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異世界転移のお詫びに嫁をもらいました ~スキルか嫁か決断するためにおっさんは神との約束の地へ向かう~  作者: うららぎ
初めての町

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三十七話 ここは私だけの世界



 どこかの野原……いや、花壇にでもいるようだった。

 それくらい白い花が見渡す限り咲いていた。

 確かに階段を上って二階にいたはずだ。

 それなのに、どう考えてもここは外にしか見えない。


 そして、目の前の小高い丘に少女が立っていた。

 不快そうな顔をして、俺の方を見ている。


「不思議そうな顔をして、どうしたのですか?」


 二階がこんな場所だったら不思議そうな顔にもなるだろう。

 少女は灰色のカーディガンに質素な白いワンピースを着ている。

 整った目鼻立ちに、腰まである長く美しい白い髪。

 顔の血色が良くないのか、少し青白く病的な印象を受けた。


 真っ直ぐ見つめてくる、意志の強い瞳。

 身内補正で持ち上げていたのかと思っていたけど、確かに凄く可愛い。

 顔色の悪さがあってもこれって……、健康だったらどんな表情をするのだろうか。


 そういえば、と、辺りを見渡すとガレイムがいなかった。


「そりゃ不思議そうな顔にもなるよ、確かここは二階だった。ガレイムもどこいったのかな。君のお兄さんだよね?」


「ふぅ……質問の多い怪盗ですね。そうやってまた隙を伺うつもりですか?」


「隙って、俺は君に会うのは初めてなんだけど」


(らち)()きませんね。分かりました、質問にお答えします」


 答えないと思ったんだけど答えてくれるんだ。

 律儀というか真面目と言うか……。


 しっかりしていて真面目なんだけど、優し気な感じ……。

 確かに似ている……雰囲気がルリに似ているんだ。

 ウォルフもそんな事言っていたよね。


 厳しい目はこちらに向けつつも、警戒はしているようだ。


「あなたの言う通り二階です。私が罠を張っていたところに、怪盗さんが引っかかったという事です。兄様(にいさま)はいませんよ」


「いや、俺は怪盗じゃないよ。罠ってこの場所の事だよね。どこかに移動したってこと?」


「怪盗ではない? ……まあいいでしょう。ここは、結界の中です。私の『固有魔術(こゆうまじゅつ)』によって作られたものです」


 固有魔術か……魔法という単語の代わりに、この時代では通っているとルリは言っていた。つまり、固有魔術とは魔法という話になる。


 この小さな少女が魔法を使えるのか?

 いや、でも実際この周囲の変わり様は魔法にしか見えない。


「その固有魔術は難易度が高いって聞いたことがあるんだけど……」


「私のような小娘に使えるはずがない。と、そう言いたいのですね。ベッドで寝ているだけのこの私がこうして立っているのが不思議ですか?」


「絶対安静だってガレイムが言っていっていたからね。嘘をついているとも思えない。だから、レノが立っているという事……それに家の二階がこんな花の広場になってしまった原因は、固有魔術にあるってことだよね」


「怪盗さんは理解が早いですね。兄様に化けて私を連れ去ろうとした卑怯者はここで終わるのです。さあ、諦めてここで大人しく捕まりなさい」


 レノが大振りに腕を振ると、俺の周りにある花が一斉に伸びてくる。

 魔力の流れを()ていた俺はすぐに避けることが出来た。


 避けた場所は花で出来た檻になっていた。

 見た目は大したことなさそうな檻だけど、これは強い魔力がこもっている。

 捕まったら……面倒かな。


「待った待った! 俺を捕まえたところで何にもならないよ! もっと大変な事になっているんだよ」


「ええ、大変な事になっているのは分かっています! あなたのような卑劣な怪盗が人をさらう事です!」


「ちょっと、待って! 話を、聞いて!」


 次々と襲い掛かって来る花を避けながら、何とか会話を繋ごうとするけどまったく相手にしてくれない。


「次は誰に化けるつもりですか? ウォルフ(にい)ですか? キリリ(ねえ)ですか? もう怪盗の言葉は聞きません!」


「化けるつもり? まさか、だからここには俺と君しかいないのか!」


 もう俺の話は聞くつもりはないと、目を閉じた。

 そして、誰に聞かせる訳でもなく話してくる。


「卑怯な怪盗さん。あなたレベルの人ならば、分かるはずです。ここがどういう場所なのか。古竜は……世界を守護する時に結界を張るそうです。それがどのような意味なのか最近まで分かりませんでした。でも、今なら分かります。その強すぎる力故に、世界を破壊しかねないからです」


