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ドラゴン、女王に謁見する~七天秘宝と星願いの儀式~

 王都シュトラというのは、フローレンス女学院から半日ほど南に飛んだところにある。


 まぁ、実際には馬車で移動しているのだけれど。

 人間の姿になって、王都方面に向かう学院の馬車に揺られる。到着は一日先らしい。


 王都にドラゴンが飛んできたら大騒ぎだ、っていうエスメラルダさんの意見でそうなったわけだ。のんびり旅行はいいけれど、騒ぎって……ボク、別に何もしないのになぁ。そりゃあ、見た目はちょっと怖いかもしれないけど。


 エスメラルダさんは、一足先に王都に戻るといって校舎の影の中に飛び込んで消えてしまった。影から影へと移動する瞬間移動。知っている場所しかいききできないけど、エスメラルダさんが持っている【七天秘宝(ドミナント・セブン)】のうちの一つ、【夕闇の宝冠】の力らしい。便利でいいなぁ。


「えへへ、ケイトちゃんと同じ馬車なんて楽しいね」

「いやぁ、本当っすよ! クラスメイトとはいえ、寮が違うと二人でゆっくりって機会はないっすからね!」


 オリビアは、泉の寮(フォンテーヌ)に住んでいる。フローレンス女学院には三つの寮があって、ケイトちゃんは、たしか木の寮(アルボル)の生徒だ。


「おっと、リュカちゃんも道中よろしくっす~!」

「よ、よろしく、です」


 オリビアとリュカちゃんと一緒に揺られる馬車の中。ボクたちの向かいに座っている女の子――真っ赤な髪と笑顔が眩しいケイトちゃんは、オリビアのクラスメイトだ。

 お父さんが宮廷料理人っていうすごく料理上手な人で、本人も学院でお茶会をするときにもお菓子や軽食を作ってくれる。


 明るくて、いつも元気。

 今もバスケットから手作りのクッキーを取り出して、隣に座るリュカちゃんに分けてあげている。

 リュカちゃんも戸惑いながらも受けとって、オリビアの真似をして両手でクッキーを掴んでサクサク食べている。


「えへへ、おいしいね」

「……美味でございまするっ」


 サクサク、サクサク。

 二人ならんで、なんだかリスみたい。


「あ、オリビアのパパもクッキーどうっすか?」

「ありがとう、ケイトちゃん」


 一口いただく。

 ……うん、おいしい。

 ボクも料理をする身として、深く感心してしまう。シンプルなバターのクッキーなのに、とってもコクがあって、甘くて、ほろほろの口当たりで、おいしいのだ。

 うぅ、紅茶がほしい!


「あっ、そうだ。オリビアちゃん、王都に来るなら、ウチに泊まらないっすか?」


 ケイトちゃんがニッコリ笑って提案してくれる。

 オリビアが、すばやく反応する。


「え、いいの?」


 それって、つまり。


「お泊まり会だねっ!」


 夏休みってかんじだね、パパ……っと、オリビアの笑顔がはじけた。


 ***


「――ようこそ、【王の学徒】オリビア・エルドラコ」


 シュトラ王城。

 ボクらのお家である魔王さんのお家よりも、さらに広くて大きなお城だった。それこそ、絵本に出てくるようなお城。


 その奥の奥にある大きなお部屋……玉座の間で待っていたのは、エスメラルダさんと、そしてシュトラ王国の女王様だった。

 玉座に座った女王さんは、玉座の前に垂らされた真っ白い布で姿を隠しているので姿を見ることはできない。ボクの目なら、見通すことはできるけれど、やめておく。そんなに興味ないしね。

 女王さんが、ゆっくりとした口調でボクたちを歓迎する挨拶をする。


「そして、我らが宮廷魔術師団の長、エスメラルダ・サーペンティアの弟子……東方の竜人族リュカ・イオエナミ」

「は、はいっ! 女王陛下、お招きいただき光栄でありまするっ」

「ふふ、あまり固くならずに」


 女王さんはリュカちゃんの返事におかしそうに笑う。

 全然、嫌なところのない笑い声だ。


「それと……失礼、そこな殿方は?」


 トノガタ?


「……パパ殿のことでありまする」

「あっ!」


 リュカちゃんが小声で教えてくれた。ありがとう。


「ボクは、オリビアのパパです!」


 自己紹介をする。


「は、はぁ……オリビア・エルドラコの父上というと、もしかして……」

「はい、女王陛下」


 割って入ったのは、エスメラルダさんだった。


「例の、エルドラコ氏です」

「まぁ、あなたが……例の、大きなドラゴンの」

「あ、知ってるんだ」


 今は人間の姿ですが。

 そうです、ボクがドラゴンです。


「色々とお聞きしたいことはありますが……こほん、今回あなた方をこのシュトラ城に呼んだのは他でもありません――捜索を進めている【七天秘宝ドミナント・セブン】に、不穏な動きがあったのです」

