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第十七話 継承

 日曜日の朝から道場に揃っていた。


 「蓮、チケットありがとう」

 「うん、満も楽しみにしてたよ。弓道部の子達も来るんだろ?」

 「うん、美樹達は模範演技が見れるって、喜んでたよ」

 「そっか……じゃあ、気合い入れないとな!」

 「蓮の射、楽しみにしてるね」


 笑い合うと、別々の方向へ歩いていくが、ほぼ同時に振り返った。


 「蓮、また後でね!」

 「うん! 遥が来るの楽しみにしてるなー」


 風颯学園高等部の学園祭では、弓道部の模範演技が毎年恒例だ。

 最終日に行われる引退式では、元部長から新部長へ引き継ぐように引く姿が、一番集客力のあるものとなっている。

 昨年は満が務めたように、今年は新しく部長になった蓮が客寄せをし、少しでも弓道に興味を持って貰えるように活動する場でもある。

 

 遥も中等部の頃、先輩の射を見に学園祭へ足を運んだ。あの頃に憧れた役を彼がするのだから、楽しみで仕方がないとは、まさにこの事である。


 小百合と知佳を駅まで迎えに行くと、三人揃って風颯学園高等部を訪れていた。

 学園祭はチケット制の為、校門ではチケット切りをする生徒や先生のチェックする姿が見受けられる。

 他校の制服が目立つのか、すぐに声をかけられた。


 「ハルーー!」

 「土屋先輩、こんにちは! 着物なんですね」

 「うん、クラスの子と来たんでしょ? この間の小百合ちゃんだっけ?」

 「はい、小百合ちゃんと知佳ちゃんです。二人ともバスケ部なんですよ」

 「へぇー、俺はハルの兄の友人の土屋ね」

 『こんにちは』


 少し緊張気味で応える小百合と知佳に、春馬は微笑んでいる。


 「道場で射詰いづめやってるから、寄ってくだろ?」

 「はい!」


 春馬に案内され弓道場に向かうと、場内には学祭らしからぬ空気が流れていた。


 「すご……」

 「弓道を見るのは初めて?」

 「はい……」

 「射詰は右から順番に弓を引いていって、最後まで残った人の勝ちだよ」


 右から五番目に蓮の姿があった。


 「ちなみに、今から引く奴がハルの彼氏だよ」

 「は、はい……」

 「会いたいって言われたって、満と蓮から聞いた。弓道部の子達も来てるんだろ?」

 「はい、今日は五人で来てますよ。チケット制だから知ってるんですね」

 「それもだけど、弓道部の毎年恒例だからね。他校が見に来るのは」


 遥が視線を戻すと、すぐに決着がついた。蓮が優勝したのだ。


 「松風先輩、お疲れさまです!」

 「かっこよかったー!」


 駆け寄ってくる女子は多数いるが、当の本人は営業トークさながらの顔で対応している。


 「この後は、部員が教えますので……興味がある方は、ぜひ弓に触れていって下さい」


 愛想良く振舞っているが限界は近そうだ。

 遥に気づくと、すぐに弓と矢を戻して駆け寄った。


 「蓮にしては……客寄せ、頑張ってるじゃん」

 「そう思うなら、土屋先輩も参加して下さいよ」

 「これは部長の仕事だからな」

 「こんな時だけじゃないですか」


 蓮は気を取り直し、彼女達に視線を移す。


 「遥、射詰はどうだった? そっちの子がクラスメイト?」

 「うん、小百合ちゃんと知佳ちゃん。クラスの仲良い友達だよ」

 「小百合ちゃんは文化祭の時に会ったよね? 松風蓮です。今日は楽しんでいってね」

 「ありがとうございます」


 穏やかな笑みに、二人とも頬が染まりそうだ。


 「遥も引いていかないか? 弓懸は持ち歩いてるだろ?」

 「う、うん……でも、弓と矢はーー……」

 「遥が使ってるのと同じの用意済み。俺が一緒に引きたいから付き合ってよ?」


