三十四話 我が名は怪盗バロン。この世界を憂う義賊というヤツだ
だいぶ遅れてしまいました。すみませんでした。
こ、この人が戦闘狂とウォルフが言っていたガレイムさん!?
こんな牢屋にいたら死んでしまう、いや絶対に死ぬ。
「あ、あのー。ガレイムさんは、どうして牢屋に?」
「さんとかいらねえよ。ガレイムでいいぜ。牢屋にいる理由なぁ……まあ、言ってもいいのかな」
「そんなにヤバそうな話だったらいいんです、はい」
「いや、別にもう終わった話だからいいんだけどよ。ところで、何でおっさんはビクビクしているんだ?」
「そ、そうかな? ちょっとここが寒いからかなぁー?」
俺は普通にビビっていた。
だって戦闘狂なんてロクなやつじゃなさそうだし。
でも、こうして話をしている感じは普通っぽいんだよなぁ。
「地下牢だしな、しばらくしたら慣れるさ。理由だったよな、そうだな……暇だしおっさん関係ないし、話すか」
「別に無理に話さなくてもいいんだよ?」
「いや、何か話したくなってきた。俺達はハメられた……そうじゃないな、あれは最初から仕組まれたとしか思えねぇ」
「は、はぁ……」
あまり聞きたくなかったんだけど、ガレイムは勝手に語り出してしまった。何でこうなるんだと思いながら、とりあえず聞くしかなかった。
「冒険者ギルドのな、試験があったんだよ。まとまった金が必要だったからよ、S級の試験を受けたんだ」
あれ、ウォルフはガレイムはC級とか言ってたよね。
S級の試験だと随分とランクが違う気がするんだけど。
「一応、聞きたいんだけど、S級の前ってA級だよね?」
「んぁ? 当たり前だろ。そんでだ、その試験の依頼が『火竜の鱗』の奪還だったんだよ」
「それって国宝だったよね。盗まれたって事?」
火竜の鱗って、フォーレリアの過去の記憶で見たやつだ。
ファーレン王国の国王が国宝にするとか言っていた物だよね。
そんな事したら大変な事になるんじゃないのかな。
「まあ、そういうことだ。盗まれたから取り返せって話だったんだよ。ところが、実際に現場に行ってみたら……いたんだよ、実際に盗賊がな」
「そういうの話しちゃっても大丈夫なの?」
「ダメに決まってるだろ。でも、おっさんは全然関係ないだろうし、俺の話なんて真に受けたりしないだろ。だったら問題ないよな?」
そういう問題なのだろうかと思いながら、思わず俺は頷いた。
これは「お、おう……」としか返せない。
何だろう、妙に圧力というか変な感じがするなぁ。
「それでさ、その盗賊がクソ強くてな。男は変な魔導具を使って目くらましをしてくるわ、女のほうはウォルフが押されるくらいの怪力でよ」
あのウォルフが押されるって、どんな怪力女なんだ。
ゴリラでもウォルフに素手で勝てるか分からないよ。
この世界って化け物しかいない……のかなぁ。
「それで失敗したって事?」
「いや、火竜の鱗は取り返せた。キリリの魔術のおかげでなんとかな。それで町に戻る途中で、ファーレン王国の青の騎士団の連中に捕まったんだよ」
「ギルドの依頼だったんじゃなかったの?」
「そう伝えたんだけどな。俺達が盗んだって事になっていたんだよ、相手も盾の印が付いているし本物だった。そのままギルドに連れて行かれて、あのギルドマスター代理のバルムが『こちらで処罰をするのでよろしいですね』とか言いやがってよ」
「よろしいですねって、おかしくない?」
火竜の鱗はファーレン王国の国宝だ。
だから、王国側からギルドに依頼をしたのかと思ったんだけど、これだとギルド側は別から依頼を受けたことになるよね。
ギルドが依頼した任務なのに、ギルドの冒険者を切り捨てるようなやり方はどうなんだろう。
元の依頼自体が良くないものだったのかな。
だとしても、そんな依頼を扱うものなのかなぁ。
「そうだよな、おかしいよな。ウォルフもキリリも納得できなくて大変だったらしいけどな。けど、俺は特に暴れに暴れたもんだからよ。C級に降格されたって訳な」
「それは、大変だったんだねぇ」
「まあな。ただ、途中から熱くなってきてよ、楽しくなって暴れ過ぎたのは悪かったな! それで、俺だけ牢屋入りって訳よ」
「ま、まあそれは、自業自得かも?」
「そうかもしれねえ。それでな、どうしてこんな話をしたかって思うだろ?」
知らない間に少しガレイムとの距離が詰まった気がした。気のせいか、逃がさないような雰囲気っていうのかな、そんな空気を感じる。
「え、ええ、まあ……話たがりなのかなと」
「一人で寂しかったからな……って、そんな事じゃねえ! いいか、俺には妹がいるんだ。そりゃもう目に入れても痛くないくらいのな! 自分で言うのも何だが、天使のような可愛さなんだよ……」
と、ガレイムは妹の事を延々と語っている。
可愛いのは分かったけど、いい加減に飽きてきたよ。
「妹が可愛いのは分かったけどさ、それがどうかしたの?」
「それがどうかしたの? だとぉ!?」
ちょっと尋常じゃないガレイムの表情を見て、怯えた俺は諦めて言い直すことにした。こ、怖いし、話が進まないし、どうすればいいの。妹の事ばかりで……そうか、そういう事か!
