二十九話 ギルドもそうだけど、最近は変なことが多いわね
□□□□ ウォルフ視点
見張りと言っても見知った地形だ。
町だってあと半日かからない程度の距離だろう。
一応、気配は探っているが変なものは感じねえ。
キリリのやつもマナサーチを使っているし、問題はないだろう。
幼馴染で腐れ縁ってやつだが、キリリは身体は強いほうじゃないが魔力はギルド内でも一番らしい。魔力が分からねえ俺にはそこがもどかしいところだ。
昔に比べたら、灰色の髪も短くしたおかげでさっぱりして、贔屓無しにしても顔も綺麗だしな。出るものが出てきて女らしい体つきになったおかげで目線に困るときがあるんだが、この紫色のローブのおかげで助かっている。
「ウォルフさ。何でそんなにイライラしているの。あのカイトっておっさんの事?」
「ああ、そうだよ。何だよアレ。ワケわかんねえ」
「神官戦士だとしても、ウォルフのあの攻撃受けて少し赤くなる程度とか考えにくいわ。あいつらは確かに強いけど、どちらかといえば攻撃のほうだし」
「俺が死にかけだったせいかとも思った。だけどよ、ルリに回復してもらったおかげでマシな状態だったんだよ。そこまでいつもと大きな違いはねぇ。殴った瞬間、『やべぇ、やっちまった!』って思った。だから確実に殺したもんだと思ったんだが、それがなぁ……」
「あれだけ木をなぎ倒しておいて、気にしているのは服のほうだった……ね」
「それも気に食わねえんだ! 平然と俺の拳を流しやがった」
「流しって、どういうこと?」
「確か武術とかいうのだったか。相手の攻撃を『流す』とか『いなす』って防御の方法があるんだ。一度だけ見た事があるけど、そりゃすげえんだ。当たってるのに当たってねえんだよ」
「ちょっと、言ってる事がよく分からなくなってきたけど、要は当たった攻撃をどこかに外すのが流すってことでいいの?」
「ああ。そんで、武術とは違う気がするんだよな。自分で言っておいて何だが」
「じゃあ、何なのよ?」
「それが分からねえからイラついてるんだよ。しかも、弱そうな『気』しか感じねえのにアレだよ。くそっ!」
俺が相手のレベルを見誤ったのが、特に苛立ちを感じていた。
もし、あのおっさんが敵だったらどうなっている?
キリリもハースさん達も確実に生きてはいないだろう。
相手の力量を出会った時に見極められない事は、死につながる事がある。別に油断をしていた訳でもねえ。おっさんには何も感じなかった。だから、そこらにいるおっさんレベルだと思っていた。
ところがどうだ、俺の全力を『痛い』だって?
一度は盗賊ごときに殺されかけたのにもかかわらず、助けに来た相手だからといって油断したのか……いや、そうじゃねえ。
単純に見抜けなかった。ただそれだけだ。
今回はそれで問題ないかったが、また次同じ事があったら……。
最前線で戦うこの俺がこんなんじゃ、皆を守れねえ。そんなの冗談にも程があるぜ。
そう考えると、苛立つ気持ちが抑えられなくなってくる……俺自身に対して。
「まー、あたしは『気』とかそういうの分からないからウォルフに任せるけどさ。魔術使いに例えると『魔力』みたいなモノなんでしょ?」
「そうだな。けど、気と魔力は別物だからな。俺も正確には良く分かっていないんだがよ、気は身体の鍛錬でより強まりやすくなる。もちろん、鍛錬をしなくても気は一定量は必ずある。魔力とは違ってな。面倒なのが気の感じ方が人によって違う事だな。これのおかげで割と混乱しがちだがな」
「あたしにも気はあるってことでしょ。まったく感じてこないのよね。魔力だったら感じるんだけど」
「そこはアレだ。気と魔力はどちらかしか取れないっていうやつじゃねえか?」
「基本だって最初に聞くやつよね。何かそれもちょっと矛盾を感じるんだけどね。でも、魔力ならルリはとんでもないレベルね。アレで大司祭じゃないって、ちょっと信じられないわ」
「魔力の事は、良く分からねえけどよ。ただ、一つ言えるのが大司祭が奉っている『闇竜』が胡散臭いってのが本音だな」
「それは同じ意見だわ。あいつら、神官戦士を含めて急に強くなった感じがするのよね」
「俺ほどじゃ、ねえけどな!」
「あんたより強かったら手に負えないわよ」
最近は特におかしな事が多すぎる。
おっさんがグレイウルフなんかにビビっていたのも気になる。
アレは演技でもなく、マジでビビっていた。
それにキリリが言ってた神官戦士が強くなった話もそうだ。
