澪標(みおつくし)
ミツ「(たしなめるように)徹。反社会じゃなかよ。ケンさん、自閉症ごたーあるって姉ちゃんば云いよったけん。ランボーはその反動ばい…うちも一時自閉症ごたーなったけん、姉ちゃんの大急がしやったね(苦笑)」
杉浦「黙っときない、女子は。ここは男の話ったい。おいはケンさんに聞いとるんよ…どげんですか?ケンさん。女子のハナさんに救うてもらったはよかばってん、その後ケンさんの男ば立ちよったとですか」
ケン「……ぼくたちが会ったのはさだめ橋という名の交差点です。出会いは運命だとハナちゃんが云ってたけど、ぼくもそう思います。そして運命、みずからの業にあらがうという意味でなら、確かにぼくたちは気が合いました。社会に、畢竟自分に向き合えず僕は外国に逃げ、一部の人間の汚さにハナちゃんも一時道をはずした。世の負け組と思われるかも知れませんが、さだめ橋を渡った僕たちはそうは思いません。ハナさんに教えてもらった、我心の仇こそを見据えつつ、ぼくはこの先も生きて行く。ハナさんがいなくとも、もはや逃げることはない!…お二人とも、もしこの先逆境が襲ったときにはこの話を思い出してください。まことの敵はお二人の心の中にいる、廻りじゃあない。そいつが二人の仲を裂こうとした時には、戦ってくださいね。いつまでも仲良く…ね」
ミツ「らんらん、ケンさん、ありがとう。この先誰かといっしょになっても、姉ちゃん、忘れんのいて…うちのよか男って、姉ちゃんば云いよったけん…」
ケン「ミッちゃん!誰が…(嗚咽する)」
客A「あきれた。店の中で泣きよる」
杉浦「…(客Aに)こらえてつかさい。奥さんば亡くなりましたけん」
川から船頭の歌う舟歌が笛や太鼓の音とともに聞こえてくる。「たとえかざした雛じゃとて、務めはたせば流さにゃならん。わしも船頭、流れ行く。浮き世の業に染めた身は、雛に免じて、えー、流れ、ただ流れ行こうえ…」(了)
※上記「船頭唄」の歌詞は私の創作です。
※七ページの「星は…」はランボーの四行詩です。
末尾に和歌を一首入れさせていただきます(私は歌人ですので)。
「掉さして行かばや川を運命川ハナの声する澪標見て」




