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十三話 お二人は仲が良いのですね



 逃げられた。つまりはルリが放ったホーリーレイは、千里眼を持っている相手には当たらなかった。


 ほぼ直線で撃った瞬間に山に消えて行った、あの威力の魔法でも当たらないのか。

 勝手なイメージだけど高位の魔術って百発百中なのかと思っていたけど……。


「外しちゃったか」


「……いえ。命中した手応えはありましたけど、少しかすった程度ですね。もう一度撃てば、今度は確実に当てられると思います。今ので感覚はつかみました」


「いやいや、よくあの距離で当てたね。かすっただけでも凄いよ」


 考えてみれば、ルリはどの魔術も使うのは初めてなのか。

 知識としてあるだけの魔術を使って当てる事ができる。これって凄い事なんじゃないか。


 後ろから抱えていた手をルリが少し強く握ってきた。

 そうだった。

 魔術のあまりの凄さに忘れていたけどルリに触れたままだった。


 俺は慌ててさっとルリから離れた。


「ご、ごめん。さっきの魔術の凄さに忘れていたんだ」


「……嫌だとか、そんな握った訳ではありません。……次は当てますから」


「いや、さすがにもう逃げたんだし、いいんじゃない? どうかな、ウォルフとキリリは」


 ウォルフとキリリを見ると驚いて口を開けたままだった。ハースさんも驚いた様子でルリと遠くの山を見比べていた。


「あ、ああ……。あんな魔術使われたらよ、監視しようなんて気なんざ起きねえだろうし、いいんじゃないか?」


「あたしもウォルフと同じ。逃げたなら無駄撃ちはやめておくべきね。何かあった時のためにも魔力は温存するほうがいいわ」


 ウォルフの言うように、あの魔術を目の当たりにしてまた監視するとは考えにくいだろう。仮にまたあったとしても別の人になるだろうし、あんな遠方じゃなければルリが見つけてくれるだろうから大丈夫かな。


 もしものための魔力の温存か……ルリの魔力量って実際どんなもんなんだろう。ちょっとルリに聞いてみようか。


「さっきの魔術って、あと何発くらい撃てるのかな?」


「……正確には分かりませんけど……十発くらいが限度でしょうか?」


 よっぽど驚いたのか、キリリが割って入ってきた。


「な、なにそれ! あたしがさっきの魔術撃てたとしても、二発が限界だと思う。割と魔力量には自信あったんだけど……。ねえ、ウォルフ! もう年なの? あたしが年だっていいたいの!?」


「おちつけって。まだ十九だろ。そうやって俺を巻き込むのはやめろ」


「最近の若いのは、十七になったら年を取り過ぎたお婆って話じゃないの」


「まてまてって。そんなの俺は初めて聞いたぞ。何で年を絡めてくるんだよ」


「だってさー。ルリなんて若くて凄く可愛いじゃないの。若さも容姿も魔力量でも負けたら、あたしはどうすればいいのよぉ」


「あー、はいはい。分かったって。この依頼が終わったら、飯おごればいいんだろ」


「さっすがウォルフ! 分かってるじゃないの。十九のお婆ってのも、そんなに悪いもんじゃなかったわ」


「まったくよ。まあ、心配もかけちまったしな。しゃあねーか」


 ルリが肩を震わせていた。どうしたのかと思ったけど、少し笑いをこらえているような感じだった。耐えられなくなったのか控えめな笑いが、その可愛らしい口からこぼれた。


 そんな笑う場所なんてなかったかもしれないけど、最初に会った時からルリって人形のイメージしかなかったから、俺はちょっと驚いた。普通に笑うと全然可愛いものなんだな。


「……ぷっ、ふふっ。お二人は仲が良いのですね」


 ウォルフはちょっと照れ隠しなのか、ぶっきらぼうに言った。


「あー、そうだな。腐れ縁だからよ、こんなもんさ。なあ、キリリ」


「まー、そうね。でも、あともう一人アホなやつがいないとしっくりこないわ」


「……そうだな。どうにかしないとな」


 そこにハースさんが入ってきて話してきた。

 さすが商人というのかタイミングがいい。


「さて、ルリさんのおかげで監視している人を追い払ってもらったので、しばらくは安全でしょう。またルリさんに助けてもらった形になりましたね。ありがとうございます」


「さっきの魔術おかげで忘れてたけど、助かったぜ。ルリ」


「まったく、この距離で当てるんだからね。ありがと、ルリ」


 みんなから感謝されて、またルリはこっちをチラチラと見てくる。まあ、実際にルリしか活躍していないから当然だね。何で物言いたげな感じでこっちを見るんだろうか。


「……あの、私はただ撃っただけで……」


「それで追い払ったんだから、もっと胸張っていいわ! あたしが許しちゃう」


 キリリがちょっとふざけて言うけど、ルリはちょっと困った表情をしていた。


「ほら、そこのあんたもルリを見習って、少しは格好つけられるくらいになりなさいよね。旦那なんでしょ」


「た、確かにね。頑張るよ、ははは……」


 笑いながらキリリに背中を叩かれた。

 まったくその通りなので情けない限りだ。

 魔術を使って華麗に活躍とかしたいよなぁ。


 手を突き出して「ファイアボール!」って感じで魔術を使ってみたい。

 やっぱりルリ先生から魔術を教わらないといけないな。


「さて、日が暮れる前にもう少し歩いてから、野営ができる場所を確保しましょうか」


 全員頷くと、再び街へと向かって歩きだした。


 今度は歩いている時には会話はほとんどなく、黙々と歩いている。

 話をしていて気にしていなかったけど、この周辺は何もない。


 幾人もの歩みで踏み固められてできた道が続いている。

 木々や雑草などが多い。初めて来た時のような硬い葉もない。

 森を切り開いただけで、あとは人が歩くのに任せるような足場がよくない歩道だ。


 前方を歩いているウォルフとキリリを見ると少し様子が違って見える。普通にしているように見えて、どことなく周りを見ているような、そんな感じがする。また襲撃されるような事があったら失敗は許されないだろうし、気にもするか。


