四十四話 そこまで出来てルリは必要なのかの
神様の嫌な感じの笑顔に、ひたすらお願いするしかない俺。
ただひたすら神頼みをするしかなかった。
「一つ気になる事があってな……我が手を出す訳にもいかぬのじゃ。分かるかの?」
「えーと、どうしてでしょうか?」
理由なんて分からないけど機嫌は損ねたくないな。
こういう時ほど自分がいかにちっぽけな存在なのか身に染みて分かる。
神様は人差し指を伸ばして言った。
「こう見えてもな、我な……い・そ・が・し・い・の・じゃ! いいか、色々やることあるのじゃ。こういう例外的な事象のフォローもせにゃならんのじゃ! カイトだけで三回目なのじゃ」
神様はビシッと音が出そうなくらいの勢いで、ちっこい指を俺に向けてくる。
でも、三回もあったっけ……ここに転移した事と、今回の事と……ああ、フォーレリアの記憶を見た時か。
「少々、気になることもある……結界が崩れる直前に、あの娘から異質なものを感じたのじゃ。何か分かったら我に伝えるように」
「異質ですか……」
やっぱりあの結界が一番だろうけど、それなら異質って言ったりしないか。
花と土の巨人と竜巻……重力で押し潰されそうになったやつは違うよなぁ。
ちょっと、すぐには分からないなぁ。
「あ、連絡はどうすればいいんですか?」
「連絡はルリに頼めばよかろう」
「ああ、そっか。ルリの持っている加護で連絡ができましたね」
神様は背を向けると、独り言のように呟いた。
「色々と面倒じゃが人間は面白い……魔法を忘れた人間が魔法に近い『固有魔術』を生み出した。魔術に組み込まれている制約を外すためにな」
そして、俺の方を振り返った。
神様は少し寂し気な表情をしている。
「魔法は、元々お前たち人間のためのものだったのじゃ。その愚かさが愛おしいとも憎いとも感じる時はある。そして、例外とは常にあるものなのじゃ」
一転して、また意地悪な顔を見せる。
嫌な予感がひしひしと伝わってくる。
「我は確認しておきたいのじゃ。カイトはどっち側なのか我に見せてみよ」
神様の目の前に炎が発現する。
これって……まさか。初めて神様に出会った時を思い出した。
「避けねば、死ぬやもしれぬぞ?」
炎が早い速度で飛んでくる。
俺はマナ・ボールを当てて即打ち消した。
嫌な予感がしていたから、マナ・ボールの準備をしておいてよかった。
「ちょっと、待って下さい! 今の当たったらヤバくないですか?」
「だから、死ぬやもと言ったのじゃ」
「そんな! ちょっ、うわああああ!」
無数の炎が神様の周囲に現れる。
それが一斉に俺に向かって飛んでくる。
とにかく数が凄いから、俺も負けじと大量のマナ・ボールで応戦する。
―――ドドドドドドドドン!
恐ろしい数の炎を全て撃ち落としているけど、全然終わらない。
「数がっ、多すぎないですかっ! 死んでしまいますっ!」
いつ終わるのかと思えるくらい数を撃ち落としているせいで気持ちが焦って来る。まさか魔力切れるまでコレだとまずい。
「ほう。あの時よりも、全然やるではないか。次、いくのじゃ」
炎と氷と風と土の塊が神様から飛んでくる。
風と土の塊がぶつかりあって、礫となって不規則に迫る。
そこに炎と氷の塊がぶつかり合い、水蒸気が大量に発生して周囲が見えなくなる。
「うわ、それはズルい!」
飛来する細かい土の礫を防ぎきれない。
かと言って、マナ・アブゾーブも間に合わない。
マナ・ボールで何とかならないか……そうだ、これを何個も目の前に重ねればいい。
―――マナ・ウォール!