そして、もっとおかしいのが冒険者ギルドだ。
どの依頼に対しても失敗が多くなっているのが気になる。
それにギルド長が不調だからってそのギルド長代理として来たバルム。
茶髪に白髪交じりの長身の男だ。ま、俺よりは低いがな。
だが、その眼光は鋭い。ひ弱な奴はビビって腰を抜かすだろう。
六十くらいのじいさんだが、こいつは内に隠しきれない『気』を持っている。
抑えきれていないのかわざとなのか知らねえが、ダダ漏れなんだよ。
S級にも色々いるが滅多にお目にかかれない実力者なのが分かる。
こんな実力者ならばと、どこから来たのか気になるってもんだ。
色々調べてみたがまったく分からなかった。
そう考えるとバルムもS級ってことになる。
S級ともなると身元が明かされないような保護があるから、簡単には調べる事ができないようになっている。難易度の高い依頼をこなしているから、奴らの持っている情報の質だって高い。考えられないような報酬を得ていると考えれば、あえて狙ってくる輩も出てくる。
だが、それでもS級は伊達じゃない。簡単にどうにかできる相手じゃない。返り討ちにあうのが関の山だ。
次にバルムの右腕であるハーシルドだ。
金髪で身体がヒョロっとしたガキだが、生意気にS級という実力者だ。背丈はキリリより少し高いくらいだ。一見弱そうなんだが強さを測れなかった。
どう考えても弱そうには見えるんだが、あのおっさんみたいなタイプだな。
だからこそイラつく。実力を隠して陰で笑っている奴だ……気に食わねえ。
奴はバルムを崇拝しているように見える。
それはいいとしても、『ボク』という話し方がもう一人のS級のレルグルとかぶってややこしい。どっちも性格がねちっこいから、俺は苦手な相手だ。
「ギルドもそうだけど、最近は変なことが多いわね……」
「俺もそれを考えていた」
辺りは暗闇で目を凝らしても、遠くまでは見えないが気配は感じる事が出来る。
魔物の気配も感じねえから今夜は何も無さそうだな。
周囲に気を配りながらも、キリリと話しながらそんな事を思っていた。
□□□□ おっさん(カイト)視点
「そういえばさ、ルリは調子がいいって言ってたよね」
「……はい。とても……何だか力が漲るようです」
「それはね、加護が原因だと思うよ」
「……加護、ですか?」
「メッセージで見たんだけど、『神託の巫女の加護』と『火竜イルグスの加護』がルリに付与されたってなっていたよ」
「……わたしにそんな加護が?」
ルリに見た内容をそのまま伝えると、驚いていた。
「……火属性の加護が凄いですね……十倍ってどの程度のものなのでしょうか」
「だったらさ、空に向かって撃ってみればいいんじゃない? こんなに真っ暗なんだし、明るくなっていいんじゃないかな」
「……分かりました。ファイアボールを使おうと思うのですけど、カイトが後ろから支えてもらっていいですか?」
「別にいいけど……そんなに大層なものなのかな?」
「……何となくですけど……」
ルリの後ろに立って支えようと思ったけど、どう支えればいいんだろ。
少し悩んでいると、ルリが足でアースウォールを使って高さを調整してくれた。
また片手をとってお腹のほうに持ってきてくれた。
「……これでお願いします」
ルリが手を空に掲げる。
俺も空いた手を、自然とルリの手の後ろから支えるように置く。
「……全力で撃ちます……ファイアボール!!」
火がルリの手の上に集まり、大きくなると火球の周囲を赤いリングみたいなものが五つクルクルと回るように動いていた。
ルリの手から離れたファイアボールは、真上に飛んでいく。
すると飛んで行った瞬間に、ホーリーレイを撃った時と同じような衝撃が襲ってくる。このファイアボールは発生する風より衝撃のほうが強くて、吹き飛ばされそうなルリの身体を必死に抑えながら耐えた。
一定の距離を進むとリングが一つずつ消える代わりに巨大化していく。
五つのリングが消えた時、大きく火球が弾けて花火のような巨大な炎となって、夜空を明るく照らして消えてしまった。
「……これは……ただのファイアボールのはず。これでは完全に別物です」
「びっくりしたなぁ……最初は普通だったのに、あんなに大きくなるのか。でも、何だか綺麗だったな」
「……はい、とても綺麗でした」
俺とルリはしばらく夜空に消えていったファイアボールの残り火をしばらく見つめていた。
今のはメラゾーマではない、メラだ。




