二十五話 魔眼の者よ。いや、ダナグアスの使いよ
これは、一体……。
俺はフォーレリアの記憶を見ていたようだった
事の流れは理解している。
だけど、これがフォーレリアの最後なのか。
こんなのってあんまりじゃないか。
俺は途中、何度も叫んだ。
危ないから逃げてくれと。
声は届かなかった。
フォーレリアは神から与えられたホーリーの魔法で海竜サーレスを封印した。
最後は光の粒子のように崩れ去って消えてしまった。
「友を失う、か……慣れぬな」
このロザリアという人が、火竜イルグスか……端から見たら凄く綺麗なお姉さんくらいにしか見えない。
わざわざ名前を変えているのも、とても良く分かる。
古竜と呼ばれる存在がそこら辺に歩いていたら、一般人な俺からしたら気になってしまうし、国や組織の人間であれば放っておかないだろう。
まあでも、その容姿だと普通にしていても目を引くことは間違いないと思うけど。
そこへ、戦闘に王冠をしている人物と、甲冑を纏った騎士の一団がロザリアの前で跪いていた。
王様と思われる人物はマントもボロボロ、頭は包帯を巻いていてさっきまで戦っていたと思われる感じだった。
甲冑を身に着けている騎士たちも同様に、マントは根元からとれていたり引き裂かれている。鎧に至ってはそこら中に返り血と思われる血で汚れていて、一部が欠けていたり削られている跡が痛々しく感じる。
王様が声を上げて話しかけていた。
「イル……」
「ロ・ザ・リ・アだ! 何度言えば分かるさね」
「も、申し訳ない。 ロザリア様、此度の戦いは決着がついたとお聞きしました。我らも急いで駆け付けたのですが、何分魔物の数が多く手こずりました」
この王様、包帯から血が滲んでいるにも関わらず、まだ元気そうだ。
ボロボロな姿を見る限りでは、さっきまで戦っていたような感じだった。
「ロザリア様! 我ら『ファールレン騎士団』はもとより、陛下も先陣を切って魔物の討伐に……」
この騎士の人は隊長なのだろうか。他の騎士と比べると目立つ黄色の鎧をしていた。他にも黒と青の騎士がいるけど、どれも風格みたいなものを感じる。返り血以外は鎧は綺麗なものだし、実力者なのは間違いなさそうだ。
「言わずとも、我は見ておる」
その言葉に、王様を含めた騎士たちは深く首を垂れる。
「この戦いで、我は友を失った。
名はフォーレリアという美しい娘であった。
彼女はその身を犠牲にして海竜サーレスを海の底に封印したのだ。
海竜サーレスを封印した英雄フォーレリアの名を、この大陸に残すがよい」
そこに先程の黄色の鎧を身に着けている隊長らしき人物が声を上げた。
「ロザリア様、この辺りの名は把握しておりますが、フォーレリアという名の者は一人も……」
ロザリアがその隊長に目を向けると、少し怯んだ様子で後ずさった。
その燃えるような瞳が、隊長を焼き殺すかのような視線を向けていた。
それを遮るように王様が話した。
「ロザリア様、承知いたしました。この海竜サーレスの被害にあったガルン大陸の南部をフォーレリア地方と名付け、残しましょう。どちらにせよ、被害のある地域の総称も必要となるので、これで人々はその名を忘れる事はないでしょう」
「ふぅーむ。王よ、お主にしては柔軟な対応よな。では、この『火竜の鱗』をくれてやる」
「こ、これは! こんな見事な『火竜の鱗』を良いのですか?」
「良い。ただ、その代わりと言っては何だが……今回、我の対応が遅れてしまった原因は、各地の情報収集を怠った事がその一つにあると思っているのさ。そこで、王が世代交代するであろう時期に、この大陸の情勢を土産として持ってくるとよい」
「な、なるほど。それは良い考えで……その使者や連絡はどうすれば……」
「使者は、次期王となるものが直接くるのだ。次期王が決まった時に、その鱗に『ファイアボール』でもよいから魔術を当てるがよい。我はいつもの場所におるようにする」
「ではその様に。この火竜の鱗は、国宝といたします」
「国宝とは大げさだね。何に使ってもいいけどね一枚は残しておくんだよ。それと、次期国王が来たら……器かどうかも見てやろうじゃないか。ちゃんと大陸の情勢や気になる事でもいい。それを我に伝えること。そうだ、美味い酒も数本頼んだよ」
それだけ言ってロザリアは海に向かって歩いて行くと、炎に包まれると火の粉をまき散らしながら消えてしまった。
視点がそのまま上空へ移動して雲の上まで到達する。
そこは真っ白な世界で、まるでフワフワとした草原にいるようだった。
その中で、光が少しずつある一点に集まっていった。
その光は握りこぶしくらいの大きさになると、あの神様の姿が現れた。
「ふむ……。本当にその身を犠牲にするとはのう。名は消えたが……この魂……どうしたものか」
俺は外から見ているだけだったけど、不意に神様の目がこちらに向いた。
おや、これはもしかして俺の姿が見えている?
「ほう……。まさか、使いの者がここまで高度な魔法を使い、監視までしてくるとはのう」
「俺ですよ、俺! カイトです! 神様!」
「何を言っておるのか分からぬが……。
魔眼の者よ……いや、闇竜ダナグアスの使いよ」
冗談ではないかのように、神様の目にも魔力が集まり黄金色に輝きだしていた。