即席で作ったマナ・ボールを並べた壁で土の礫をなんとか防いだ。
が、安心したも束の間、水蒸気がなくなるとルリとレノが少し離れた所に倒れていた。二人とも擦り傷だらけで汚れていた。
「人間は愚かなり。どちらかを選ぶのじゃ」
土の礫が未だに飛んで来る。
そこに神様はその二人に目がけて、巨大な燃えさかる隕石を撃ち落とす。
自然と視た結果、あの隕石は駄目なやつだ。
魔力濃度が判別できないくらい危険だ。
どちらか選ばないと間に合わない。
創ったばかりのマナ・ウォールに手一杯で、同じものを今すぐ作っても一人分しか限界だ。
どうすればいいんだ。
どちらかじゃない、どっちも助けたい!
自然と魔力が全身を覆っていた。
そうだ、これがあった。
足に魔力を込めて駆け出す。
レノを抱えると尋常じゃないほど重い。
魔力を込めているはずなのに異常な重さだった。
それでも、ほぼ一瞬でレノを抱えてルリの所まで移動する。
レノを寝かせて、ルリを抱えてみるけどやっぱり重かった。
これだと二人を抱えて移動は無理だ。
ルリとレノが二人で口を揃えて言った。
「「わたしを助けて、一緒に逃げて」」
いや違う、これは絶対に違う。ルリはそんな事は言わない。
先に自分を助けてなんて言ったりしない。
むしろレノを連れて逃げろくらい言うだろう。
恐らくレノだって、そんな事を言ったりする子じゃないと思う。
だからといってどちらか一人を見捨てるという選択肢はない。
巨大な隕石が近づくにつれて分かってきた。
これはマナ・ウォールでは防げない。
マナ・ボールじゃ飲まれて終わりだ。
逃げても広範囲に爆発が広がって全滅するだろう。
だったら、ここで破壊するしかない!
ありったけの魔力をマナ・ボールに集めて握ると槍状に伸ばす。
「マナ・ランス! 貫けぇぇぇ!」
隕石とマナ・ランスが衝突して異音が辺りに響く。
―――ギギギギギギィィィィィン!
激しい爆音が響き渡って、静寂が訪れる。
「はあっ、はあっ。もう、無理。勘弁してください」
今のでさすがに魔力をほぼ使い果たした。
神様の魔法が危険すぎてほとんどの行動にほぼ全力で魔力を注ぎ込みすぎた。
次からは、配分に気を付けないといけないな。
気付いたらルリもレノもいなくなっていた。
二人は本物じゃないのは分かっていたけど、間近で視ると判別ができないくらい見た目や雰囲気、魔力まで全部同じだった。
本当に神様は何から何まで何でもあり過ぎて疲れるよ。
パチパチと手を叩く音が聞こえた。
「ほぼ無理だと思ったのじゃが……我の見立てがよかったのか、見事だったのじゃ。人間は愚かでもあり聡くもある……か」
神様が両手を合わせて、パンと音を立てた。
すると、使い切ったはずの魔力が戻り、疲れが消えていった。
「我はどちらかを選べと選択を与えた。カイトはルリを助ければ良かろう。何故、二人を助けたのじゃ?」
「そんなの決まってます。後悔したくないからですよ。助けられる選択ができたのに見殺しにするのは一生後悔しますよ」
「じゃが、本物ではないと解っていたのじゃろ?」
「それが本物じゃないとしても『助けないと』って思ってしまったんですよ」
「あんなに死にたくないと喚いていた小僧がこんなに変わるものなのじゃな」
「あまり余計な事には関わりたくは無いですけど、頑張っているルリを見ていたら俺でも出来る範囲ならやろうかなって」
神様は金色に光る目で俺を視ている。
その目で視られると、どうしようもなく不安になる。
何もかもを強引に視られているような恐怖を感じる。
「ふむ。正直、|与えたはいいが不安でな《・・・・・・・・・・・》。試すような事をして悪かったのじゃ」
「ああ、ルリの事ですよね。べ、別に変な事はしていないですよ?」
「ん? 好きにせよと言ったはずじゃが? まあよい。加減したとはいえ、まさか我の魔法を全て相殺されるとは思わなかったのじゃ」
一息ついて、神様はこう言った。
「そこまで出来て、ルリは必要なのかの?」