 異世界でも同じような晴れた空が見える。

 空の色がほんの少しだけ茜色に変化していた。


 馬車がゆっくり徒歩に合わせるように進んでいて、その後ろを歩いている。ただそれだけなのに、旅してるなぁって思ってしまう。


「この辺りは何も出てこないのかな? 俺は、灰色の狼にあったりしたけど」


 ウォルフが振り返って、俺のほうを見てくる。

 何言ってるんだこいつみたいな目をしているんだけど。


「灰色? グレイウルフの事か。あんなのただの犬みたいなもんだぞ。入りたての冒険者とかが討伐したりするレベルだ」


「え、そうなの? 凄い殺気で殺されるかと思ったんだけど」


「殺気だぁ? あんな犬コロにそんなのあるはずないだろ。腹減って殺気立ってただけだろ」


 入りたての冒険者が倒せるレベルなのか。

 やっぱりルリに護衛してもらって大正解じゃないか。

 初めてあんなに強烈な殺気を受けたけど、そのレベルが最低ラインって……。


「……グレイウルフは本当に大した事はありません。一対一であれば、追い払うだけなら村人でもできる程度です。そんな殺気を放てるとは考えにくいですね。……もし場所が分かるのであれば、討伐しておきたいところです」


 大した事ないのにルリは何で倒したいんだろう。

 狼に個人的な恨みがあるとか……それはないか。


「放っておけば、誰かが倒してくれるよ」


「……そう……でしょうか……」


 ルリが何ともいえない顔しているんだけど、余計な事を言ったのかな。

 それも数秒の事でまた普通の顔になっている。

 そのまま見ていると、向こうもじっと見返してくる。


 この勝負は負ける訳にはいかぬ。今度は勝つ。


「むむむっ!」


「……どうかしましたか?」


「い、いや別に。何かもうすっかり暗くなってきたと思ってさ」


 だめだ。ルリの瞳は純粋過ぎて、どうしても先に視線を逸らしてしまう。

 決して俺にやましい事があるとかではないんだ。

 だってさ、スキルもらったらって考えるとね。


「……そうですね。野営でしたら、この辺りでしょうか」


 ルリが言うと、ハースさんが声を上げて皆に伝えてきた。


「みなさん、もう日も落ちてきてこれから暗くなります。この辺りが丁度場所も確保できて良さそうなので野営にしましょう」


 ウォルフが荷馬車からロープで縛られた薪を持ってくる。

 受け取ったキリリには薪を数本、置いて待機している。

 ウォルフは近くにある小さめの岩を素手で砕いて(・・・・・・)キリリの置いた薪の周りに並べて囲んでいった。


 何というか、とんでもないバカ力してるなぁ。

 いつもの事みたいにキリリは平然していて魔術で火を付けていた。


「あのさ、何かすることある?」


「もう準備もねえからなぁ」


「テントとかないの?」


「あたしの乗っていた荷馬車が転倒したおかげで、テントは使い物にならなくなったの。今夜はみんなは雑魚寝になるわ」


「飯の準備とかは?」


「野外の時の飯は大体が携帯食なんだよ。もうすぐ街だし、そんなガッツリ食わなくても問題ねえよ」


「これが討伐目的の野営とかだとまた別になるわ。討伐前に携帯食なんて場合によっては、士気も落ちる事があるけどね。そこはパーティーの方針によるかな」


 キリリがウォルフの後に説明を続けてくれた。

 しばらくしてハースさんが奥さんと娘を連れて歩いてきた。


「みなさん、すみません。もう少し荷物を減らそうと思うので、食事はこちらで作ろうと思います。出来るまで少し時間がかかりますから、適当に休んでいてください」


「いや、ハースさん。依頼主にそんな事は……」


「いいんですよ。ルリさんやみなさんのおかげで助かったので、お礼です」


 ウォルフは断ろうとしていたけど、キリリに蹴りを入れられて止められていた。絶対に痛くないのにキリリに蹴られると、「いてっ!」と言ってるところが優しいねと思う。まあ、言わないと魔術使われる可能性もあるのかもしれないけど。


「ご厚意に感謝します。あたし達は休憩していますけど、きちんと見張っておきますので」


「分かりました。料理ができたら、お呼びするので自由にしていてください」


「……では、わたし達は向こう側で休憩させてもらいます」


 ルリが指差した所は、道を挟んだ向かい側の場所だった。

 あのくらいの距離なら声が届かないくらいの場所か。


「分かりました。少し時間がかかるのでゆっくりしていてください」


 ハースさんの言葉を受けて、ルリは道の反対側に歩き出した。

 俺はルリの後ろをついて歩く。

 一体、何の話をしてくるのかと思ったけど……何度かこっちをチラチラ見ていたからその内容なんだろうな。どんな事を言われるのか、少し不安になりながら後ろ姿を見ていた。




次回、ルリがチラチラ見ていた原因が分かります。

評価、ブックマークありがとうございます。増えると投稿速度も上がるかも。


□ ルリのいきなりインタビュー □

ルリ「ウォルフさんとキリリさん、仲が良いですよね。どう思いますか?」

おっさん「確かに仲良いね」

ルリ「仲が良いですよね。じーー」

おっさん「そ、そうだね」

ルリ「じーー」

おっさん「うわああああ! どうすればいいんだああああ!」

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