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異世界転移のお詫びに嫁をもらいました ~スキルか嫁か決断するためにおっさんは神との約束の地へ向かう~  作者: うららぎ
フォーレリアの過去

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十九話 アイツってそりゃ、海竜サーレスの事さね

お待たせしました!



 □□□□ フォーレリア視点



 酷い雨が続いています。

 海竜様のお怒りが静まらないせいです。


 せっかく海竜様が『海竜石』の台座を作って下さったのに、愚かにも破壊してしまう人がいたからです。それ以来、海竜様の怒りが収まる事がありません。


「はぁ……。今日も雨なんですね、カイおじさん」


「まあ、しょうがないよ。また明日、誰かが生贄にされてしまう。その抽選がどのように行われているかは知らないけど、気分のいいものじゃないね」


「そうですね……こんな状況は絶対に良くありません」


「はぁ……。まったくどうなってしまうんだ、この大陸は」


 私のため息がうつってしまったような深い息を吐いている。

 カイおじさんは身寄りのない私を拾ってくれて、今まで育ててくれました。

 感謝しても感謝しきれないほどの恩を感じています。


 ここ最近……生贄を捧げるようになってからは、いつもののんびりした感じも無くなってしまいました。

 カイおじさんの言うように、連日連夜の豪雨と塩害によって作物も育たなくなってしまい、備蓄していた食料を切り崩していく日々が続いていました。


 そう遠くない将来、食料が尽きた時……一体どうなってしまうのでしょうか。

 私は怖くなってカイおじさんを見ると厳しい目で、窓の外の雨の様子を伺っているようでした。


「このままでは、大陸の半分が滅んでしまうだろう。そうなる前にフォーレリア、君はここから逃げて北のアイスパレス大陸に行きなさい。フートの町の教会に一時的にお世話になりなさい。ザムイ村のカイの名を伝えれば快く応じてくれるはずだからね」


「嫌ですって言いましたよね? また同じ事を言ったら、口を聞きませんよ」


「フォーレリア。そういう事を言うものではないよ」


「それは、カイおじさんもです」


「はぁ……。俺が悪かったよ。しかし、このままだと()()()()しても先は見えない。冗談ではなく、ここを出る選択肢も考えておいてくれ」


「……」


 私は何も言えなくなりました。

 カイおじさんの言ってる事も分かるからです。


 海竜様は、お話を聞いてくれません。

 「不浄な輩相手に会話は不要」と誰とも取り合わず、あるのはただ戦いのみです。海竜様から与えられた『海竜石』を破壊してしまった罪は深いと、カイおじさんは言っていました。


「海竜様は生贄自体を良しとしているようは見えない。元はといえば誰が言いだしたか分からないが、生贄を捧げることで怒りを鎮めようとした。生贄も……最近では効果が見られなくなってきている。この雨が少し弱くなったりするくらいだ」


「その……どうしても破壊された海竜石を修復する事はできないのですか?」


「王国の宮廷魔術師はその海竜石の復元を試みているみたいだけど、一向に研究は進まないと噂されている。海竜様が協力でもしてくれない限り、どうにもならないね」


「そうですよね。海竜様が創り出した海竜石を私達で修復すること……それ自体がおこがましいのでしょうね」


「冒険者ギルドも上位の冒険者たちが軒並みやられてしまって、業務に支障が出ているようだし……少なくとも武力をもって討伐する話はもう考える事はできないだろう」


「海竜様と、お話できないのでしょうか」


「それは無理な話だよ。海竜様は人を『不浄な輩』としていて敵視している。もし海竜様の前に会話を求めたところで、余計な怒りを買ってしまうだろう」



 ―――ドドン! ドドドン!!



 地響きの音と共に、より一層と雨が激しさを増してきました。

 カイおじさんは慌てて窓の外の様子を伺うと、外套とまとって外に出ようとしていました。


「カイおじさん? 今からどこに行こうとしているのですか」


「こんなことは今までなかった……。おそらく次の生贄が遅れているから催促をされているのかもしれない。村長の所に集まって話をしてくるから、フォーレリアはここでおとなしくしているんだよ」


「だったら、私も行きます!」


「それはダメだ! 良くない方向に話が進むのが目に見えている」


「何故ですか! いつも、そうやって私を除け者にする!」


「はぁー……いいかい? フォーレリア、君は目立つんだ。それだけの美しい銀色の髪、白い綺麗な肌に……その美貌だ」


 突然、私は容姿の事を褒められて、声に詰まってしまいました。

 おじさんがそんな事を言うのは初めてでした。


「そ、そんな……いきなり褒めても騙されません!」


「ありのままを言ったまでだよ」


「カイおじさん!」


「そんな君が出れば必ず生贄として、名が上がってしまうだろう。今でも抑えているのが厳しいんだよ……分かってくれ」


 カイおじさんの言う事が本当なら、私が居るだけで負担をかけてしまっていたという事になります。そんなつもりで言ってないのは、私が一番分かっています。……だけど、私は負担をかけていたんですね……。


