運命(さだめ)橋の逢瀬
ハナ「(OFFから)ケンちゃーん、ごめん、待ちよった?」
ケン「よ、よせよ、ハナさん、腕なんかからませて。出勤する人たちが見るじゃないか」
ハナ「(艶笑)なんね、よかくさ。うちらもういい仲になっとっと?えずがり(臆病者)」
ケン「えずがり?なにそれ。とにかく止めてくれよ。はずかしい」
ハナ「あいた、また博多弁出たったい。すみまっせん。ほな腕は解くけろ身体はひっつけます。逃げんようにしとくばい」
ケン「ハナさん、あ、歩きにくい…」
通行人A「(舌打ちする)水商売もんの、朝っから」
通行人B「見たむなかね(嘲笑し遠退く)」
ハナ「なんね、馬鹿にしくさって。天神のよか会社に勤めよるか知らんけろ、あげん男のいっちょんすかん。うちはケンちゃんみたいな可愛か人が好きや。ケンちゃんはどう?うちのことすいとーと?」
ケン「うーん、だから、往来で云うに云えぬことを聞きたもうな」
ハナ「(笑う)ごめんなさい。ほなケンちゃん、あたきんのう、あ、いや、あたしの家にまた寄って行かんね。な?朝ごはんあがっていきんしゃい。ゆうべのうちに用意しとっとよ。それから湯使って、それから…いや!すかん!はよ行こ、行こ」
ケン「ま、また腕をからめて…」
街の雑踏音しだいに消える。アパートの鉄の階段をのぼる足音。ドアの鍵をまわす音。ドアをあけて中に入る音。