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ドラゴンと夏休み②

「待った!」


 ボクが飛び立とうとしたとき、空から涼やかな声が聞こえる。

 しゅたん、と降りてきた人影は――


「エスメラルダ様っ!」


 煌めく銀髪をなびかせた、すらりとした女の人。

 リュカちゃんの保護者で、師匠――エスメラルダ・サーペンティアさんだ。


「リュカっ♪」


 ボクの背中に乗っているリュカちゃんの姿に、エスメラルダさんが満面の笑みになる。

 リュカちゃんはボクの背中から滑り落ちるようにして、エスメラルダさんに駆け寄る。

 はじめは、お互いに好きな気持ちをまっすぐに出せなかったみたいだけど……うん、もうすっかり素直になったみたい。うんうん、いいことだ。


「お会いしとうございましたっ、エスメラルダ様っ!」

「私もだぞ、リュカ! 春学期、ご苦労だったな!」

「はいっ! あ、あの、これ成績表でございまするっ」

「おお……っ! さっすが我が弟子だよ、素晴らしい成績だっ。しかも、ふむふむ……お友達もたくさんできたんだな!」

「は、はいっ」

「ふふふ、さすがは我が弟子だな」

「精進いたしまするっ」


 二人とも、デレデレだ。

 リュカちゃんの成績表を見ながら満面の笑顔のエスメラルダさんだけど……何か、急用じゃなかったのかな。


「あう……取り込み中すまんが、我らもう今すぐにでも帰りたいのじゃが? エスメラルダとやら、何の用?」

「そ、そうでございまするっ! お忙しいと聞いておりましたのにっ」

「あっ」

「あ?」

「あー……」」


 エスメラルダさんが口ごもってほっぺたを赤くした。

 リュカちゃんに視線を合わせるために、屈んでいたエスメラルダさんはゆっくりと立ち上がって、


「……こほん」


 咳払いをひとつ。


「し、失礼した。このたびは、緊急事態があってな……【王の学徒】たるオリビア・エルドラコに伝令を持ってきたのだ」


 エスメラルダさんは、ぺらりと一枚の紙を取り出す。


「これは、我らがシュトラ王国、国王陛下の勅令である」

「ちょくれい」


 なんだ、それ。


「王様の直々の命令、ということですよ」


 きょとんとしているボクに、クラウリアさんがそっと教えてくれる。

 本当に面倒見がいいなぁ。


「えーっと……王様が何の用事? っていうか、ここって王様がいるの?」

「もちろん、ここはシュトラ王国の領地なのだが……」

「……もしかしてボクのお家も?」

神嶺(しんれい)オリュンピアスのことか。もちろん、そうだが……」

「き、聞いてない……っ!」


 オリビアが来る前は、ずっとウトウトしたり散歩したりして暮らしていたとはいえ、知らない間に自分のねぐらが知らない人の領地になっているのにはビックリした。

 ニンゲン、すごすぎる。


「いや、山の上まで行って伝説の古代竜に許可をとる人間などおらんだろう……って、それは今はどうでもよくて」


 エスメラルダさんは、キリッとした表情でボクたちに向き直る。


「招集だ、オリビア・エルドラコ! 【七天秘宝(ドミナント・セブン)】について正式な任務が発生した。リュカ・イオエナミと共にシュトラ王城へ出頭せよ!」


 エスメラルダさんの言葉に、リュカちゃんが目をきらきらさせて頷く。


「は、はいっ!」


 そして、とうのオリビアはというと。


「……えっと」


 きょとんとした顔で、ボクとエスメラルダさんを交互に見比べて――


「ぱ、パパが一緒なら」


 と、呟くみたいに言う。


「む?」

「えっと……オリビア、夏休みにパパと一緒に過ごすの楽しみにしてたから……」


 ボクもオリビアの学校に通うようになったとは言え、やっぱり別々に過ごすことも多い日々。

 ボクがオリビアと夏を過ごすのを楽しみにしていたように、オリビアも夏を楽しみにしていたんだね。


「パパと一緒なら、行きます!」

「ボク、絶対行きます!!!」


 エスメラルダさんは、ぽかんとしたまま頷いた。


「ま、まぁ問題ないだろう」


 ボクとオリビアは、声を揃えて飛び跳ねた。


「「やったぁ!」」


 一緒だったら、どんな場所でも楽しいね!


「……でも、王様がオリビアに何の用事なんだろう?」

「さぁ?」


 これが、ボクとオリビアの――そして、


「あうぅ……我もう帰りたいんじゃが……」

「マレーディア様、よろしければ【悪魔の小径(デモンズ・ゲート)】を使って先に帰られませんか? その……今帰れば、私たち、二人きりですし」

「名案じゃなっ!」


 ――ボクらの楽しい隣人、魔王さんとクラウリアさんを巻き込んだ、夏の楽しい大冒険の幕開けだったのだ。

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