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異世界転移のお詫びに嫁をもらいました ~スキルか嫁か決断するためにおっさんは神との約束の地へ向かう~  作者: うららぎ
フォーレリアの過去

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十七話 いくら魔力を使ってもいいから視せてくれ



 一人の少女が海竜を鎮めた……前に似たような話を神から聞いたような気がするな。あの時は、確か「荒れ狂う海をなだめるために神に供物を捧げていた」って言ってた。ひょっとすると少女が海竜を鎮めたという話と関係あるのかな。


「……それは、その……その少女はどうなったのでしょうか」


 一般的に伝わっているような話だったら、ルリの「知識」から引き出せるから話を聞く必要もないのだろうけど……ここで聞いているというのは知らないからなんだろうね。


 無意識なんだろうけど手が閉じているし、それくらい気になるってことか。

 それに何だか少し様子が変だな……顔色が悪いのかな。


「いきなり結論から話すのも、無粋でしょう。少し座って話ましょうか」


 ハースさんは焚火の近くに座ると、ルリも続いて近くに座った。

 俺もルリの横で聞いておこうかな。


「その昔、このフォーレリア地方と呼ばれる場所は、草木も生えない荒廃した大地だったようです。今では湖があり、花や木々が生い茂り野鳥が自由に空を飛んでいます。もちろん、魔物もいますけどね」


 ルリはじっと焚火の炎を見ているだけで、何の反応もない。

 ここが荒廃した大地ってまったく想像できない。

 それくらい、普通の土地としてしか見えないし実感できない。


「その荒廃してしまった理由が、海竜サーレスの怒りです」


「……海竜サーレスの怒り……どうして怒ってしまったのでしょうか」


「海竜サーレスは本来、漁業を営む人の守り神だったのです。人は海竜サーレスに供物を捧げることで、海竜サーレスは海の平穏を約束していたそうです。それがある日、供物を捧げていた台座が何者かによって破壊されてしまったのです」


「……それは、誰が破壊したのでしょうか」


「分かりません。その台座は海辺で取れる『海竜石』と呼ばれる石で造られたもので、海竜サーレスの祝福を受けた台座なのだそうです。海竜石は取れる場所が見つかれば人が押し寄せるくらい、今では高価なものなのです。その祝福を受けた海竜石は例えどんな嵐であろうとも、石の周辺の海を穏やかなものとして、いつでも漁業が行える……そんな奇跡の石だったのです」


「……それは……それだけの奇跡を与えた石を……例え理由があったにしても破壊されたとすれば、怒るのも分かります」


「そうですね。それだけの恩恵を受ける台座をわざわざ破壊する理由が見つかるはずもありません。海竜サーレスは怒り、どんなに人々が話をしようとしても聞く耳を持ちませんでした」


 穏やかじゃないなぁ。結局、その『海竜石』で作られた台座が誰かに破壊された事によって、海竜が怒ったのがきっかけなんだよね。誰がそんな意味のない事をしたんだろうか。昔の話なんだろうし、そんなの分からないだろうけども。


「……そう……ですよね……」


「海竜サーレスの怒りは凄まじく、常に天候は嵐のような大荒れが起こりました。それが海辺だけにとどまらず、ガルン大陸の中腹部までに及んだそうです。この大陸の中腹部ですよ? それだけで海竜の怒りと力の凄まじさが分かるというものです」


「……大陸は塩害に襲われ、大地は痩せこけ荒廃した……そういうことですね」


「はい、その通りです。誰も海竜を止める事ができなかった。冒険者ギルドの人間も、王国ですら海竜を倒すことは出来なかったのです」


「……当然です。海竜はその名の通り、海を統べる王。海に限った戦いになれば、例え四大古竜といえど……勝つ事は難しいでしょう」


 海竜ってそんなに強いんだ。海限定というのは分かるけど、サンダー系の魔術で終わりそうな気がするんだけど、そうでもないのか。まあ、俺が思うことなんてみんなやっているか。それでも、ギルドや国が出張っても討伐できないか。


 それに四大古竜ってなんだろう。古竜っていうくらいだから竜なんだろうね。古い竜……強いんだろうけど……。後でルリに聞いてみるかな。



「四大古竜ですか。その魔術使いも言ってました。古竜を冠するものは世界を守護する竜だと。ただ、私達はその古竜について知っているのは火竜イルグス様くらいですけどね」


 火竜イルグスか……この辺りは火竜の支配下ってことなのかな。

 話を聞く限りでは、支配されているような感じはしないね。

 守護する竜の名の通り、護られているってことなのか。


「……あの、続きを……」


「すみません。話がそれましたね……連日大雨によって各地で洪水が起こり大飢饉の一歩手前まで進んでしまいました。人々は海竜の怒りを鎮めるために、生贄を差し出すようになったのです」


「……どうして生贄を差し出す事になったのでしょうか」


「それは分かりません。ただ、生贄を差し出した日は連日の大雨が嘘のように止まったそうです。翌日になると、また大雨だったみたいですけどね。ですから生贄を捧げる行為は、止まらなかったのです。しかし、生贄を捧げる行為も次第に効果が無くなっていきました。そして、選ばれたのが村で一番美しいと言われたフォーレリアが生贄に選ばれたのです」


