五十三話 少し嫌な予感がします
「はぁー。何だよ、お前らその微妙な空気は」
ガレイムがそんな顔をしているからだろうと、突っ込む気持ちを押さえて何があったのか聞いてみる。
「ガレイムこそ、レノに何か言われたの?」
「何ってさ、聞いてくれよ! レノが『もう私の事はいいから、兄様は自分のすべき事をしてください!』って言われて、もう俺はショックで苦しい!」
レノの部分が微妙に似ているし、大げさに頭抱えて言わなくてもよく分かる。
まあ、レノからしたらガレイムの事を思っての事なんだろうけど、こっちにまで被害がくるから優しく言ってあげて欲しいところだ。
するとウォルフがガレイムに言う。
「だったらよ、カイトたちと行って来いよガレイム。子供たちがいるところに」
「まだレノは体調が万全じゃないんだよ。俺がついてやらないと駄目だろうが」
「そう? レノならそんな頑張る兄の事をどう思うのか、あんたは分かっていると思うけど?」
「うーん……そうか、なるほどな! よし、俺が行ってやるよ!」
「はーい、それじゃ決まりね。こっちはあたしとウォルフに任せておいて。子供たちのほうはお願いね。あと、ガレイムはちゃんとお礼を言っておきなさいよ」
決まるとキリリとウォルフは二階に上がっていった。
あっさりとガレイムを言いくるめるのは凄かったな。
自然な流れで、ガレイムに行かせるようにするとは。
ガレイムが急に改まると、頭を下げる。
「レノの病原の根を治してくれて、助かった。本当に感謝している。この借りは必ず返す!」
「快方に向かっているみたいだし、良かったよ」
「……本当に良かったです。後は薬も不要で、自然に回復するのを待つだけです」
「そうみたいだな。顔色も良くなったし、心配し過ぎると怒られるからよ」
何となくガレイムがそばでしつこいくらい心配しているのが想像できた。
そりゃ、レノも怒るだろうなぁ。
「それじゃ、これで行くメンバーは決まったね。問題はどうやって外に出るかって所なんだけど……」
「……普通に外に出てはいけないのですか?」
「町の入り口で捕まっちゃったからね」
「いや、怪盗と間違えられたんだろ。カイトは問題ないって。俺は昨日までのはずだったんだけどよ、丁度バロンが来ただろ。まあ、問題ねえよな!」
ガレイムは笑っているけど、そういうものなのかな。
勝手に出た扱いになると思うけど。
でも、バルムとの衝突で多分牢屋もほとんど壊れているだろうし、恐らくそんな例外的なルールも無いだろうから、現場判断になるんだろうなぁ。
「それで大丈夫なの?」
「問題ねえよ。衛兵がいたら、隠れて外に抜け出すから少し待っていてくれ」
まあ、問題ないって言うならいいか。
ルリが俺を見て言葉を待っているようだった。
「じゃあ、ガレイムのほうは任せるよ。俺とルリは正面から外に出よう」
「……はい、では行きましょう」
「よし、いこうぜ! 案内してやるよ」
ガレイムに付いて行くと北門まですぐに到着した。
武器を携えて鎧を着込んでいる人達の出入りがちらほら見える。
あまりガチガチな鎧じゃなくて、軽量で動きがあまり阻害されない必要な部分だけって感じだった。
過去で見たのは中世でよく見る鎧を着ている騎士もいた。
ロザリアに跪いた騎士たちは映画の特撮みたいな感じだった。
今、目の前にいる人達を見ていると異世界にいるなって思う。
「おっ、ギルドの奴らしかいねえじゃん」
ガレイムがそう言うと門の入り口に立っている人のほうへ走っていった。
確かに南門で会ったような槍を持っている衛兵はいなかった。
「おい、何でお前らがそこにいるんだ?」
ガレイムの知り合いの様だった。
冒険者ギルドの仲間同士ってことなんだろう。
「なんだ、ガレイムか。もう牢屋のお勤めは終わったのか?」
相手は笑いながら茶化す様に言っている。
「うるせえよ。衛兵はどうしたんだよ」
「何か知らねえけど、ギルドマスターに呼ばれているみたいだぜ。代わりにギルドの依頼でオレらが衛兵の代わりを請け負ったのさ」
「へぇ。そりゃ、散臭い話だな」
「胡散臭いつーか、前にいた衛兵は愛想悪かったよな、何だか冒険者を嫌な目で見るような感じがな」
ガレイムに追いつくと、話している人がルリを見ると急に声を高く上げた。
