七十一話 奪った魔力は何に使うつもりですか
ガラスの割れたような音と共に、町全体が薄暗いドーム状の魔力に包まれていた。ルリが使った魔法が強引に破られたのか。
微弱ながらも感じていた心地よい回復がまったく感じられなくなっていた。
「……うぅ。魔力が……直接引っ張り抜かれているみたいです。これはどうにかしないといけません」
ふらつきそうなルリを支えると確かに引っ張られるような感覚がある。
魔力量がある程度以上あるから俺は引っ張られても魔力は取られていないと思っていた。でも、ルリですら取られるって何が違うんだろう。
ギルドの会議室で魔力を抜かれる感覚よりましだけど、これは抵抗できない人だとかなり辛いのは分かる。
これの元凶はどこから来ているのか……。
それは視れば分かる。
「……カイト。やはり町の外壁なのですね」
俺以外の人に聞かれないような小声でルリは言う。
視線から察したんだろうけど、その外壁を今すぐに破壊するべきか悩んでいた。
「まだこれに耐えられそう?」
「……わたしはまだ大丈夫です。カイトと同じように魔力を纏いました。これならだいぶ楽になりますが、この方法は……かなり難しいです」
「ごめん、もう少し我慢していて。どうやら、俺たちがいる場所にしか範囲が及んでないみたいだから」
こうもピンポイントに狙っているという事は、どこかに操作している奴がいるはずなんだけど、マナ・サーチでも分からないとなれば……。
やっぱり、深く視しかないのか。
「……正確な場所までは分かりませんが、近くに誰かいます」
「だったら、探す必要はないか。出てきてもらおう。魔術を使うフリだけ頼んだ」
そういうと、ルリは詠唱を始める。
それに合わせてマナ・ランスを二つ上空に浮かべる。
標準はもちろん、町を囲う外壁に描かれている術式だ。
スキルが統合されて以来、魔力のコントロールがより精密に行えるようになって、視認できればどんな距離でも当てにいける自信がある。
もう場所は覚えているから、後はルリの言葉に合わせて放つだけだ。
「……立ち塞がりし障壁よ消えよ! ディスペル!」
その声と同時に、外壁に向けて誰にも悟られないようにマナ・ランスを飛ばして破壊する。
そして、上空が僅かに揺らいだ。
そこにいたのか。
町全体にガラスの割れる音と引っかく嫌な音が同時に反響する。
これは想像以上に頭に直接響いてくる。
「ぐっ、こんなに頭に響くのか!」
「……外壁に組み込まれた術式が消えました。うぅっ……この音は内側から破壊した影響です」
ルリが少し苦しそうに俯いた。
「ルリ、大丈夫?」
「……はい。思った以上に音が強く感じました。これだけの術式、とても人に扱えるものではありません」
ルリに続くように上空から声が聞こえた。
「その通りだ。この術式が人ごときが扱える代物ではない」
「まったく耳障りな音だな。このボクとバルム様以外は地に平伏していればいいのだ」
突然現れたバルムとハーシルドが上空からゆっくりと地面に降り立つ。
バルムは両腕を組んで鋭い視線でルリを見ていた。
「こんな場所に神官様がおられるとは思いもしませんでした。おまけに上級魔術のディスペルを使い、町に覆われている術式を解除されるとは、地位も相当お高いものとみえる」
「……この町の人々から奪った魔力は何に使うつもりですか」
「いやいや。神官様が気になられるのも無理はない。これはただの町の外壁に組み込まれた強化のための術式。まさか、それを破られるとは思いもしませんでしたが」
「お前は一体何なんだ。ただの神官ごときが、町の術式を解除してどうしてくれるのだ!」
ハーシルドがルリを指さすと問い詰める口調で聞いてくる。
というか、普通に指差しするなよなと思ったけどルリは気にしている様には見えない。俺が気にし過ぎなだけなのか。
「……わたしたちは、町や村への巡礼の旅の途中です。外壁の術式は明らかに人に害を成すものでした。あなたたちこそ、何者なのですか?」
「ふっ、はっはっは! これは手厳しい。人間とはいえ、術式を解除するどの実力者。魔力も奪えないとなれば、これ以上の芝居も不要ということですかな?」
バルムが拳を突き出すと、魔力による突風が視えた。
俺はルリを庇うように、それを腕で振り払う。
腕に重いパンチを受けたような衝撃だったけど、何とか防げた。
「芝居ってことは、認めたって事でいいんだよね。バルムとハーシルドが魔力を強制的に奪った犯人だって!」
「そうだな、認めよう。それで認めたら何になるというのだ。ここで死ぬ人間が」
バルムが前に出ると、ハーシルドがそれを遮って出てくる。
「待ってください。バルム様の手を煩わせる事もないです。このボクが貴様らを葬り去ろうではないか!」
ハーシルドの身体から立ち込める異様な魔力に俺はどこかで感じた事があるような気がした。
俺が身構えると、ルリがそっと前に出てくる。
そして、流れるように剣を抜きながら言った。
「……わたしがお相手します。あなた方は変異種相当……いえ、それ以上に人に危害を与える者たちです。母様の命により、ここでおとなしくしてもらいます」




