二十話 まさか神託の巫女なのかい
「サーレス様と言うのですね」
「アイツが自分で名乗っていないのなら、それは口にしないほうがいいよ」
静かな口調なのに、有無を言わせない声が響いて私は頷きました。
言われるまでもなく、海竜様がその名を明かしていないのに呼ぶなど恐れ多い事です。
「もちろんです。恐れ多くて言えるはずもありません」
「それにしてもバカな事をする……どうしてこうなったんだい?」
「それは……『海竜石』が破壊されてしまって……」
「私が疑問に思う所は、そこさね」
「破壊されたことに疑問ですか? それは私も思いましたけど、当事者でない限り分からないと思います……」
「そうりゃそうさね。でも、疑問はそこじゃないんだ。いいかい? 『海竜石』をどうやって破壊したのさ?」
「……? 道具か何かを使って壊したのではないのでしょうか?」
「道具だって? 仮にも海竜と恐れられる存在が生み出した『海竜石』が、道具を使ったくらいで破壊だって? それこそ考えられない事さ。本当に人間が破壊したのならね、犯人探しなんて簡単だろうさ。それだけの事をできる人間はごくごく限られている。それでも、いまだに特定に至ってはいない……となると……考えられる範囲もそれだけで大分絞られてくるね」
「そ、それで誰が海竜石を破壊したのか、お分かりになったのですか!」
「……ある程度はね。だが、問題なのは確証がない事さね」
「でも、それを海竜様に伝えればきっとどうにか……」
「それは出来ない話さね」
ロザリアさんは静かに目を閉じて頭を振ります。
その話さえ海竜様に伝えれば、もしかしたらお怒りも静まるかもしれないのに。
「何故ですか!? 皆が困っているのです! この雨も、これ以上続けば滅びることになるとカイおじさんが言っていました!」
「……だろうねぇ。これだけアイツが暴れていれば、じきに大陸の半分は死滅すると言ってもいいだろうさ」
「では、どうして!」
「だから私が来たのさね」
「来たって……例えロザリアさんがどんなに強くても、一人では海竜様のお怒りを鎮める事はできません。王国も、冒険者ギルドもまったく歯が立たないのです……」
ロザリアさんが秘密の武器を持っていて有利に戦えるとしたとしても、海竜様には到底及ぶことはありません。戦いは海竜様が有利な海という場所に加えて、私達人間は海では思うように戦うことができません。
そこが一番の問題点だとカイおじさんが言っていました。
竜を倒す武器を持っていても、海竜様に触れることもできずに一方的な戦いしか行われないと、愚痴るように何度も聞いています。
ロザリアさんは私を見ながら少し笑うように話しました。
「……まったく、お嬢ちゃんが言うじゃないか。フォーレリア、あんたのそういう所は嫌いじゃないよ。だけどね、言う相手には気を付けるんだよ。私は気にしやしないけど、そういうのがカンに触るやつもいるからね」
「えっと……でも、ロザリアさん……海竜様は、その……」
「分かっているよ。フォーレリアがそう思う気持ちはね。ま、信じろとは言わないがこの件に関しては、私が何とかするさ。もう、心配しないでいいよ」
「いきなりそんな事を言われて、はい分かりましたって……」
「ふぅーむ? さっきから、ちょっと気になってはいたけど……あんたまさか……」
テーブルから身を乗り出して、ルビーのような赤い目が私を隅々まで観察するような視線で見てきました。嫌な視線ではないのですけど……何と言えばいいのでしょうか、全て見られているようでいい気分ではありません。
「あ、あのっ! ロザリアさん、そんなに見られると……少し恥ずかしいです」
悪意は無いのが分かりますけど、遠慮のない視線が余計に恥ずかしく感じてしまいます。こんなにじっと見られる事なんて普通はないことですから。
「その銀色の髪に、蒼の瞳……まさか『神託の巫女』なのかい?」
「え? あの……神託の巫女って何でしょうか?」
「知らないのかい? 神なる存在から直接お声を頂戴する事ができるのさ。昔は『神託の巫女』が住まう神殿があってね。それは、とても安らぎに満ちた大地だったのさ。楽園とも言われていたくらいだったんだよ」
「神のお声を頂戴する事が出来る神託の巫女ですか。私がそんな大層なものではないとは思いますけど……その神託の巫女が住まう神殿ってどんな場所なのか気になります……でも、さすがに秘密ですよね?」
神からのお声を頂戴する、とても大切な場所です。これは、簡単に言える場所ではないでしょうけど……なぜかとても気になります。どうしてこんなに気になるのでしょうか。
「秘密なんかじゃないさ。その場所はね、北のアイスパレス大陸にあるのさ」
「そんな大切な場所、話しても良いのですか?」
カイおじさんは、確かアイスパレス大陸のザムイ村に行きなさいと言ってました。これは何かの偶然なのでしょうか。
アイスパレス大陸……あの極寒の大陸に神託の巫女の神殿があった……それに楽園だったとロザリアさんは言いますけど、どうしてそんな事を知っているのでしょうか。
ロザリアさんはそんな嘘をつく人ではないと私は思います。あのアイスパレス大陸が楽園だとしたら、そんな場所を聞いてもいいのでしょうか。
「教えた所で、今は何も無い場所なのさね。何の問題もないよ」
「何も無い……場所ですか」
「ああ、何も無い場所だよ。今は廃墟と化したファルトム神殿さね」
その神殿の名前を聞いた時、私は懐かしさと同時に背中から這い上がるような悍ましさで息苦しくなりました。
病に倒れた作中の神様が寝言で「ブクマなのじゃ……評価なのじゃ……」と
繰り返しうなされているので、面白かったら評価をお願いします。