 レノは祈りを捧げるように両手を組み、なおも話し続ける。

 ルリと……いや、どちらかといえばフォーレリアと姿が重なる。

 病的でも端正な美しい顔に、さざ波の一つ無い水面ような透明な雰囲気。

 それに加えて決意とも取れるような強烈な意志を感じる。


「ここは私だけの世界。この結界では全てが私の自由。大人しく捕まりなさい、怪盗バロン!」


 レノの口から詠唱と思える(・・・・・・)声が結界の中で反響する。

 そう感じた理由は詠唱のはずなのに、一定のテンポとそれに乗るような声の抑揚(よくよう)


 レノの詠唱はこの場所に変化を与えていた。



 ―――ああ、私は語り かける 美しい花たちに

 ―――花は 応えてくれる 誇らしげに 天を目指して



 これは歌なのか!?

 同じ言葉を繰り返し歌っている。


 嫌な予感がして魔眼で確認すると、やっぱりそうだ。

 辺り一面の花に魔力が帯びている。


 俺が認識した瞬間に、四方八方から花が伸びて来て襲い掛かって来た。


「うわっ! 花を操っているんだ! しかも何て数なんだ、これ!」


 花の茎が足に絡まっていてまったく動かない。

 そこから次々と周囲の花が俺を絡め取ろうと次々に迫って来る。


「全部撃ち落とすしかないか!」


 俺はマナボールを大量に作り出して、迫って来る花を全て撃ち落とした。花に当たる度に弾けるように散っていく。

 足に絡まった茎も簡単に撃ち消すことができた。


「おお! 簡単に撃ち落とせた!」


 大して狙いを定めていないのに、正確に花を全部撃ち落とせた。

 百を超えるマナボールを適当に出す時も反射的に出せるし、ほぼ負担もない。一体どうなっているんだろう。


 レノは表情を変えずに詠唱を続ける。

 閉じたままの目が少し開いて動きが止まっていたのは、動揺しているからなんだろう。



 ―――さあ、今から目覚めたまえ 土に眠る 巨人たち

 ―――起き 上がるならば 大地を踏みしめて 歩け 



 詠唱の内容が変わっている。

 切り替わる違和感もなく、耳に心地よい詠唱が続く。

 違和感がなさすぎて、詠唱の内容を聞き逃しそうだった。


「まさか、この詠唱の内容って……、うわあっ!」


 何かに足をつかまれて、俺は空中に立っている(・・・・・)