「……分かりました。でも、ちゃんと帰ってきてくださいね」


「言われるまでもないさ。フォーレリアが拗ねてしまうからね」


「もう! カイおじさん!」


「ははっ。じゃあ、行ってくるよ」


 私は頷いて、カイおじさんを見送りました。

 窓の外に小走りで村長の家に向かっていくカイおじさんの近くに、赤いローブを纏っている人が見えました。激しい雨で見えなかったのでしょうか。色は若干暗めだとしても、カイおじさんなら無視して去って行くことはしないはずです。


 誰かを待っているのか、空を見上げたりしていて雨を気にしている様子もみえません。この雨の中、薄暗い空の下でただじっと立っているのを放っておくことは……私にはできません。


 気が付くでしょうか……窓をトントンと叩いて赤いローブの人を見ますが、気が付かないようです。もう少しだけ強めに叩いてみると、こちらに気付いたみたいで歩いてきました。


 この雨の中、外套も纏わずにローブだけでは全身が濡れてしまいます。

 窓の前まで赤いローブの人がくると、私に話しかけてきました。


「何か用かね?」


 雨音ではっきりと聞こえないはずなのに、直接届くような声が聞こえてきました。何で聞こえたのか、疑問もなく私は答えました。


「この強い雨では風邪をひいてしまいます。よかったら少しの間、家にどうですか?」


 窓の向こうで頷くと、入り口のドアからノックの音がした。

 私はすぐにドアに向かって開けると、赤いローブの人が立っていた。


「ふむ。綺麗なお嬢ちゃんじゃないか。どこの誰だか分からない人を、家に入れてはいけないと言われなかったのかい?」


 その言葉で普段からカイおじさんに言われている事を思い出す。

 みだりに人に声を掛けたり、家に入れたりしてはいけないよと。

 でも、これは違います。雨の中で立ち尽くしている人を放っておけません。それに、この人からはそういう「気持ち悪い」感じはしませんでした。


「い、言われましたけどっ。でも、雨の中ローブしか……」


「ここで立ち話している訳にもいかないね。中に入れてもらってもいいかい?」


「あっ……はい、どうぞ上がってください」


 私は赤いローブの人を家に入れると、その人はまったく濡れていませんでした。

 さっきまでこの雨の中に立っていた人……ですよね。

 私の視線に気づくと、頷きました。


「ん? ああ、私の名前はロザリア。これでも一応は魔……ゴホン! 魔術の使いなのさ」


 ロザリアさんは喉の調子が悪いのでしょうか、途中で咳をしていました。

 やはりあの雨の中に居たせいでしょうか。

 さすがに私もローブ姿の人を見れば魔術使いの人だと分かります。


「私はフォーレリアです。その、そうではなくて。濡れてはいない……な、と」


 ロザリアさんは、この雨の中でまったく濡れていませんでした。

 濡れずにいる……つまりは何かの魔術を使っていたことになります。


「ああ。濡れていない事に、疑問を持ったのかい。単に風の魔術で雨を除けていただけさね」


「そうでしたか。魔術使いの方ですか……あ、立っていても疲れますよね。そこのテーブルにある椅子に座って下さい」


「いいのかい、こんな怪しげな奴に」


「いいんです! ロザリアさんは、大丈夫ですから」


「見た目の割に、いい性格しているじゃないか」


 ははっと笑いながらロザリアはテーブルの席に座ると、一息着いた感じで座った。


「ふぅっ。まったく、この雨……どうしたものか」


 フードを後ろに下げると、そこには燃えるような赤い髪と宝石のような赤い瞳が目に入りました。とても綺麗な人で私はしばらくじっと見入ってしまいました。


「なんだい? 私の顔に何かついているのかい?」


「違います……男の方とばかり思いまして」


「ああ、この声のせいってことだね」


 ロザリアさんは喉のトントンと叩くと声を調節しているような様子でした。


「あの……何を?」


「これはワザとさ。男とも女とも思わせない、記憶も残らないように魔術と掛け合わせて声を発しているのさ」


「わぁ……とても綺麗な声ですね!」


「それをフォーレリアが言うかねぇ」


「どうしてでしょうか?」


「これは保護者も大変そうだ。しかし、フォーレリア一人じゃないか。男はどこにいったのさ」


「えっと、カイおじさんなら村長さんの家に向かいましたけど」


「ふぅーん? 生贄ねぇ。それはアイツが要求したってことなのかい?」


「アイツって、誰でしょうか?」


「アイツってそりゃ、海竜サーレスの事さね」


 そう言うと、ロザリアの燃えるような髪が一瞬蛇のように揺らめいて見えた。



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