン】のひとつ、【大地の盾】があるんじゃないかとやってきたボクたちを出迎えたのは、

「ぴぃ♪」

 小さな妖精さんと、

「……ぅ」

 オリビアの同級生、無口でミステリアス……でも、ある才能(・・・・)なら誰にも負けないレナちゃん。

 そして――。

「ど、ドラゴンが喋った! これってどーゆーことだ? 現在生き延びている竜種はすでに言語による交流のできない小型の竜種や亜竜ばかりになっているはず。っていうことは古代竜? 古代竜? ええっ、どういうことなのよぅ。っていうか、どうしてチリンの森に? シルフの警戒網が反応しなかったのはどういうこと? しかも人間の子ども連れって、え、ええ、子連れドラゴン?? なにこれ。ねぇ、レナちゃん? レナちゃんはどう思う?」

 肩につくくらいの黒髪に、眉間に深い皺。

 ものすごーくよく喋る、折れたツノのお姉さんだ。


「……どう、きゅうせい」

「はっ!! もしかして、この子どもをさらってきたってこと? ドラゴンが金品でもなく子どもをさらうなんて聞いたことがないけれど……俺が魔界からも人間界からも距離を置いてから約千年……ジョーシキが変わってしまったのか……って、んん? レナちゃん、いまなんて?」

「おりびあ。どうきゅうせい」


 レナちゃんが、ゆっくりとした動きでオリビアを指さす。

 そして、指先を動かして、ボクを指す。


「どらごん。ぱぱ。おりびあの、ぱぱ」


 そう。

 ボクがオリビアのパパです。


「……」

「…………」


 レナちゃんとボクたちを何度も見比べて、ツノの折れた女の人は「むむむぅ」と首をひねり――


「ええええ~~っ、レナちゃんの同級生っ!? しかも保護者ぁあぁあ!?」


 びょーん、と飛び上がった。


 ***


 ツノの女の人は、マーテルと名乗った。

 チリンの森の奥、森の木が途切れた広場に、丸太でできた小屋と畑があった。近くには小川が流れている。

 その小屋が、マーテルさんのお家だそうだ。

 そして、レナちゃんのお家でもある。


「どうぞ。これは俺が渋々街に出たときに買ってきた、そこそこ値段の高いお茶っ葉をそこの小川を流れる清流で淹れた茶ね。ありがたくいただくといい。レナちゃんの同級生と保護者が我が家にやってくるというイレギュラーに少々張り切ってしまった俺からの歓迎の印なのだよ~」

「わぁ、ありがとう」

「いっただっきまーす! ……えへへ、あったかぁい」


 お茶をひとくち。

 いい香りだ。あったかくて、美味しい。


「……ぅ」


 レナちゃんも、満足そうに頷いて親指を立てている。

 お茶が気に入ったみたいだ。


「いや、違うぞ」


 と、マーテルさん。


「レナが今言ったのは、『召し上がれ』だ」

「そうだったの!」

「……」

「ほら、パンやマフィンもあるぞ~」

「わぁ! ありがとう。レナちゃんの……お母さん?」

「違う違う。俺はただの、保護者だよ。ほーごーしゃ」

「……ぅ」

「お。レナ、おかわりか? 自分でやりな」

「……ぅう」

 すごい。

 無口なレナちゃんの気持ちを声だけでくみ取るなんて……マーテルさん、さすがは保護者だ。


 お茶の時間は続く。


「ふぅむ……しかし、ドラゴンの姿と人間の姿、どっちがお前の本当の姿なんだ?」


 マーテルさんが、ボクのことを頭のてっぺんから足の先までじろじろと観察する。

 あれ、しっぽ出たままだったりするかな?


「なんか、すげーイケメンだけど」

「えぇっと……本当の姿は、ドラゴンだよ。オリビアを育てるのに、人間の姿の方がいいかと思って、この姿でいることが多いんだ」


 ボクの言葉に、マーテルさんはおおげさに驚いて見せる。


「何っ、ドラゴンと人間なんてかけ離れた姿を、自在に変化してる……? もともと変化できる夢魔やらなんやらの種族をのぞけば、魔族の中でまともに扱えるのは数少ないエリートだけぞぅ。うーむ、古代竜恐るべし」

「えっと、マーテルさんは魔族……なのかい?」

「あぁ。このツノを見ればおわかりの通り、俺は正真正銘の魔族ね。千年前の『侵略戦争』のときの生き残りさ。人間どもにボコされてうっかり気を失っている間に、魔界に帰る手立てをなくしちゃってねぇ~。こうして人間界の片隅に引きこももってるわけさ」

