幕間 一方その頃、魔王さん。~魔王さん、家を出る!~
神嶺オリュンピアス、麓。
夏の日差しの下、お気に入りの白いワンピースを着てオシャレをした魔王マレーディア。
麦わら帽子を片手に、隣の従者に問いかける。
「あう……クラウリア。この服、ほんとにほんとに変じゃない?」
「ええ、もちろん! とても似合っていらっしゃいますよ」
「……あう。やっぱり出かけるのやめない? ほら、暑いし」
「夏は暑いものですよ、マレーディア様」
涼しげなシャツ姿のクラウリアが諭す。
大きな籐のバスケットを片手に、マレーディアに優しく微笑みかける。
地獄のブートキャンプで魔王を泣かせていたのと同一人物とは思えない、天使の微笑みである。魔族だけれど。
「……でも、オリビアたち旅行楽しんでるしぃ……我が急に合流したら迷惑かもじゃしぃ……」
「マレーディア様、なんと思慮深く慈悲深い……っ! でも、変なところでネガティブになられる必要はございませんよ」
クラウリアは断言する。
「古代竜殿もオリビアさんも、マレーディア様のことが好きですよ」
「……あう」
「さあ、参りましょう」
マレーディアに、手をさしのべる。
ヒマを持て余したマレーディアは、ついに大陸のどこかを旅しているオリビアたちに合流したい――と言い始めたのだ。
もちろん、その後も発言は二転三転。
「ヒマじゃ~っ!」と「いや引きこもり最高……」をウダウダと行ったり来たりしているわけであるが。
「お気に入りの本も読み尽くしてしまったのでしょう?」
「……あうぅ」
「無理を言って借りてきた例の本は、何回も繰り返し読んでいらっしゃったようですが……」
「あうぅ。レナの絵本か? あれも新学期まで新刊は読めないからなぁ……」
むむむ、と悩みに悩むマレーディア。
「うむぅ、仕方ない。このままではヒマで死ぬぅ」
意を決した表情で、マレーディアがぽふんっ! と音を立てて黒猫の姿になる。変化の魔法など、魔王には朝飯前なのだ。
黒猫姿の魔王は、もぞもぞとクラウリアの持っているバスケットに潜り込む。
「さぁ、しっかり掴まっていてくださいね。マレーディア様!」
ぼふん!
クラウリアの姿が消える。
次の瞬間、力強くも軽やかな羽音が響く。
――クラウリアが、鷹の姿に変化したのだ。
ばさ、ばさ、ばさっ!
籐のバスケット(魔王入り)を掴んで、鷹が空高く飛び上がる。
「あ、あうぅぅ~っ! 高いいぃ~っ!」
「大丈夫です。安全飛行で参りましょう、マレーディア様!」
「うぅ……古代竜たちの気配、たぶんあっちから感じるかもっ」
「さすがです。では、参りましょうっ!」
眩しい日差しの中を、鷹が羽ばたく。
もふもふ姿の魔王と従者は、オリビアたち目指して飛び立った。