「不穏な動き?」

「エスメラルダ」

「はい」


 女王さんの呼びかけに、エスメラルダさんが一歩前にでる。


「はるか昔から、シュトラ王国近辺で受け継がれてきた宝石【七天秘宝(ドミナント・セブン)】については、すでに知っていると思う。七つの大いなる力を秘めた宝玉を使って作られた秘宝だ」

「大いなる力?」

「あぁ……この宝玉は、それぞれの性質に合わせて少しずつ魔力を蓄積していく性質があるんだ」

「魔力を……蓄積……?」

「簡単に言えば、時間が経てば立つほど強くなる。悠久の時を生きる古代竜が、人間にはあり得ないほどの魔力を体内に有しているようにな」

「え、ボク?」

 エスメラルダさんは、空中に魔力で文字を書いていく。


 光の宝玉を使った【久遠の玉杖】。

 闇の宝玉を使った【夕闇の宝冠】。

 水の宝玉を使った【蒼水の剣】。

 炎の宝玉を使った【灼炎の聖槍】。

 風の宝玉を使った【緑風の弓】。

 大地の宝玉を使った【大地の盾】。


「光、闇、水、炎、風、地……これらの魔力は、知っての通り世界を構成する六大元素といわれている。リュカ、今、【七天秘宝(ドミナント・セブン)】の収集がなぜこれほどまで重要視されているか、説明できるか?」

「はいっ!」


 エスメラルダさんの指名に、リュカちゃんがピシッと手を挙げる。


「かつては【七天秘宝(ドミナント・セブン)】の魔力を定期的に放出させるために、三十年に一度、宝玉の魔力を解放し、選ばれた民のささやかな願いを叶える【願い星の儀式】を行っていました。しかし、散逸以来すでに三百年以上が経過……すでに、宝玉の魔力は限界まで高まっております」

「うむっ」


 エスメラルダさんが頷く。


「光の宝玉はフィリス、闇の宝玉は私、水の宝玉はリュカが所持している……しかし、ほかの宝玉はどこにあるのかすらわからなくなってしまったんだ」

「えと、そんな大切なものなのに、なくしちゃったの?」


 オリビアの疑問に、エスメラルダさんが答えてくれる。


「時間というのは残酷でな。……千年前に行われた、魔王による魔界からの侵略戦争のときに、最初に【大地の盾】が姿を消した。そして、ついに三百年前に【七天秘宝(ドミナント・セブン)】は完全に散逸してしまったんだ」

「あちゃあ……」


 人間、いつも喧嘩しては陣取り合戦をしているもんなぁ。

 たまに山から人間の様子を眺めても、代わり映えしない喧嘩ばっかりで飽きちゃった……というのも、ボクがオリビアと出会うまで下界に興味を持たずにのんびり過ごしていた理由のひとつだ。


「最大で千年以上、宝玉は魔力を溜め続けている。私の見立てでは、そろそろ【七天秘宝(ドミナント・セブン)】の蓄積している魔力は臨界を迎えるだろう。……その前に、なんとしても宝玉を揃え、【願い星の儀式】を行わねばならない」

「願い星の儀式……」


 リュカちゃんがエスメラルダさんの説明を引き継ぐ。


「【七天秘宝(ドミナント・セブン)】の魔力をすべて解放して膨大なエネルギーに変換する儀式……そして、そのエネルギーによって、なんでも願いを叶えられると伝えられる儀式でありまするっ」

「なんでも、願いを!」


 それって、すごいことなんじゃ?

 ボクとオリビアは思わず顔を見合わせる。


「だからこそ、それを悪用しようという勢力からは絶対に【七天秘宝(ドミナント・セブン)】を守り通さねばならんわけだ」

「悪用!」


 そんな悪い人がいるのか。

 ボクが目を丸くしていると、女王さんが口を開く。


「……我がシュトラ王国の隣国……機巧帝国グラキエスは、長らく我が国の領土に攻めてくる機をうかがっています」

「け、喧嘩だ……っ!」


 それって例の、人間たちがよくやっている陣取り合戦のことだよね。


「実は、【七天秘宝(ドミナント・セブン)】のうちのひとつ、【緑風の弓】をグラキエス帝国が手に入れたという情報を手にしました。彼らも、【七天秘宝(ドミナント・セブン)】を揃えようとしているのでしょうね」

「そういうわけで、一刻も早く私たちシュトラ王国が【七天秘宝(ドミナント・セブン)】を集め、【願い星の儀式】によって蓄積した魔力を解放しなくてはならない……というのが、女王陛下のお考えだ」

「残りの宝玉について、国の魔導師達や兵士達も力を尽くしていますが、手掛かりすらわかりません……炎の宝玉、【灼炎の聖槍】を見事に見つけたあなたたちに、この夏休みを使って【七天秘宝(ドミナント・セブン)】の捜索をお願いしたいのです」


 女王さんの言葉に、オリビアは真剣に耳を傾けている。

 これが、とっても大切なお願い事なの、わかっているんだね。


「少女時代の夏休みというのが、かけがえのない財産であることは承知の上で……どうか、力を貸してくださいませんか」


 女王さんの言葉に、オリビアが小さく頷いて、返事をする。


「えっと、パパも一緒に宝探ししていいの?」

「それは……あなたがたがよければ、構いませんが……」

「うん……オリビアはパパと一緒だったらなんだって楽しいから」


 そう言って、上目遣いでボクに微笑む。


「ね、パパ♪」

「~~っ!」


 ま、マジメな雰囲気なのに……オリビアの笑顔を見ると、ほわほわぁ~っとしてしまう……っ!