 目の前にも二体が地中から巨大な土の塊が起き上がってきていた。


 ゴーレムってやつだよね、これ。

 こんな状況ではあるけど、集まった巨大な土の塊が動くのは迫力がある。高さも成人の四人分くらいの高さがあって、がっしりした体型をしている。


「って事は、足をつかんでいるのも……ですよねぇ!!」


 俺の下からも土の巨人(ゴーレム)が起き上がってきたようだった。

 足をつかまれているので、宙ぶらりんになっている。


 空いてる片足で、つかんでいる手を蹴っても岩を蹴っているみたいな硬さだ。


「手を離しては……くれないよね」


 二体の土の巨人も俺の近くまで来たと思ったら、右腕と左腕をそれぞれつかまれて動けない。十字架にはりつけになった気分だ。


 足も腕も動けないけど、不思議と何も恐怖を俺は感じていなかった。

 普通だったら絶対に動揺しているはずなのに。


 理由はある。この結界だ。


 結界は魔力に満ちている。

 それはレノの魔力だ。


 俺は結界を()ていたから分かっていた。

 最初から張りぼてのような弱々しい結界のほころびが()えていた。

 もちろん、いきなり周囲が変化したのは驚いたけど。


 土の巨人もそうだ。普通だったら力強いのだろう。

 けれど結界のほころび同様に、土の巨人も俺にはどこか弱く()えてしまっている。


「離してくれないなら、外すよ」


 魔力をつかまれている個所に集中する。

 あの時、ルリは自分の手よりも大きな石を容易(たやす)く砕いていた。

 普通に魔力を込めたところで力は分散されてしまう。


 砕くにはちょっとしたコツがあるんだけど、中々難しいんだよね。


 俺は魔力を両手両足に込めると、つかまれた腕と足を振りほどいた。

 レノはその様子を見て今度こそ驚いていた。


「え、嘘っ!? 土の巨人(ゴーレム)の力が怪盗に外せるはずが……」


「レノは、左胸の下のほうに違和感あったりする?」


 レノを魔眼で()ていたけど、魔力の流れがおかしい。

 この流れは深く()ないと気付かないものなんだけど……どういう訳だか今は普通に見える。


 伝えた内容の通り、どうも左胸の下の部分の流れが止まっているように見える。


「どっ、どどどど、どこを見ているのですか! そこの怪盗を捕らえなさい、土の巨人(ゴーレム)!」


 胸元を隠すとレノは土の巨人に命令する。

 青白い顔が茹で蛸(ゆでだこ)みたいに真っ赤になっていた。


 どこを見ているだって?

 少し上を見ると、膨らみの大きめな胸があった。

 そういう事だったのか!


「いやいや、それは誤解だって!」


 見たのは胸じゃないんだけどなぁ。


 土の巨人の迫る手を逆手に取って、レノへ向けて三体とも放り投げる。

 見た目より全然軽かったけど、やっぱり俺が魔力で強化したからなのか。


 レノの手前で見えない壁に当たって三体の巨人は重なるように落ちる。

 大きな音を立てて重なっている土の巨人は、砂になって消えていく。


 まだ慣れないけど、意識しないで魔力を込めるのもできそうだ。


 それにしても、思った通りだ。

 レノを守るような壁(・・・・・・・・・)があった。

 過去の海竜が詠唱の時に張った結界と同じなのかな。


 これも結界っていうのか分からないけど。


「そんな……どうなっているの!? 騙すための幻覚?」


 レノは慌てて詠唱を続けている。



 ―――この、ままでは止まら ないさ 激しい風の嵐

 ―――避け られるはずはないさと 全てを巻き上げて踊れ



 さっきから、何か軋むような音がしている。

 気のせいかと思ったんだけど、かすかに聴こえる嫌な音。

 硬い何かが曲がるような嫌な音だ。


「ちょっと、待って! 何かこの場所全体が変だ!」


 声が耳に届いているはずなのに、レノは俺を無視して詠唱を続けている。


 緩やかな風が全身を撫でて吹き抜ける。

 ()れば竜巻が目の前にあった。


 ここは……竜巻の中心か!


 内側はほぼ風はないけど、この外側に触れたら……。

 真上は何もないけど、竜巻は巨大なのが見てとれる。

 渦は少しずつ内側に迫ってきていた。


 俺は()た。

 竜巻からは、いくつかの魔力が右回りに下から吹き上げるように回っている。この魔力が竜巻を動かしているんだろう。

 下から真っ直ぐ伸びているリボンのような長い魔力がある。


 そして分かった。

 手と腕に魔力を込める。

 俺の手の魔力と竜巻の下から伸びている魔力を見比べる。


 どう見比べても俺の魔力が強い。


「これで、どうだっ!!」


 手を伸ばして、竜巻の下から伸びる魔力をつかみ取った。

 ギィィィと手に込めた魔力と竜巻の魔力が反発しあって、手放しそうになってしまう。思った以上に竜巻の魔力が重い。


 ここで手放すのはヤバいと思った俺は、つかんだ魔力をそのまま引っこ抜いた。


「うりゃあああっ!」



 ―――ギギギィィィ―――バチッッッ!