「こ、これはルリ様! おかげで骨折していた腕もこの通りで! ありがとうございます!」
男がペコペコ頭を下げていると、周りにいた人達や町に戻って来た冒険者たちが集まって来た。
皆が口々に「ルリ様!」と感謝の言葉で埋め尽くされた。
「お、おい! お前らどうしたんだよ! ルリが困ってるだろ!」
ガレイムの言う様に、ルリが困った表情を俺に向けた。
どういう事なんだろう。
怪我を治したのはルリというのは話では聞いていたけど、この群がる様な集まりができるほどの事なんだろうか。
いや、そうか。
ルリが無償で怪我を治療したから、こうなったんだ。
治療には寄付金がいると言っていた。
この町には、神官もいなければ怪我を回復できる人がいないし、薬の在庫もほぼ無い状態。疲弊しきっていた所に、無償で怪我人を回復させたんだ。
絶望の中にいた当人たちからすれば、それこそ神様のように見えるだろう。
「ルリが何か言わないと終わらないよ、これ」
ルリが黙ってうなずくと、皆に向かって声を上げた。
「……皆さん、感謝の気持ちは受け取りました。申し訳ないのですが、わたしたちは用事があるのでここを通りたいのです。よろしいでしょうか?」
そのルリの声で、ピタッと声が止んだ。
目の前に群がっていた冒険者たちが道を開ける。
その様はまるでモーゼが海を割った現象を思わせるように、綺麗に道が出来上がった。
「……皆様に、はは、んっ。……神のご加護を。カイト、ガレイムさん、行きましょう」
軽くお辞儀をすると、ルリは先頭を歩いていく。
それに俺とガレイムは慌てて付いて行った。
「扱いが凄い事になってるな。俺もルリ様って言わないと」
「……もう、カイトは意地悪です……」
少し拗ねたような声で言うルリが可愛らしくて、俺は少し笑ってしまった。
「おい、お前ら! どうでもいいけど、ルリを困らせるんじゃねーぞ!」
後ろを歩くガレイムが大声で言いながら、「しっしっ」と手で追い払うようにしていると冒険者たちが本来の場所に戻る様に散って行った。
「俺は様なんて言わねえからよ」
「……はい、そうしていただけると気が楽です」
ガレイムの言葉にルリはまた困った顔をしていた。
「まあ、でもアイツらの態度も分かるぜ。そこらのクソ神官とはレベルが違いすぎる。レノと同じ年で大したもんだよ」
石畳で舗装された道を歩いていると先に大岩が見えた。
後ろには森が広い範囲にわたって続いている。
ゲームだと岩を爆破すると洞窟の入り口が現れたりするんだけど、さすがに無いか。
「何かさ、あの大岩怪しく見えるのは俺だけ?」
「……わたしは怪しいとは感じませんけど……」
「普通じゃねえの? 岩なんてよ、そこら中にあるからな」
「そうなの? 俺がおかしいの?」
ルリは首を傾げるだけだし、ガレイムは何言ってんだコイツって目で見てくる。 この大岩、絶対怪しく見えるんだけどなぁ。
まあ、バロンから聞いた話もあるから怪しく見えるのかな。
大岩の目の前に到着すると、やっぱり何かありそうな感じするんだよなぁ。
「じゃあよ、早いとこやってくれよ」
「……カイト、頑張ってください」
まあ、頑張ってくださいって程の事じゃないんだけどね。
言われた通り、やってみますか。
「こうして、岩に手をつけて……『バロン』!」
岩に変化は起こっていない。
言われた通りのはずなんだけどなぁ。
「何も起きないね」
「やり方が悪いんじゃねえのか?」
「……どうやらこの大岩ではなく、こちらの森のほうみたいです」
ルリが指差す場所は、大岩の右側に見える森だった。
そこは空間が歪んだように見えている。
「この歪んでる部分から森に入れって事か」
「……そうみたいです」
「よし、なら行こうぜ! ちょっくら確認してくるわ」
ガレイムが勢いよく歪んだ空間に飛び込んだ。
「ちょっと、ガレイム! 仕方ないなぁ。ルリ、行こう!」
「……はい、少し嫌な予感がします」
ガレイムの後を追うように中に入ると、普通の森の中だった。
広場のような空間でとても明るい。
辺りには木々があるけど、それだけだった。
そこにはガレイムがいない。
「……カイト。ガレイムさんがいません」
ルリの声に反応するように、ガレイムの叫び声が遠くから聞こえてくるのだった。




