七十六話 真剣に相手をしてやる
「この俺が人間ごときに屈辱を受けるとはな。神官戦士は神託の巫女を護るためにいた。奴らは、見た目とは異なり身体的に恐ろしく強い。何故なら、仕えるべき神からの加護を受けているからだ」
「別に受けた覚えはないけど?」
加護はルリが受けているけど、俺はもらっていない。
というか、もらえるものならもらいたいよ。
「加護を持たぬ劣等種である人間が、我らと対等に戦えるはずがない!」
「それって四大古竜から受けていたんじゃないの?」
「四大古竜だと!? あの災厄がまだいるのか」
「いや、人間からしたらアンタらのほうが災厄だよ」
「魔族は古竜のせいでゾマラルド大陸に閉じ込められてきたのだ。ならば、次は人間が再び魔族の奴隷になるのが相応しいではないか」
そういいながらバルムの喉元に魔力が集中している。
これは、まさか何かを吐き出そうとしている?
そう疑問に思った瞬間に口を大きく開き、集約された魔力が放たれようとした。
俺はそれと同時に、既に数十のマナ・ボールを用意していてそのうちの一つをバルムの口の中に飛ばしてやった。
「な、何だ! この俺の技が出ない!? また貴様か!!」
見事にマナ・ボールに相殺されて、ただ口を開けるだけのバルムが間抜けに見える。
笑いそうになるのを堪えて俺は言った。
「でも、これでハッキリしたよ。アンタには、ゾマラルド大陸が一番似合ってるよ」
両足に魔力を込めると、軽めにバルムの手前まで移動する。
自分でも驚くくらいに一瞬で間合いを詰めることができた。
驚きの表情のバルムが目の前にある。
身体を少しだけ捻って、魔力を込めた拳を握り締める。
「人間を奴隷とか言ってるアンタは、早くここから出て行ってくれ!」
その時、バルムの顎先から真上に伸びる一筋の流れが光の線で伸びているのが見えた。
線の流れに乗るように自然と拳をバルムの顎先に当てると、真上に振り上げる。
何にも阻害される事なく、綺麗にバルムに決まって上空へと吹き飛んで行った。
「ぐおおおお!!」
声を上げながら飛んでいくバルムだが、途中で急停止した。
そっか、魔族って飛べるから空中で勢いも調節できるのか。
でも、さっきのは何だったんだろう。
殴ったりしたこと無いのに、見えた光の線に動きを乗せただけで綺麗に当たるなんて。
しかも、当たった感触も手ごたえもあったのに、軽く打ち抜けた。
「神官戦士でもない、ただの人間が……」
「バルム様、大丈夫ですか! この神官、何かおかしいです! ガーゴイルが全てやられました」
ハーシルドが慌てた様子でバルムのいる場所まで飛んできた。
ルリも俺のほうへ駆け寄ってくる。
「……大丈夫ですか。怪我はありませんか?」
ルリが心配そうに言ってくれる。
まあ、顔面は殴られたけど少し痛い程度だったから問題なかった。
「ああ、あれくらいだったら大丈夫。ウォルフのほうが痛かったかな」
ルリはほっとしたようだった。
それよりも、バルムとハーシルドがまた何をしてくるか分からないから目を離せない。
「神官どころではない。この人間がおかしい。どうなっている」
「あの希少種共を呼び寄せましょう。本来であれば、この町を占拠した後の手はずでしたが……」
「任せる。俺は人間を見くびりすぎていたようだ。真剣に相手をしてやる」
バルムの魔力が一段と色濃くなっている。
ルリよりも密度が濃い色になっていた。
一瞬たりとも見逃さないように視ていたはずなのに、気付けば俺は腹と顔面に衝撃を受けた。
息が止まって、痛みで鼻から血が噴き出した。
突然の強烈な痛みで、視界が涙で滲んで見えにくくなる。
「カイト!! このっ、離れなさい!」
ルリが怒りの声を上げると、バルムに斬りかかるが軽く素手で受け止められていた。
至近距離でバルムが手をルリに向かって突き出すと魔術を使った。
「ブラックレイ!!」
ルリもほぼ同時に魔術を発現させた。
「ホーリーレイ!!」
ほぼ同時に黒い光と白い光が衝突すると、衝撃で俺は飛ばされて道端に転がっていた。
衝突した場所の地面がえぐられていて、近くにはバルムが立っていた。
ルリは倒れていたが、よろめきながら立ち上がった。
そして、上空に大きな爆発音が響くと遠くから地鳴りのような振動を俺は感じていた。