 耳につんざく音が鳴り止むと、竜巻が消えた。

 あんなに巨大な竜巻が一瞬でなくなっていた。


「ふぅ。さすがに無理やりすぎたか。でも、間違いじゃなかった」


 音が気になったのか、レノは俺のほうを見ていた。


「何なの……あの竜巻を手で、なんてありえない。ならば、これで観念(かんねん)してもらいます!」


 レノの身振り手振りが大きくなり、それは踊りの様な流れる動きに変わった。

 そこから更に詠唱が始まった。



 ―――夢と、思うはずはないさ ここは月の世界

 ―――優しいはずの 柔らかな光さえも ただの苦しみに変えてしまう



 辺りの風景から緑が消えて、真夜中のように明かりが消える。

 乾いた土だけが残り、大きな月が現れた。

 黄金色(こがねいろ)の優しい光が闇を照らすように輝いていた。


 月の明かりというか、何だろうもっと明るい感じだなぁ。

 雲か隠れて中央あたりが陰になっていた。


「今度は何だ。月が出てきて殺風景になったなぁ」


 何もなくなって、レノを見上げると明らかに顔色が悪くなっていた。


「はぁはぁ……これで……動けないでしょう。もう……諦めなさい!」


 動けないと言われて確認すると、動けた。

 特に何も感じないけど、若干体が重いかなってくらいか。

 荷物を入れたリュックを背負っているような感じだけど、これくらいなら全然問題ない。


「普通に動けるけど、何かあるのこれ?」


 足元を見ると両足が地面に少しだけ沈んでいた。

 足踏みしてみると、ずしっと沈む感覚が足に伝わってくる。


 これは、重力か。

 ここだけ相当強い重力にしているってことか。

 土自体は固いけど、重みで沈んでいるのが分かった。


「そんな……何も感じないの?」


「ちょっと体が重く感じるくらいかな」


 不思議そうにレノが見てくるから、軽く跳んでみせる。

 やっぱり多少引っ張られる感はあるけど、動きにまったく支障はない。


「な、何なの……そんなのおかしい!」


 振り絞るように声を高らかに上げて、詠唱を続けるレノ。

 見れば顔面蒼白で額から汗が流れている。


 ―――雲に、隠れて しまいそうになるとは 思えないくらいの

 ―――影と闇を()()う 竜……


 詠唱の声が小さくなって何を言ってるのか聞こえない。


「待って! そんな真っ青な顔でやめた方が……」


 俺はレノを止めようと動いた。

 沼の上を走る様に身体全体が急激に重くなるけど、関係ない。


 一歩一歩がもどかしい。

 俺は魔力をもっと強く全身に集めて、小高い丘を駆けていく。


「レノ! もうやめるんだ!」


 怒鳴るように叫ぶと、レノがゆっくりと倒れていく。

 スローモーションのようにゆっくり倒れる姿が見える。


 もっと強く、魔力を足に集めて駆ける。

 足元からボコッとへこむような音を立てて加速していく。


「っと、間に合った!」


 レノが倒れる寸前に小さな身体を抱きとめた。

 荒い呼吸が音がレノの口から()れる。


 ルリと同じくらい小さい。

 こんな華奢な身体なのに、あんなに凄い魔術を使っていたのか。



 ―――ミシミシ……ガガガガガッ……



 また、あの嫌な音が聞こえた。

 一瞬、全部が真っ暗になったと思ったら、明るさが戻って来た


 頭を上げて月を見た。

 月がゆっくりと闇に覆われて消えると、再び月が光を取り戻すように闇が消える。


 そう。月だと思っていたものは巨大な目だった。


 音はどうやらこの巨大な目が動いた音だったようだ。

 何かを砕くような音を立てながら、片腕と思われる巨大すぎる金色の鱗。

 腕の先についた白銀の鉤爪が、重い音を立てて大地に爪を立てた。


 惑星サイズの金色の竜がそこ(・・)にいた。



『この、バッカ者!』



 頭に直接殴り付けるような声が響くと、真っ暗になった。

 何も見えなくなって、ふと足元の感覚が消えた。


「あれ、これって落ちてる? うわああああ、助けてぇーー!」


 真っ暗闇の中、俺の声だけが最後まで聞こえていた。



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