七十四話 もう繋いでしまいましょう
□□□□ カイト視点
ルリが魔術でやられているのに俺は何もできないでいた。
何かできるんじゃなかったのかと思う一方で、あまりに平然と魔術で攻撃してくる相手に俺は固まってしまっていた。
「こんなものだろう。お前も神官と同じ場所に連れて行ってやる」
バルムの言葉に、俺はまた止まってしまう。
ルリを助けなければいけないのに、目の前の恐怖に一歩が踏み出せずにいた。
そんな俺の様子を見てバルムが嘲笑うように、俺を見下すような目で見ている。
「フッ。神官戦士でありながら、この怯えようか。聞いた話とはまったく違うな」
俺が一歩だけ後ずさると、続けてバルムは言ってくる。
普通に怖いと思ってしまっていた。
ウォルフの時は恐怖もあったけど、あれは俺がやってしまったというのが強かった。
ガレイムはいきなりだったけど、本気じゃなかったから恐怖はなかった。
この二人から感じた魔力が他の人間とは違う。
俺に対して勘違いのしようがない明確な殺意を向けてきている。
視線は完全にこちらに向けられていて、ルリの方は気にする素振りすらない。
ルリの自身の魔力を俺は知っているから大丈夫だとは思っている。
だけど、確認のために今からルリを視るのは危険すぎる。
「この町外壁の術式を超える魔道具を使い、我らの目を欺いたのは貴様らではないのか? こんなどこにでもいるようなゴミに手を煩わされたというのか」
「バルム様。人間に邪魔されたおかげで魔道具の効果が切れる直前まで待ったのです。とりあえずは、どこで手に入れた魔道具なのか吐かせてましょうか」
ハーシルドが俺に向かって歩くと剣を抜いて言った。
刃物を抜いて平然と歩いてくる姿に身体が動かない。
分かってはいたけど、向けられている殺意が普通に怖くて動けない。
「そうですね。まずはその腕を斬り落としてから話を聞きましょうか」
間合いを詰めてきて、ハーシルドが剣を振り下ろす。
俺は思わず目を閉じて両腕で防ごうと魔力を込める。
腕に一瞬だけ熱を感じたと思ったら、背後に何かが落ちる音が聞こえた。
恐るおそる目を開けると、剣を手にしていたハーシルドの腕が消えていた。
さっきの背後の音はまさか。
「は? 何だ? ボクの腕が、腕がない!! ぐああああ!」
ハーシルドは無くした腕を押さえて、悲鳴を上げていた。
「生きていたか神官。貴様が魔道具を使ったのか」
「……魔道具は使っていません。あなた方には分からないのですね」
黒煙が風に流されてルリの姿が見える。
怪我もない様子で平然と立っていた。
陽炎のように身体の周辺が揺らいで見える。
「……心配させてすみません、カイト。この二人は魔族です。町で魔法を使った時から監視されていたようだったので伝える時間がありませんでした」
「ルリが無事ならそれでいいよ。それに、魔族だとか聞いていたらもっと動揺していたと思うから逆に良かったよ」
この二人は普通じゃないのは分かっていたから驚きはなかったけど、魔族だったのか。ゲームとかだと人間に敵対する種族くらいの事しか知らない。恐らくこの状況を見る限りでは間違っていないのだろう。詳しい事は後でルリに聞くとしよう。
ルリが俺の前に来ると、赤々とした揺らぐ外套を纏っているように見えた。
おそらく『火竜イルグスの加護』によるものなのだろう。
神様から貰った剣は刀身が赤みがかっていて何でも斬れそうだ。
「……町の人たちは外にいるので大丈夫です」
そうルリが小声で言うと、後ろからバルムが拳を突き出して来た。
しかし、ルリは合わせるように振り返ると剣を振り上げた。
バルムの拳が手首の辺りまで裂けていた。
軽く振ったかのように見えた一撃で凄い威力だ。
「……魂も身体も軽く感じます。見ていてください、カイト。母様のおっしゃられた竜すら倒すという言葉をお見せいたします」
ルリからは炎の熱気を感じる。
焼けるような熱気ではなく、肌を刺してくるような感じのものだ。
剣を二振りしただけで、ハーシルドとバルムを圧倒しているように見える。
バルムが斬られた拳を気にする事もなく言った。
「竜だと? 人間の神官ごときが竜を倒すだと! 我らは未だ竜の呪いに縛られているのだぞ!」
「バルム様の拳も、ボクの腕もこんな状態です。もう、繋いでしまいましょう」
ハーシルドはいつの間にか斬られた腕を手にしていた。
足元を見ると、小さな闇が広がっていた。
前に逃げた時にも使っていたな。あの闇の中から取っていたのか。
バルムは斬られたほうの手を閉じたり開いたりしていた。
斬られたはずの手の傷が塞がっていた。
「そうするか。こんなに薄い魔力しかない場所では力が出せないからな」
バルムが手に収まるくらい小さな試験管を取り出す。
それを上空に掲げて言った。
「魔力の門よ、ゾマルド大陸へと繫ぎその力を開放せよ!」
そして、手にしていた試験管を握り潰したのだった。