「そのルリに似ているというのは容姿の美しさという事ですか」


 俺は会話に割って入った。

 美しさという特徴だけでルリに似ているのなら、他にもいそうだからね。


「それがですね。フォーレリアはそれは美しい銀髪だったのですが、その目は深い蒼色をしていたそうです」


「そういう目をした人が少ないからという話ですか」


「そうですね。少なくとも、このガルン大陸ではそこまで深い蒼色はあまり見かけませんね」


 ルリを見ていると焚火を見つめているだけで、俺の視線に反応していなかった。

 いつもなら、すぐに見返してきているはずだから、ルリの中で考える事が多いのだろうか。


「生贄とされたフォーレリアは海竜サーレスと奇跡的に会話ができたそうです。その会話も結局は海竜を説得する事が出来ずに、フォーレリアは海竜サーレスに食べられてしまいますが、奇跡の光……『ホーリー』によって海竜を倒しました。フォーレリアは英雄と称えられこの地は『フォーレリア』地方となった訳です。まあ、私も魔術使いから聞いて初めて知ったのですけどね」


「でも、食べられてしまうと言っていたのに、倒したってどういう事なんですか」


「それがですね、その魔術使いの人も分からないみたいでした。ただ、結果倒したと、そういう話でしたね。その『ホーリー』は聖なる白銀のような清らかな光だったと、その魔術使いは言ってました。その光を、先ほどルリさんの魔術で見たので、まさか……と思ったのです」


 それにしても随分とまあ、話題がタイムリーすぎないかね。

 ハースさんは取引で、たまたま聞いただけなんだろうけど。

 商人の耳にすら入ってこなかった情報を知ってるって、その魔術使いって偉い人だったりするのかな。


「ハースさん。その魔術使いって、偉い人なんですか?」


「私も取引に応じただけなので素性は分かりません。赤いローブを身に纏った男でした。フードを深くかぶっていたので顔は見えませんでしたけど。声は……ちょっと思い出せないんですよね」


 声が思い出せない……顔も確認できなかった相手の声を忘れる事なんてあるんだろうか。しかも、ここに来る前にってハースさんは言ってた。そんな最近の事を忘れたりするのかね。


 不思議に思って、ルリはどうかと聞こうとしたら、体育座りをしたまま膝を抱えて顔を埋めていた。


「ルリ? どうかした?」


 揺さぶっても顔を上げないから、頭を起こしてみると真っ赤になっていた。

 少し呼吸も荒い。額をさわると、熱くなっているのがすぐに分かった。


「ルリ! なあ、ルリ! 大丈夫か?」


「……は……い」


「全然大丈夫じゃないだろ! ハースさん、何か地面に敷くものありませんか?」


 ハースさんはすぐに、布のような敷物を持ってきてくれた。

 装備品だけ脱がせて、ルリを横にしてやる。

 相変わらずのボリュームで視線が釘付けになりそうだったけど、とにかく熱が酷い。呼吸も少し荒いせいで、苦しそうに見える。


 水が入った桶と、手ぬぐいを水で浸して持ってきてくれた。

 少し手ぬぐいを絞ってルリの額に乗せる。

 大丈夫なんだろうか……かなり熱かったんだけど。


「ルリさん大丈夫でしょうか。急に熱を出すなんて……風邪とは少し違いますね」


「え、こっちも風邪なんてあるんですか」


「こっち? ああ、お二人はカルレアからですよね。こちらも風邪といいますよ。大陸によって呼び名が違ったりもしますけど、そこは同じですね」


 手ぬぐいの上からでも、かなりルリの熱が高いのが分かる。

 あまり高熱だと、脳に悪いっていうよな。


「薬みたいなものは無いんですか?」


「薬は非常に高価なものなんですよ。どんな病気かも分からずに薬を使えば副作用で悪化する場合もあります。もちろんルリさんにならお渡ししたいのですけれど、在庫を切らしてしまっているのです」


「そうですね。薬があったとしても、すぐに飲ませられないか」


 言われてみれば、何の病気かも分からないのに薬は飲ませられない。

 ルリの熱は酷いな、手拭いの水もすぐに温くなってしまう。

 このままだと、危険な気がする……こういう変な予感だけは当たる事が多いから何とかしないと。


 何とかするといっても、魔術くらいか。

 ルリから基礎だけ教えてもらったのに、まったく使えなかった。

 誰でも使えるライトボールですら、すぐ消えてしまう有様だし。


 ルリの額から放出される熱量が強くなっている。

 このまま熱が上がり続けたら、どうなってしまうんだろうか。


 いや、それ以上考えるな。

 視る……これが魔眼だというなら、何が原因なのか視せてほしい。

 何となく使っていた魔眼を初めて、俺自身がその力を使いたいと思った。

 魔術だって使いたいけど、そんな話じゃない。

 ルリがこのままじゃ、危険なんだ。

 ()()よ、いくらでも魔力を使ってもいから……



 ――― () () () () () !



 目にビリビリとした痛みが走る。

 痛みとか今はどうでもいい。


 視界が完全に暗転する。

 深く入り過ぎた時と同じ現象だ。

 正直に言えば怖い……でも、ここでルリを放っておくことはできない。


 深く……もっと深く視る。

 俺自身がどこにいるのかさえも、分からないくらい暗闇だ。


 どこだ……どこが悪いんだ……。


 探し当てた! これか……これが原因なのか。


 それは、神から受けた魂を入れた場所。

 ルリの心臓部に収めた、魂の魔力が歪んだように脈打っていた。



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