四十三話 どこと問われても答えられる場所ではないのじゃ
バロンさんが消えた後に聞こえた言葉……「子供達ならカイトが知っている」と。あの声を聞いた感じでは子供達に心配な事はないような感じでした。
カイトは無事なのでしょうか。バロンさんと何があったのか色々考えてしまいますけど、カイトに会わないと何も分かりません。
「行くぞ」
その声はオグ爺さんでした。
わたしは手を引かれて暗闇の中を移動しました。
岩の様にゴツゴツした手の感触……数えきれないくらい剣を振って出来た豆が何回も潰れてできた硬さなのでしょう。あの天を裂くような一撃は純粋に剣技によるものでした。魔力無しであのレベルまで攻撃を昇華できることに驚きました。
母様からいただいたこの力は、何よりも強いものです。でも、魔力抜きで考えた場合、わたし自身はどうでしょうか……。
母様から任された命を、カイトを守らなければわたしは……。
急に明るくなりました。
どうやら暗闇の中を抜けたようです。
振り返ると、まだ一部は暗闇のままのようでした。
「怪盗め。とんだ化け物だったな」
「……攻撃も全てわざと受けていました。それに最後に使ったのは……」
「魔法、というやつだろう。ルリが使ったものと同じな」
どうやらオグ爺さんは魔法について知っているようでした。
そして、ウォルフさんがキリリさんの手を引いて暗闇から出てきました。
「おーっし、抜けたぜ! おっ、オグ爺とルリもいるな」
「何なのよ、この闇は。中級にもブラインドって目くらましの魔術はあるけど、あれが可愛く見えるわ」
「さて、どうする? ここにいると、ハーシルドに捕まるが」
「そんなの決まってんだろ! レノの所にいくぜ!」
「そうね、早く行かないと。何だか、この暗闇には助けられた感じね」
「よし、行くぞ」
オグ爺さんの一声で、皆がうなずいて走り出しました。
カイトを探そうかとも思いましたけど、待ち合わせの場所も決めてあります。レノさんのいる場所に移動してから探そうと思い、わたしも一緒について行きました。
□□□□ カイト視点
「うわああああ……あれ?」
巨大な竜に「この、バカ者が!」って言われて意味も分からずに落ちていった。
だけど、止まった。
そんなに長い間、落ちていた訳じゃないけど助かった。
ずっと落下していたら、不安で気持ち悪くなるところだった。
『まーーーーた、お前かカイト』
「この声は、神様ですか!」
今回は頭にガンガン響くような声で酔いそうになる。
まあ、耐えられないほどではないのが救いだ。
『まーーーーったく、どうしてお前は例外的な事ばっかり起こすのじゃ。まあ、今回はカイトではなく、この結界を作った娘なのじゃが』
そういえば、レノの姿が見えない。
というよりも暗くて何も見えない。
「真っ暗で何も見えないんですけど」
『ルリに教わった魔術があるのじゃろ?』
「そうなんですけど、すぐ消えてしまうんですよね」
一瞬だけなら光るのに、持続しない魔術。
俺のだけどうしてすぐに消えるんだろう。
『いいから、やるのじゃ』
神様に言われて仕方なくルリから教わった詠唱を口にする。
あの時は、何度やっても魔術が発現しなかった。
まあ、一番簡単な魔術が使えないとなれば、どうしてもムキになるよね。
どうせ無理だからと諦め気味に軽く魔力を込めてみた。
「光よ集いて闇を照らせ、ライトボール!」
俺の中からスッと魔力が抜けていくのが分かる。
本当に微かすぎるから意識していないと気付けないくらいだ。
マナボールを出す時は、自分で制御して集めるから集中しないと難しいから全然違うんだよなぁ。
すると、大きな光の玉が目の前に浮かんだ。
まぶしいくらい明るいのに優しい光だった。
「おおおお、初めてまともに成功した! 神様! 見て下さいよ、コレ!」
初めて成功した魔術はルリに見てもらいたかったな。
とにかく嬉しくて舞い上がっている俺に神様ががっかりしたように言ってきた。
『ふむ? ちゃんと使えるではないか』
「いやぁ、自分でも……つかえ……」
目の前に巨大な竜の顔があった。
その巨大な存在だけで圧倒されるのに、全てを射抜き見透かすような金色の目が……怖い。
何故か息苦しさを感じた。
そう、自分で呼吸をするのを忘れていたんだ。
気付いて慌てて息を吸い込んだせいで咽てしまった。
「ゴホッ、ゴホゴホ! な……」
辛うじて片手で自分を守ろうとした。
どうしてあの竜がここにいるんだ。
まさか、食べるために追いかけて来たのか。
『何じゃ、急にどうした?』
辛うじて指先を伸ばして目の前を指す。
『我……?』
おそらく首をかしげるような動作をしているんだろうけど、顔が巨大すぎて覗き込まれているようで恐怖しかない。
