十五話 今から魔術を教えて欲しい
□□□□ カイト視点
正直、ルリがこんな事を言うなんて思ってもみなかった。
ちゃんと考えていたんだ。
悪かったと思っていたのか。
いつもあまり表情を変えずに人形みたいなイメージがあった。
出会った頃から人間味がないなと思いつつ接していた。
分かっていないのは、俺のほうだった。
最初から助けた事もちゃんと言っていれば、ここまで思い込まなかったのだろう。それがきっかけでどんどん悪い考えになってしまったのか。俺が何も言わなかったせいで、拍車をかけてしまったのかもしれない。
俺はルリの頭を撫でながら話をする。
「俺が言わなかったのは、助けた事を知ったら落ち込むんじゃないかと思って言わなかっただけなんだよ。一人で助けられると言っていたからさ、助けられたと知ったらって思ったら、言ってやることができなかった」
「……でもっ、わたしは……」
頭をなでる手を止めずにルリの話を遮って続ける。
「それに、俺はルリに人形みたいだって酷い事を言ってしまった。ごめん」
ルリが何を言っても悪かったという言葉しか出てこないだろうと思うから、俺も謝ろうと思っていた事を伝えた。
「……それは気にしていません。わたしは……」
「別に感謝なんてされなくてもいいんだ。さっきも少し話したけど、俺自身は全然大したことはしていないし、ルリが助けたんだからそこは胸を張ってもいいよ。キリリもそう言ってたよね」
ルリが俺の背中に手を伸ばして少し強めに抱きついてきた。
まだ納得していないのだろうか。
「結局、俺が助けなくてもいいって言ったのが悪かったんだよ。もし、あの時ルリが助けるって言わなかったら、ウォルフもキリリも……もしかしたらハースさんたちも生きていなかったかもしれない。だからルリの行動は立派だよ。自分勝手だったとか思わなくていいんだ」
ルリは生まれたばかりだと同じだ。
いくら知識があっても、感情が追いつかない事だってあるだろう。
だから、そこは少しずつ成長してくれればいいと思う。
俺からみれば、ルリは十分立派だ。
今だに煮え切らなくて、逃げている俺とは違って。
「分かってくれた? まだ納得いかない?」
ルリは止まったまま動かなかった。
まだ、少し納得いかないのかな。
「だったらさ、今から魔術を教えて欲しい。使ってみたいんだ、この世界で自分の手で魔術を」
ルリがようやく顔を上げてくれた。
少し目が赤くなっているけど、落ち着いたみたいだった。
「……そんな事でいいのですか?」
俺は頷くと、ルリは俺の手をとって手のひらを重ね合わせた。
重ね合わせた手のひらが暖かい。
俺の手のひらのほうが大きくて、当たり前だけどルリの手のひらは小さい。
そうだよな。こんなに小さいんだよな。
それであんなに戦えるんだから凄いよ。
「……今から唱える言葉を復唱してください。わたしの魔力の流れを視てもらえれば……きっと使えると思います」
魔力を視るのか……とは思ったけど、ルリがいる。
今度は急に深く視なければ問題ないだろう。
意を決して、ルリを視ると魔力の流れが指先に集まっていた。
俺は同じように魔力を集めてルリと同じように指先に集める。
「「……光よ集いて闇を照らせ……ライトボール!」」
指に集めた魔力が一点に集まって、とても小さな光球が浮かび上がった。
人差し指の爪くらいの大きさしかない小さな光球だった。
けれども、それは確かに俺が唱えた魔術で発動したものだ。
「おお! できた! できたよ、ルリ!」
小さな光は十秒もしないで消えてしまった。
だけど俺は満足だった。
だって、初めて魔術が使えたのだから。
そしてルリは優しい顔をして、夜の帳を明るく照らすような笑顔を見せていた。
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ああ、町が遠い。