五十九話 これを破壊する冒涜は許さないぞ
「ちっ、またお前かよ」
「それは、おとなしく連行されるという事でいいのか?」
「はぁ? どうすればそんな都合よく受け取れるんだよ」
「この『断罪の黒水晶』が嘘を見破っている。これ以上の答えが必要なのかい?」
断罪の黒水晶を使っている限り、こっちが何を言おうが全部不利になる。
それにあの黒水晶……やっぱりどこか怪しい。
ルリの最後の問いに対しても、あの瞬間は黒水晶の輝きも少し変化があったように見えた。
それにこの黒水晶は、どこか脆そうに見える。
きっと本物ならそんなことを感じる事もないはずだと思う。
オグ爺はおそらく見たことがあるから納得していたようだけど、あたしは前に見たのが初めてだから違和感しか感じない。
「少し聞いた事があるの。断罪の黒水晶は、どんな魔術でも破壊できないその硬さ故に、下される審判も正しいとされてきたわ」
「ん? 君は何が言いたい?」
「つまり、断罪の黒水晶が破壊れれば、それは偽物ってことになるわ!」
「な、何を急にバカな事を! これが偽物のはずがないだろう!」
そう。例え『審問官の補佐』とはいえ、証言を判断させる物を破壊するとんでもない暴挙といっても仕方がない。
だけど、その暴挙を行わなければ追い詰められている状況は覆らない。
あの小さい黒水晶だけ狙える魔術は、あたしの知る限りでは存在しない。
ファイアボールやファイアランスだと大きくてハーシルドまで当たってしまう。
かと言って、ファイアアロー、ウォーターアロー、アースブリッドでも大きすぎるくらいだし、もっと小さく撃てればいいんだけど。
『フフフッ、撃てばいいのに撃たないの?』
「え? ウォルフ何か言った?」
「あ? 何がだ?」
ウォルフじゃない? だとしたら誰なの?
気のせいじゃない。あたしには、しっかり聞こえたわ。
「何をコソコソ話している! これを破壊する冒涜は許さないぞ!」
するとウォルフがハーシルドの腕をとり、後ろから羽交い絞めにした。
「分かったぜ、こういう事だろ! いつでもいいぜ!」
「何をする! 脳みそに筋肉が詰まり過ぎておかしくなったか! やめろ、このっ!!」
ウォルフのおかげでハーシルドは動けない。
掴んでいる手首の先には、断罪の黒水晶が握られている。
「そ、そうだ。このギルド内での魔術の使用は禁じられている! これを破ればどうなるか分かっているだろう!」
「ええ、そうね。魔術を使えばギルド員としての資格ははく奪されるわね」
ま、資格がどうのとか今更だわ。
「いつでもいいぜ、やっちまえよ!」
ウォルフの勘違いのおかげで絶好の機会を得たのはいいんだけど……。
『撃てるのに撃たないの?』って何?
このまま何を撃てばいいの?
そうだ、ルリが放った光の矢。
他の魔術で放つ矢よりも小さく魔力が凝縮されていた。
そしてあたしは、『循環魔力』で今までにないくらい魔力の流れを感じれるようになった。
あたしは魔術で使えるものが全てだと、思い違いをしていたのかもしれない。
だってレノは通常の魔術とは違う『固有魔術』を使えていた。
だから、魔術という固定概念にとらわれてはいけないと感じた。
レノを治したあの力を、『魔法』と言っていた。
現存する魔術とは全く違う力。
あたしは自然と両腕を突き出し、口遊む。
「集いし大地の力よ。粒子となって捕われし物を打ち砕け!
アース・レイ!」
砂のような小さな粒が一筋の線となり、小さな音を立てながらハーシルドの手に握られている断罪の黒水晶に触れた。
その瞬間、パキッとした音と共に床に黒い欠片が落ちていった。
「なっ、バカな! これが魔術? ……いや、こんな事はあり得ない!」
「おおおおっし! やっぱ偽物だったようだな、ハーシルド!」
やっぱり偽物だったと喜びも束の間、あたしの魔力がごっそりと抜け落ちたのが分かる。ほぼ全部に近い魔力が一瞬で抜け落ちた。
もし、ルリから魔力操作を教わっていなかったらこんなものでは済まなかったかも。アース・レイを使った瞬間にあたしの魔力だけじゃなく、保持している器とでもいうのだろうか、それすらも削れていくような感覚があった。
このままは危険だと感じて使用する魔力の部分だけに移動させて使った感じ。
簡単に言えば、コップの中の魔力だけを使ったような感覚だった。この『魔法』は使うとコップごと消費しようとする恐ろしいものだ。
そして唐突に来る魔力酔いで、吐き気が収まらない。
「うぅっ……。うぅぇっぷっ、ううっ……」
うずくまって何とか吐き気をこらえる。
あたしの中の魔力がぐちゃぐちゃになって、一定にならない。
これが『魔法』なの?
こんな難易度の高い魔法をルリやレノは使っていたってことなの?
「お、おいキリリ! 大丈夫か!?」
あたしは答えることが出来ずに、ただ頷くしかなかった。
ウォルフが背中をさすってくれるおかげで、少しずつ楽にはなってきているけど魔力が安定しない。波打ってるような感じで、うまく落ち着かないのよね。
「……貴様らぁ! よくもこのボクをコケにしてくれたなぁ!」
あたしは顔を上げると、いつの間にか黒い小さな筒のような物を手にしていた。
ゆっくりとそれをこちらに向けると、ハーシルドは勝ち誇った表情をしていたのだった。