 迷っている彼女を、小百合と知佳が後押した。


 「私、遥が弓道やってる所みたい!」

 「私もーー!」

 「……うん」

 「ちょっと遥、借りてくね。土屋先輩、この後案内お願いしますね」

 「はいよーー」


 蓮に手を取られ、一番近い的の前に立った。


 「遥が弓道してる所、初めて見る」

 「うん……」

 「そろそろ始まるよ」


 春馬の声で遥に視線を戻すと、ジャージを羽織り弓と矢を整えている。


 「八本で勝負だな」

 「うん」

 「俺のジャージ、遥にはちょっと大きいな」


 蓮のジャージを制服の上から着ると、袖を折り、髪を一つに結ぶ。


 「蓮、ありがとう」

 「挨拶するくらい、何でもないよ」


 顔を見合わせると、それぞれ的を向いて構え、遥、蓮の順に引いていく。

 辺りには弦音が響いていた。


 「ーーーー綺麗……」


 思わず漏らした知佳に、小百合も頷く。


 次々と放たれ、すぐに最後の射を迎えた。


 「あそこで引いてるの……松風さんと遥じゃないか?」


 弓道部を見に来ていた雅人が声を上げると、チームメイトは二人に視線を移した。


 「本当だ……二人ともすごいね……」


 仲間の変わらない射形に、高鳴っているようだった。


 「……同中だな」

 「楽しかったね……蓮、ジャージありがとう」


 すぐに脱ごうとするが留められる。


 「遥、それ着たまま、写真撮らして」

 「いいけど……蓮も写ってよ?」

 「うん、満の所に行くんだろ? 俺も着替えたら行くから待ってて」

 「うん」


 顔を寄せ合って自撮りをすると、手を振り分かれていった。


 「お待たせしました」

 「遥! 綺麗だった!!」 「すごかった!!」


 数本の矢で、ここまで感動している友人に、戸惑いながらも微笑む。


 「ーーーーーーーーありがとう……」

 「では、満のっていうか、俺のクラスでもあるけど、ご案内しまーーす」

 「お茶屋さんって聞きましたけど、お団子とかですか?」

 「そうだよーー。んで、満が点てた抹茶も飲めるよ」


 三年A組に着くと教室の一番前で、着物姿の満がお茶を点てていた。


 「ハルのお兄さん、かっこいいね」

 「だよねーー」

 「……ありがとう」


 遥達に気づき、点て終わると駆け寄っていた。


 「ハル! 小百合ちゃんと知佳ちゃんだね。いらっしゃい」

 『こんにちはーー』

 「春馬、あっちに案内頼む。点てたら持って行くから」

 「了解」


 テキパキと指示出しが出来るのは、部長気質だからだろう。


 満が抹茶を用意していると、一緒に点てていたクラスメイトに話しかけられていた。


 「満の妹さん? 可愛いな」

 「そうだけど、手は出すなよ?」

 「何? 溺愛してんの?」

 「違うって、ちゃんと相手がいるんだよ。ほら、来た」


 教室には、制服に着替えた蓮が顔を出していた。


 「あーー、松風かーー」


 弓道部は表彰台に立つ機会が多い為、松風蓮の名前も神山満と同じく、学年に関係なく知っている者が多いのだ。


 「蓮、お疲れさまー」

 「お疲れさま」


 遥の呼びかけに応えると、蓮は隣の椅子に腰を下ろした。


 「みっちゃんが、お茶点ててくれてるって」

 「楽しみだな」

 「遥と松風さんは、幼馴染なんですよね?」

 「うん。それこそ、小さい頃から一緒の写真が残ってるよな?」

 「うん、祖父が親友同士だったみたいだからね」

 「そうなんだー」


 四人で話をしていると、満と春馬がお団子と抹茶のセットを持って来た。


 「お待たせしましたーー」

 「みたらしのセット三つと蓮はアンコな」

 「ありがとう」

 「客寄せお疲れ、また十五時からもよろしくな」

