かわいい娘、七天秘宝さがしに出かける。 ~パレストリア家の奇跡の一夜⑦~
ローザ・パレストリアは、自分でも何故だかわからないままに悲鳴をあげた。
「きゃあっ!?」
娘が、上流階級らしい振る舞いをするように指導をしていた――はずだった。それなのに、ローザは今、貴婦人にあるまじき姿勢で尻もちをついている。
「な、ななな?」
寒い。
背中が、寒い。
ローザが恐る恐る振り返ると、【王の学徒】父子がこちらをジッと見つめていた。
(こ、こ、怖いいいぃい!)
怖い。
ものすごく、怖い。
別に怖い顔をしているわけではないのに、その視線が――特に、父親であるエルドラコ氏が自分を見つめる視線が怖い。
「ひ、ひいぃ……っ!」
フローレンス女学院の入学式で、隣になった男だ。そのときは、まさか学年主席……それも王国で数人も選ばれない特別な奨学生、【王の学徒】になるような娘の父親だとは思わなかった。
のほほんとしていて、世間知らずそうな男だと思ったのだ――まさか、それが噂によれば古代竜の化けた姿だなんて。
正直に言えば。
(あ、あなどっておりましたわ……な、なんて恐ろしいオーラを出すんですの……っ)
ローザとて、パレストリア家に嫁いだ女だ。かつて彼女もフローレンス女学院に通っていた程度には魔法や魔術の心得がある。
だから、わかってしまうのだ。
今、自分を無表情でじっと見つめている男が、どれほどの実力者か。どれほどの、圧倒的な存在か。
(ああ……早く立ち上がらなくちゃ、晩餐会が……わたくしの、パレストリア家の威厳が……)
ローザは慌てて立ち上がろうとする。
招待客の視線が、自分に注がれていることに気づいたからだ。
(あぁ、なんたる失態ですのっ!)
いつだって上級貴族として恥ずかしくない振る舞いを心がけてきた。
特別扱いされるにふさわしい、美しく、威厳があり、機知に富んだパレストリア夫人を演じていた。
それが、お客様の目の前で尻もちをついているなんて。
「う。うぅ……」
ニンゲンの――まして、貴族社会の『常識』の通じる相手では、ない。
ローザは本能的にそう悟った。
そんな相手がいるだなんてことは、生まれてこの方、知らなかった。いや、頭では知っていたけれど、肌で理解してはこなかった。
すべてが、自分の思うままになると思っていたのだ。
「こ、こわいぃ……」
だからこそ、ローザはもうどうしたらいいのかわからなかった。
「お、お母様……」
さきほどまで、もっともらしく『貴族の令嬢らしさ』について説いていた相手である我が子にすがりつく有様だ。
異変に気づいたらしい客人が、ざわざわと不安そうにこちらを見ている。
どうしよう。
この晩餐会は、めちゃくちゃだ。
ローザがいよいよ涙目になった、そのとき。
「パパ!」
凜とした、鈴のような声が響く。
途端に、ローザを押しつぶしていた恐ろしいまでのプレッシャーが消える。
「え……?」
声の方を見る。
その声の主は、【王の学徒】――オリビアだ。




