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ドラゴン、王都に行く。~小さな料理人、ケイト・プラシェト②~

 翌朝。

 夜明け前の、朝早く。

 厨房にケイトちゃんがやってきた。


「ふあーぁ」

「おはよう、ケイトちゃん」


 ボクが声をかけると、ケイトちゃんは飛び上がる。


「うわわぁっ!?」

「ごめんごめん、驚かせちゃったかな」


 まだ日も昇っていないのに、ケイトちゃんはコックさんみたいな白衣を着ている。

 目をぱちくりさせているケイトちゃんは、ボクの手元を見て「あっ」と声をあげた。


「オリビアのおじさん、それって……?」

「勝手にキッチンを借りて、ごめんね。昨日のご馳走のお礼にと思って」


 四人分。

 片手鍋に作ったのは、ミルク粥だ。

 たまねぎを炒めて、昨日余っていたコンソメスープを注いだスープに茹でた麦とお米を入れて煮込む。


 お米がクタクタになったところに、チーズを溶かし込んで完成。

 ご馳走を食べた翌日の朝は、これを食べることにしている。

 オリビアは、ああ見えて食いしん坊で何でもたくさん食べるんだけど、ついつい食べ過ぎてしまうところがあるんだ。


 ご馳走を食べた次の日に、お腹いっぱいでずっとウトウトしていることがあるのだけど……このミルク粥なら消化も良いから、昔からよく作っているのだ。

 普段からよく作るミルクスープとほとんど同じ材料で作れるしね。


「ミルク粥……」

「あんまり食べないかな」

「はい、初めて見たっす」

「そうかぁ。すごく古いレシピ本に書いてあったんだ。昔の料理なのかもね」


 たしかに、今考えると古代文字で書いてあるレシピ本だったかもしれない。魔王さんの魔導書図書館の一角で見つけた本なんだけれど。


「あんな素晴らしいご馳走をつくるコックさんに食べてもらうと思うと緊張するけど……よかったら、どうぞ。昨日、すごく頑張っておもてなししてくれたんでしょ」


 鍋から、一人分をお皿に取り分ける。


「オリビアたちはまだ起きてきていないから、ケイトちゃんの分」

「でもそんな」


 ケイトちゃんが、「うぅ」と唸る。


「そんなぁ、お客様に朝食を作らせてしまったなんてぇえ」

「ボクがやりたくてやったんだよ」


 気にしないで、と微笑む。

 ケイトちゃんのお腹がぐぅうぅ~と鳴った。


「わわ……」

「あはは、お腹すいているのかな」

「じ、実は……ウチ、昨日から何も食べていなくて」

「えっ!」

「おもてなしに夢中で、自分のごはんを食べ忘れてしまったっす」


 恥ずかしそうにうつむくケイトちゃん。


「お父さんがいつも言ってるんす。自分が作った料理を笑顔で食べている人の顔を見ていると、自分のごはんのことなんて忘れちゃうって」

「へぇ」


 気持ちはわかるかも。

 オリビアがおいしそうに食べている顔が、ボクの何よりのごちそうだ。


「晩餐会が成功すると、心から誇らしいって。ウチ、そうやって話してるお父さんの顔が好きっす」

「きっと、お父さんもケイトちゃんのことが好きだよ」

「とーぜんっす!」


 ニカッ、とケイトちゃんが笑った。

 ミルク粥をふぅふぅと冷まして、一口食べる。


「……おいしいっす」

「そうかな。よかった!」


 あんなに素敵なお料理を作るケイトちゃんに褒められて、ボクはほっと胸をなで下ろす。


「ほんとに、すごくおいしい。ウチのお父さんの料理みたいに、キラキラしてカラフルじゃないっすけど……」

「た、たしかに地味かも」


 色合いなんて考えたこともなかった。

 季節ごとの山の食材を使えば、いつのまにか賑やかな色合いになっていたからなぁ。


「でも」


 ケイトちゃんが、ミルク粥をもう一口。


「この味が、オリビアちゃんを育てたんだぁ……って思うと、すごく納得っす。おじさんがドラゴンっていうの、はじめはすごく驚いたし……えっと、ちょっと怖いなって思ったっす」

「……うん」


 それはそう。

 お山にやってきた人間たちは、ボクの姿を見ると飛び上がったり腰を抜かしたりしていた。実は、はじめはあれが挨拶なのかと思っていたんだよね。昔、人間の姿でオリビアと一緒に街に行ったときに挨拶代わりに「うわぁっ!」っと派手に転んで見せたら町の人に変な顔されたっけ……今思い出すとちょっと恥ずかしい。


「でも、このミルク粥。すごく、すっごく優しい味っす」


 ケイトちゃんは、スプーンを動かしながら言う。


「ウチ、料理のことならわかるっす。なんていったって、ウチは最高の宮廷料理人のお父さんの娘っすから。このミルク粥が教えてくれます。おじさんが、オリビアのことをすごく大事にしてること……」

「ケイトちゃん……」

「にひひ、ごちそうさまっす!」


 きっと、昨日のことを慰めてくれているんだろう。

 街中でドラゴンの姿になって、みんなに怖がられていたボクを慰めようとしてくれているのかもしれない。

 おもてなしと、思いやりの心。

 きっとケイトちゃんは素敵な料理人になるだろうな――と思った。


 オリビアたちが起きてきて、賑やかな朝食。


「えへへ、パパのミルク粥大好き!」

「お粥なのにミルクとはこれいかに……と思いましたが、なかなか悪くないでございまする」


 うまうま、とリュカちゃんもご満悦だ。

 さて。

 今日から【七天秘宝(ドミナント・セブン)】探しのはじまりだ。

 まずはどこから探そうか。

 オリビアが、「そうだ!」と弾んだ声をあげる。


「あのね、オリビア、せっかくだから楽しいほうがいいって思うんだ!」


 オリビアからの提案は、とっても素敵なものだった。


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