 「うんって、二人もでしょ?」

 「まぁーな、十五時から団体メンバーで試合のように引くからな。引退式もあるから、時間があったら二人も見ていってね」


 満の誘いに頬をほんのりと桜色に染める二人がいたが、彼自身に気づく様子はなく微笑んでいる。


 「今日は来てくれてありがとね。この後も楽しんでいってね」

 「はい!」

 「ありがとうございます……」


 そんな満の様子に、蓮と春馬は『さすが天然』と、心の中で呟いていた。


 「遥、アンコも食べる?」

 「うん、美味しい! はい、一口どうぞ」

 「ん、美味いな」


 蓮の差し出したお団子をそのまま食べると、遥も同じようにお団子を差し出し、食べさせ合う。


 「遥、本当に仲良いね」

 「そうかな?」

 「アンコも食べる? こっち手つけてないから、二人で食べていいよ」

 「あ、ありがとうございます」

 「いいんですか? 松風さんの分が……」

 「俺はこれから弁当食べるから、満がわざと俺だけ違う団子にしたんだと思うし」

 「なるほどー、満も蓮と仲良いからなーー」


 蓮の背後から急に声をかけられた為、四人とも驚き振り返っている。


 「土屋先輩……急に話に入ってきたら、ビックリするじゃないですか」

 「悪い悪い」


 悪びれた様子のない春馬も話に加わる。


 「先輩、写真撮りたいです。土屋先輩とみっちゃんも」

 「呼んで来るから、待ってな」


 満が来ると、六人揃っての写真を撮って貰っていたが、興味津々な様子で話しかけられていた。ここでは遥達が他校生の為、セーラー服姿が目立っていたのだ。




 「遥、また弓道場で待ち合わせね」

 「ハルー、後でねーー」

 「うん、また後でね」


 小百合と知佳と分かれ、遥は蓮と並んで歩いていく。そんな二人の後姿を、彼女達は幸せな気持ちで見送っていた。


 「蓮、何処でお弁当食べるの?」

 「俺と満のとっておきの場所」


 手を引かれたまま階段を上っていくと、屋上に出た。


 「広ーーい! 屋上も解放してるの?」

 「普段は解放してないけど、先生に頼んどいたんだよ」


 蓮と満の信頼があるからこその先生の対応だろう。


 「……息抜きしたりする時に、一ノ瀬先生に頼んで鍵を貸して貰ってるんだ」

 「蓮とみっちゃんらしいね」


 二人は屋上の出入り口の階段に腰掛け、晴れ渡った空を見上げていた。


 「ピクニック日和だね」


 遥は作ってきたお弁当を広げる。中身は唐揚げや卵焼き等の彼の好物が詰まっていた。


 「遥、美味しい 」

 「よかった……」


 二人の間をゆったりとした時間が流れていく。


 「ご馳走さまでした」

 「お粗末さまでしたー」


 空っぽになったお弁当箱を鞄にしまうと、蓮が遥の肩に頭を寄せた。


 「少し……充電させて……」

 「うん……膝でもいいよ? ちょっと、休むんでしょ?」

 「……ありがとう」


 蓮は彼女の膝に頭を乗せ、横になった。


 「蓮、かっこよかったよ」


 頭上から聞こえてくる温かな声に、手を伸ばす。遥の頭はしっかりと傾けられ、ゆっくりと唇が重なった。


 「ーーーーっ、蓮……ここ、学校……」

 「……鍵かかってるから、誰も来ないよ」


 ーーーーーーーーこういう時の蓮はずるい……


 「本当は……もっと、色々したいけど」

 「うっ……」

 「遥からして……」


 素直に従う彼女は頬に手を添え、軽く口づけると真っ赤に染まっている。

 そんな彼女を愛おしそうに見つめていると、そのまま膝の上で蓮は眠りについていた。


 遥は自分の膝の上で、身を委ねる彼の頭に優しく触れる。


 ーーーーここが……蓮のお気に入りの場所。


 下から聞こえてくるお祭り騒ぎの学園祭の音を、心地よく聞いていた。


