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かわいい娘、七天秘宝さがしに出かける。 ~パレストリア家の奇跡の一夜⑤~

 ――晩餐会。

 避暑地ルイザーを楽しむ貴族たちが、次々にパレストリア家にやってくる。

 本来、貴族主催の晩餐会といえば何ヶ月も前から準備が始まる。招待客の選定から、メニューや提供する酒類の検討と手配、さらにはカーテンやテーブルクロスの色、ドレスや上着の色が被らないようにという根回しまで、とにもかくにも面倒くさい。

 ローザ・パレストリアの気まぐれな性格は、シュトラ王国の貴族の中では知らないものはいない。

 そのため、急な晩餐会の誘いにも、


「まぁ、あの人なら仕方ないかな……」


 という空気が、ルイザーの地を楽しむ貴族たちの間に流れたわけである。


***


「ローザ、急なことなのにこんなに沢山集まってくれるなんて、嬉しいねぇ」


 ふくぶくしい顔をさらに丸くして、ジャック・パレストリアが庭園を眺める。

 今夜はガーデンパーティという形式だ。

 立食形式ではなく、いくつかのテーブルに分かれての食事会である。夕方の避暑地を吹き抜ける涼しい風の中で、夏の食材をふんだんに使った食事とお酒を楽しもうという趣向である。


「ふふふ……食事も贅をこらしたものにしましたし、おもてなしの準備は万端ですわ! これで、【王の学徒】とあの見目麗しいドラゴンさんを我がパレストリア家の、お近づきに!」

「うぅーん、デイジーがずいぶん仲良くしてもらっているんだろう? 今日はそのお礼ってことで、そうもガツガツしなくてもいいじゃないか、お前」

「あなた! そんな風だから『ぼんやり魔導師』だなんて呼ばれるんですのよ」

「えっ、私そんな風に呼ばれているの!?」


 ジャック・パレストリアは、由緒正しき大魔導師の家系の現当主であり、宮廷魔導師団でも重要なポストにいる。

 けれど、ふくぶくしい見た目と貴族社会に生きる男にあるまじき柔和な言動……さらには、少々子どもじみてトボけた性格もあいまって『ぼんやり魔導師』という不名誉なあだ名をつけられてしまっているのだ。

 たしかに、日和見しがちでオドオドした性格ゆえに気の強いローザ夫人の尻に敷かれがちではあるのだけれど。


「むぅ、酷いなぁ……」

「あら、言い得て妙な、機知に富んだあだ名ではありませんか?」


 と、ローザ。容赦がない。


「ねぇ、ローザ。あのドラゴンさん、優しそうな人だけれど本当にドラゴンなのかなぁ……」

「さぁ。ただ、彼が麗しい見た目で、【王の学徒】の保護者なのは確実よ?」

「ふぅむ……私、小さい頃からドラゴンの背中に乗るのが夢だったんだけども、お願いしてもいいだろうか」

「駄目に決まっているでしょう!」

「でも、ドラゴンだよ? 背中に乗せてもらいたいと思わないかい?」

「あの人たちをおだてにおだてて、気を良くしてもらわないといけないのですよ!」


 夫婦の小さな小競り合い。

 ぷりぷりとしているローザ夫人の顔が、ゲストたちがやってくるたびに社交界スマイルに切り替わる。まるで百面相である。


「お父様、お母様」


 晩餐会のためにドレスに着替えたデイジーが、しずしずとやってくる。

 すっかりレディの身のこなしが身についている。


「デイジー。いやぁ、しばらく合わない間に、すっかりステキな貴婦人だね」


 ジャックは、愛娘の成長ぶりにデレデレである。

 けれど、隣に立っているローザはそうではなかった。


「デイジーッ!」

「は、はいっ」

「パレストリア家のレディとして、今の振る舞いはいけませんわ」

「は、はぁ」

「父と母相手だとしても、自分から声をかけるなんて。レディは静かに黙っていて、声をかけていただくのを待つの。こうやって、目配せをしてね」


 バチン、とローザがウィンクをする。

(声をかけられるのを待っていたら、お母様はいつまででもお喋りに夢中で気づいてくださらないのに……)

 デイジーは思った。

 その間も、ローザがぱちんぱちんとウィンクを繰り出す。


「ほら、やってごらんなさい」

「えっと……」


 デイジーがウィンクをしようとするけれど……。


「えいっ」


 両目をつぶってしまう。

 ローザは大きな溜息をついた。


「……はぁ、今夜は特訓ね」

「え。ウィンクに特訓とかあるのかい?」


 ジャックが驚いた顔をする。


「前から言おうと思っていたんだけれど、うちはあくまで魔術師の家なんだからさ。デイジーだって魔法の腕はすごいんだよ?」


 ジャックがローザに諭すように言う。

 自分が同じ年頃のときには使えなかった魔法を習得した、という学院からの通知表の話題で妻の機嫌をとろうとする。


「はぁ、あなたは何もわかっていないわ」


 けれど、それは逆効果で。


「デイジーは女の子ですわ。あなたとは違うのよ? 今日の晩餐会だって、デイジーがお近づきになるべき良家の殿方はこんなにいますのよ!」


 ずらずらっと名前の書かれたリストを突きつけられる結果になった。


「おいおい。デイジーはまだ十四才で……」

「さ、この話はおしまいですわ。ゲストの皆様に挨拶に行かなくちゃ。さ、デイジー! あなたは【王の学徒】をマークしなさいなっ!」

「マークって……」


 はふぅ、と母親にバレないように溜息をついてデイジーはオリビアのところへと向かう。

 完全にローザのペースでことは進むのだった。

 名家・パレストリア家のいつもの風景である。


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