 か、かわいいっ! どう考えてもかわいいっ!

 毎年、かわいさの最高記録を更新していくオリビアなのだ。


「……パパ殿?」

「ご、ごめんリュカちゃん、思わず転げ回ってしまったよ……ははは」


 あぶないあぶない、ボクがドラゴンの姿じゃなくて本当によかった。この素敵なお城を粉々にするところだった。


「……。とりあえず状況を整理するぞ」


 エスメラルダさんが、ボクをなんとなく冷めた目で見つめている気がするけど、気のせいだよね。


「【七天秘宝(ドミナント・セブン)】のうち、行方のわからない大地の宝玉――【大地の盾】を探し出してくれ」


 光の宝玉は、フローレンス女学院の理事長であるエルフの女王フィリスさんが守っている。闇の宝玉は、正真正銘の水竜の子で、宮廷魔導師でもあるエスメラルダさんが肌身離さず身につけている。水の宝玉は、リュカちゃんが先祖代々守ってきた。


 奪われてしまった風の宝玉は、いったん置いてくとして――残りの、大地の力を司る宝玉、【大地の盾】を見つけること。


 それが、ボクたちの冒険の目的らしい。

 女王さんの声が響く。


「ゆくゆくは【緑風の弓】も取り戻し、【願い星の儀式】を行います。そのときには、オリビアさん……あなたの願いを何でも叶えてあげますよ」

「えっ、オリビアの?」


 オリビアがぴょこんと飛び上がる。


「うーん……願い……」


 オリビアが首をひねる。

 願い、がいまいちピンとこないらしい。


「パパのお願いは?」

「えっ、そうだなぁ……」


 急に話題をふられて、ボクは考える。

 お願い事……お願い事……。


「あぁ、最近はオリビアのお友達が家に遊びに来るようになったし、キッチンのオーブンを新しくしたいかなぁ、あとは、庭の畑をちょっと広くしたいかも?」

「いや、スケールが小さすぎるのでは」

「オリビアはどうだい?」

「えっと……パパとずっと一緒に居られますように、とか……?」


 オリビア、願い事まで可愛いの巻。


「~~~~っ!」

「ぱ、パパ殿! 落ち着くのでありまするっ」


 思わずジッタンバッタンゴロゴロしてしまった……。


「はぁ……君たちみたいに暢気な者たちばかりなら、世界は平和なんだが」


 と、エスメラルダさん。


「【緑風の弓】を盗んだ者の目的がわからない以上、学園生活の平穏のためにも、王国の平和のためにも、今まで以上に探索に力を入れないといけないという話なんだが……」

「あれ?」


 ふと、疑問が生まれた。


「あの……【七天秘宝(ドミナント・セブン)】って、【七天秘宝(ドミナント・セブン)】なんだよねぇ」

「む?」


 エスメラルダさんが首を傾げる。


「いや、えっと……光、闇、水、炎、風、地の宝玉を集めるって……六個しかなくない?」


 【七天秘宝(ドミナント・セブン)】っていうくらいだから、七つの秘宝なんだと思ったけど。たしか、前に説明してもらったときも、あと一つ名前が挙がった気がする


「む、そこに気づくとは……」


 エスメラルダさんが、キランと目を光らせてボクを指さす。


「やるな!」

「いや、さすがにドラゴンでも気づきますよ!」

「そうか、ドラゴンでも気づくのか」

「気づきますっ」


 ドラゴンを何だと思っているんだろう……。

 エスメラルダさんは小さく咳払いをした。



「まぁ、それは見つかるとは思っていないさ。六つの宝玉が見つかれば、当面の危機は去るだろうしな」


 エスメラルダさんの言葉を、女王さんが引き取る。


「まずは、【大地の盾】を探してください……頼みますよ、みなさん」

「はいっ」

「はーい」


 オリビアとリュカちゃんの返事が響いた。

 ちょっと深刻そうだけど、宝探しってやっぱりワクワクするね!

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― 新着の感想 ―
[一言] 第96話のドラゴン、聖槍を引っこ抜くで オリビアが手に持っている【失われし原初ロスト・ワン】から伸びる光は、この槍を差している。 こんなセリフありますけど、これとは違う物? どういう事…
[気になる点] あれ?ロストワンって他の石探す能力持ったあれだよね? あれ??初耳みたいな反応になってるけど
[気になる点] あれ?ロスト・ワンってオリビアがパパゴンからもらった宝玉なんじゃなかったっけ? 設定変わったの? 確か、杖作るかなんかでパパゴンの宝物オリビアにならあげるよって感じの話あってそれがロス…
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