 今……一緒にいられるのは、蓮のおかげ……ありがとう……


 ポカポカの陽気と手に触れる柔らかな髪に、遥も瞼を閉じていた。


 十五時から模範演技が始まる為、二人きりの時間を満喫した後、道場に戻った。


 「蓮が女子を連れて歩いてるって、噂になってたぞ?」


 声をかけたのは、文化祭で会った佐野だ。


 「どんな噂だよ? 遥、また後でな」

 「うん、頑張ってね! 佐野さんも!」

 「遥ちゃん、ありがとう」


 観覧席に向かうと、ちょうど小百合と知佳を春馬が席へ案内している所だった。


 「土屋先輩、ありがとうございます」

 「いいえー、じゃあ俺も用意するから、またな」


 遥は二人と並んで座り、男子、女子の順に団体戦のように引く姿を心待ちにしていた。


 「五人一チームで、ここからだと向かって左側の人から順に弓を引くの」

 「そうなんだー」

 「楽しみだね!」


 満、進藤、佐野、春馬、蓮の順に五人が的前に並んだ。


 「兄から始まるよ」


 心地よい弦音が響く。


 これが彼女のいる世界なんだと、改めて実感する小百合と知佳がいた。


 「ーーーー綺麗……」


 思わず溢れた言葉は、遥もずっと感じていた事だった。


 私のいる世界を……少しだけ…………知ってもらえた気がして……


 友人達の反応に綻ぶ。


 満達が引き終わると、女子の団体メンバーが同じように引く。


 矢取りが終わると、今度は三年生が引退後の団体メンバーが弓を引いていく。

 蓮が部長になり、団体メンバーは二年生だけとなった。部内で射詰を行った結果が反映されている。

 この場においては、新メンバーのお披露目にも一役買っていた。


 すべて終えると、蓮と満の二人だけが場内に現れた。

 弓道の正しい所作で的前に立つと、弦音と弓返りの音が響く。

 辺りには拍手が響いていた。


 「お疲れさま……満、部長……」

 「お疲れ……蓮、部長……託したぞ?」

 「うん」


 引退式を終えた二人は、強く握手を交わしているのだった。




 「遥、今日はありがとう」

 「とっても楽しかったー」

 「こちらこそ、付き合ってくれてありがとう」


 遥が笑顔で応えていると、袴姿のままの蓮が見送りに来た。


 「二人とも、今日は来てくれてありがとう」

 「ありがとうございました! とっても素敵でした!」

 「かっこよかったです!」

 「ありがとう……これからも遥をよろしくね」


 頭を寄せて告げる蓮に、二人は顔を見合わせ笑顔で応えた。


 『はい!』


 校門から二人を見送ると、遥は隣に来てくれた蓮を見つめた。


 「お疲れさま……蓮、ありがとう」

 「うん、遥は弓道部の子と待ち合わせしてるのか?」

 「うん、さっき美樹から途中まで一緒に帰ろうって連絡が来てたけど、まだ道場にいるんじゃないかな?」

 「じゃあ、一緒に戻るか? あと一時間くらいは解放してるから、引いてるかもな」


 道場に戻ると、話をしていた通り、美樹が引いていた。

 弓を戻すと、近くにいた遥にようやく気づく。


 「遥ーー! 引かせて貰えるって言うから、みんなもやってるよー」


 隣にいる蓮に勧められ、遥は先程と同じく彼のジャージに、弓と矢を受け取った。


 遥が的前に立つと、すぐに心地よい弦音が響いていく。


 「松風のジャージ、着てる子がいるーー」

 「誰だろう? 他校生でしょ?」

 「彼女らしいよ。さっきクラスでも話題になってた」


 周囲の注目を集めていたが、弓に集中している為か、本人の耳には入っていない。


 彼女の綺麗な射形を自然と目で追ってしまう者が、何人いただろう。

 蓮はすぐ側で彼女を見つめながら、そう感じていた。


 「すご……」