「な、なるほど」


 ……マーテルさん、やっぱりものすごくよく喋るなぁ。

 というか、マーテルさんも引きこもりなのかぁ。


「……魔族さんたちは、ひきこもりをするのが好きなのかい?」

「む? なんだ、魔族の知り合いがいるのか?」

「うん。一緒に住んでる」

「ほー? ドラゴンと一緒に住むなんていう物好きが魔族にいたとはなぁ~。基本的に魔族連中はガッチガチにガード堅いんだぜ? 多種族との交流ってのは好まない。こー見えて、俺は魔族の中では超社交的な方だからね?」


 ふふん、と勝ち誇った表情のマーテルさん。


「そうなのかぁ」


 うぅん、魔族さんたちの習性は興味深い。


「……で?」

「で?」

「お前たち、何しにきたのだ? チリンの森なんて、なーんにもないところだぞぅ?」


 マーテルさんが、ビシッとボクらを指さしてキメポーズをした。


 ***


「なるほど、【七天秘宝ドミナント・セブン】なぁ……侵略戦争のときにも、何度か名前は聞いたが」


 何度かお茶をおかわりして、マーテルさんが出してくれたドライフルーツやパンをいただく。


「夏休みを潰してまで、ご苦労なこった」


 説明を聞いて、マーテルさんは肩をすくめた。


「すごく力が溜まってるらしくて、それが人間にとって危ないんだって」

「ふーん。で、古代竜がどうしてその【七天秘宝ドミナント・セブン】探しに手を貸してるの?」

「え、それは……ボクはオリビアのパパだから」

「答えになってないなぁ?」


 マーテルさんは不満げだ。


「なんでもかんでも手助けするのが愛情ってわけじゃないだろう?」

「それはそうだけど……でも、オリビアには人間の世界で幸せに暮らせる大人になってほしいんだ」


 だから、もしも人間の世界が危ないことになる可能性があるなら、【七天秘宝ドミナント・セブン】探しに手を貸すのは当たり前じゃないか。


「幸せに暮らす、ねぇ」


 マーテルさんは、じっとボクをみつめる。


「だったら、ドラゴンの姿を人に見せるべきじゃなかったな」

「……それは」

「人間ってのは、自分たちと違う者を徹底的に恐れる(・・・)。お前はとっても強いから、文字通り恐れられるだけで済むだろうが、違って(・・・)、しかも弱い(・・)やつに対しては……」

「……ぅ」


 ぺらぺらとよく喋るマーテルさんの言葉をさえぎるように、レナちゃんが立ち上がって。


「う、おり、びあ」


 きょとん、とした顔でマーテルさんを見つめていたオリビアの手を引っぱった。マーテルさんが「おや」という顔で、オリビアたちの様子を見つめる。


「……ぅ」

「どうしたの、レナちゃん?」

「いこ。……しんさく、かいた」

「えっ、ほんとに!」


 レナちゃんの言葉に、オリビアが目を輝かせてボクを見る。


「ふふ、いいよ。行っておいで」

「うんっ!」


 オリビアが立ち上がって、レナちゃんと一緒に駆け出した。


「あっ!」

「ん?」

「お茶、ご馳走様でした。マーテルさんっ」

「お、おう」


 小屋の二階がレナちゃんの部屋らしい。

 二人で仲睦まじく階段を登っていく足音が可愛らしい。

 マーテルさんが、こてんと首をかしげた。


「……なぁ、ドラゴンくん?」

「なんだい?」

「その『しんさく』って、なんのことだ?」


 マーテルさんの言葉に、ボクは目を丸くした。

 え、え、もしかして。


「マーテルさん、知らないんですか?」

「知らないって、何をだ? 俺、人間界のこととかキョーミないし――」

「いえ、人間界のことじゃなくて」


 ボクだって知っている。

 レナちゃんの『しんさく』は、二年ゼロ組のみんなだけじゃなく、魔王さんや、他の学年の子だって楽しみにしている。

 物静かで、ほとんど話をしないレナちゃん。

 だけれども。


「レナちゃんの書いてる、本のことですけど」

「……は、本?」


 そう。

 レナちゃんは、クラスで人気の作家さんなのだ。

別作品となりますが、

2021年8月5日に『腹ペコ聖女とまんぷく魔女の異世界スローライフ!』が書籍化します!!

KADOKAWAドラゴンノベルスさんより発売しますので、どうぞよろしくお願いします!!!!

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