『おっ、この姿か!』
金色の光が強くなると、そこには神様がいた。
相変わらずのちっこい姿で安心する。
恐がられて話ができないって、この事だったのか。
初見であんな巨大な姿で話しかけられたら絶対に腰を抜かすよね。
『すまんな。我も急いで来たから許せ』
「びっくりしましたよ。何で竜の姿だったんですか」
『我は元々竜だったからの。昔は六大古竜だったのじゃが……今となっては世界を守護する四大古竜となってしまったの。ま、それはそれとしてじゃ』
「え? それって残りの二匹の古竜はどこに行ったんですか?」
『まったく面倒くさい奴じゃのう。じゃあ、ちょっとだけじゃぞ。一つは封印され、一つはこの世にはおらぬ』
「この世におらぬってほうは、神様の事ですよね」
これだけ大きな竜の姿をしていたから、さすがの俺でも分かった。
そうすると、封印されたほうは闇竜ダナグアスってことか。
『ほう……そこまで阿呆ではないか。やはり、この我の威厳のある竜の姿を見たらそう思うよな。あーはっはっは!』
仰け反りながら、神様は高笑いしている。
どこぞの悪党なのかと思うくらい、勢いだけはいいな。
『って、そんな話をするために、ここいる訳ではないのじゃ!』
一人でボケツッコミをしていた神様の声が頭に直接響きすぎて、思っていたよりきつい。
「さっきから直接声が響くんですけど、どうにかなりませんか?」
「おお、すまぬな。声が強すぎたか。普通に話すとするのじゃ」
「あの声って魔法なんですか?」
「魔法ではない。あれは念話と言ってなスキルのようなものじゃ。これの便利な所は相手に合わせて言葉を変換してくれるところじゃな。我クラスになると魔力操作で変換させてしまうのじゃ」
「へぇー。凄いですね、さすが神様!」
「そうであろう! ついでに、これを行動阻害にも応用できるのじゃ。カイトも似たような事を赤い猛牛ちゃんにやっておったじゃろう」
煽てるとすぐドヤ顔になる神様が少し可愛く見えてきた。これを言ったら調子に乗りそうだからやめておく。
「マナ・ボールを重ねるやつですよね。あれも確かに直接響く感じですね」
「そうなのじゃ。それも例外的と言って良い。今回のコレもな」
そう言うと何も無い空間を指さした。
「まーーーーったく、どうしてこうもおもしろ……コホン! 面倒な事ばかりしよるのじゃ! まーーーーったく腹が立つ!」
神様は腕を組んでそっぽを向いた。
「して、何故あの娘を助けたのじゃ?」
「いや、だってあんな小高い丘みたいな所から倒れたら怪我するんじゃないかと思うじゃないですか」
「……そうか。運がよかったの。助けておらんかったら、カイトはあの空間の中で永遠に彷徨う事になっていたのじゃ」
「え……? どうしてですか?」
「当たり前じゃろ。あの娘の魔法は四大古竜の『世界を守護する結界』とは本質が異なるものじゃ。アレは自身を魔力に見立て、強引に結界を作っておるのじゃ」
「でも、そんな事したら危なくないですか?」
「危ないに決まっておる。だから我が来たのじゃ。うーむ、しかしよく考えておるのじゃ……最小の魔力で範囲を限定し、自身の内側に取り込む事で限定した結界を創造する……これには驚かされたのじゃ」
「あまり魔力を使わずに、結界ができるんですね」
「さっきも言ったじゃろ。これはあくまで例外的なやり方じゃ。我でもこの結界を真似しようと思ってもできないのじゃ。それに結界の弱々しさを見たであろう? あの娘の状態では、結界の安定性に欠けてしまうのじゃ。そして、その結果どうなったのかカイトも分かるであろう」
確かに結界内の魔力は満ち溢れているようだった。
その反面、結界自体は脆いように見えた。
俺はそのおかげで少し余裕があった。
逃げないといけなくなった場合、最悪は結界を破壊しようと思っていたからね。
「それが原因で問題が起きて神様が来たって事ですよね。そうなるとここはレノの中って事なんですか?」
「違うのじゃ。あの娘が魔力を使い切ったおかげで、結界が崩壊して本来戻るべき場所ではなく、ここに飛ばされたのじゃ」
「それって……それじゃ、ここはどこなんですか?」
「どこと問われても答えられる場所ではないのじゃ。あえて言うならば……時の狭間というべきか」
「それって、さっきまでルリ達がいた世界とは、まったく違う場所にいるって事ですか?」
「その通りじゃ。中々鋭いのう。元にいた場所の時間から外れた場所と思えばよい。ま、カイトが自力で戻るのは無理じゃろうな」
このまま戻れないとか、時の狭間で永遠に過ごすのはさすがに御免だ。
「神様! お願いします! 元の場所に戻してください!」
「どうしようかのう」
神様はニヤリと笑って、いじわるな笑顔を俺に向けるのだった。