 「だってハルちゃん、インターハイ優勝者だよ?」

 「そうなの?!」


 噂話を耳にした清澄のチームメイトは、改めて彼女の射を見つめていた。


 引き終えたタイミングで、袴姿の満が二人に声をかけた。


 「蓮! ハル! 勝負しないか?」


 彼の誘いに、蓮がすぐに反応した。


 「八? 十二?」

 「十六本! で、負けた奴が罰ゲームな?」

 「また飲み物?」


 罰ゲームは飲み物の買い出しが三人の中では定番だが、いつもとは違う提案が返ってきた。


 「この後、お茶を点てる! ちゃんと着替えてな」


 遥は顔を見合わせ、揃って笑顔で応える。


 「はーい」 「了解」


 三人の勝負を聞きつけた春馬が話に加わった。


 「面白そうじゃん! 俺はハルにお茶点ててもらいたいなー」

 「うっ……土屋先輩、頑張りますから!」

 「じゃあ、俺から提案ね。順番は満、ハル、蓮で!」


 部長達が弓を引くという事で、閑散としていた道場に、いつの間にか人が集まっている。


 「遥ーー」


 美樹は小声で呼ぶと、ジェスチャーで『頑張って!』と、エールを送っているようだ。

 頷いて応えた遥は、深く息を吐き出し、的を見据えた。


 心地よい音が続いていく度、三人は小さい頃を想い出していた。


 ーーーーーーーーよく、こうして競い合っていた。

 一人では……到底辿り着けない高みを目指して、日が暮れるまで……弓を引いてた。

 繰り返す日々が、とても特別な時間だったの……


 三人とも十六射皆中で終わると、蓮がこっそりと満に話かける。


 「満……遥に着物、着せたかったんでしょ?」

 「まぁーな。お茶のセットは、ここにあるけどな」


 親友の想いに応えるような提案をした。


 「遥、同点だったから、それぞれにお茶点て合わない? 着物姿見たいし」

 「えっ、ここで?」

 「俺のクラスでもいいぞー」

 「ーーーー隅っこでいいなら……ここで」

 「じゃあ、これ一式な! んで、蓮もな!」

 「えっ! 俺も?!」


 満は二人に着物を手渡し、着替えて来るように促す。


 「俺も着替えるから……教室まで行くと、もっと目立つぞー」

 「分かった!」 「分かりました!」


 それぞれ更衣室で着替えると、満の満足気な表情が目に入った。


 「じゃあ、蓮からな!」


 言われた通り、二人分のお茶を点てていく。

 二人の前に器が置かれると、最後はズズッと音を立てて飲みほした。


 「……美味しい」

 「本当だ……腕、鈍ってないじゃん」

 「次は満な?」


 点てる姿は、教室でも見た綺麗な所作だ。


 「結構なお点前でした」

 「美味しく頂きました」


 遥は久しぶりに点てる事に緊張していたが、いつもの顔ぶれに頬を緩ませる。


 「では……参ります」


 丁寧な所作でお茶を点てる姿を、二人は懐かしむように見つめていた。


 「うま……」

 「……美味い」


 穏やかな空気が流れていたが、道場を閉める時間が近づいていた為、程なくして終わりを告げた。


 「三人とも片付けるぞーー!」

 「あぁー、その前に春馬、写真撮って!」


 スマホを受け取ると、和服姿で仲の良い三人の姿を収めていた。


 「蓮、ハル、ありがとな」


 二人の肩を抱き耳元で告げると、優しく頭を撫でる。


 「みっちゃん……」

 「満……」


 二人には、彼が想い出作りをしようとしていた事が分かっていた。


 「満、二人でも撮らない? 遥とも撮るし」


 蓮の提案に笑顔で応え、何枚になるか分からない程の写真を残した。

 隣で笑う彼が、来年の春には此処にはいない事を痛感しながら。

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