「えっと、天使のような可愛い妹がどうかしたの?」
「そうなんだよ、そうだよ! 俺の可愛い可愛い妹のレノがな、例の怪盗に狙われたんだ! 俺がそばにいてやりたかったけど、生憎とこんな場所で何もしてやれなかった」
ガレイムは睨んでくるけど、俺が何かやりました?
会ったのも今が初めてなのに、よく分からない圧がかかってくる。
俺が妹だとして、こんな兄が居たら少し鬱陶しく感じるかもなぁ。
「妹が大事なのは分かるけど、そんなに心配していると嫌がられたりするんじゃないの?」
「うっ!! おっさん、よく分かったな! 最近、反抗期なのか何かと文句言われるんだよ。兄は悲しいぞ!」
「話を聞いたら、誰だって同じ事を言うと思うよ……」
ガクッとうなだれてしまうガレイムだけど、そのまま話を続ける。
「とりあえず、それは置いておく! 怪盗がレノをさらおうとしたけど、それは無理だった。何故なら、レノは大・大・大魔術使いだからだ!!」
急に起き上がって、謎の天を仰ぐポーズを決めるガレイム。
……何だかレノって子が少し不憫になってきたんだけど、本当に妹の事になると駄目だね。戦闘狂とか言われているみたいだけど、単にシスコンってやつか。
「それなのに、怪盗はレノから逃げ切った! あの大魔術使いのレノからな! そのおかげでレノは体調を崩して絶不調なんだよ。そんなことをやらかした、怪盗の『おっさん』を許せるか? いいや、絶対に許せねえ!!」
天を仰ぐような態勢から一転、突然の手刀で俺の喉元を狙って突いてきた。
本当だったら当たっているんだろうけど、分かっていたから、身を翻して避けた。
俺の背後にある牢の鉄格子を掴んだままガレイムは驚いた顔をしていた。
当てられなかったのが悔しいのか、握り締めた鉄格子からガタガタと音が聞こえる。
一回、衛兵の不意打ちを食らっているからね。
何か変な感じだったし、そこまで分かっていて今の攻撃を受けていたらさすがに間抜け過ぎる。
「おい、おっさん! お前が『怪盗』だったんだな? どおりで変な魔力だと思ったんだ。こいつのはおかしいって、俺の直感が言ってるんだよ!」
「ままま、待ってよ! 変な魔力って何? 話を聞いて!」
「怪盗の話を黙って聞けか! 覚悟しろよ!」
ガレイムが鉄格子から手を離した時、外側からその手を掴む者がいた。
「ふむ。いけないね。これは、間に合ったというべきかな?」
何の特徴もない、四十くらいの『おっさん』と呼ばれる人物がそこにいた。その人は少し笑いながら俺を見ていた。
「なるほど。これは勘違いする訳だ」
目を細めた姿は獲物を狙うかのような迫力があった。
その姿はただのおっさんだとか、とんでもない。
この人はたぶん……。
「誰だ! おい、手を離せよ! こいつもおっさんかよ!」
「たぶん、君が想像している通りだよ。私が『怪盗』と呼ばれているおっさんさ」
不敵な笑みを浮かべているけど、顔が何の特徴もないおっさんだったのであまり迫力はなかったけど……俺は魔眼で視てしまった。
あのルリを超えるくらい濃い魔力を持っている。
「我が名は怪盗バロン。この世界を憂う義賊というヤツだ」




